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中学・高校受験:学びネット

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2019/1 塾ジャーナルより一部抜粋

校塾連携の今とこれから
ー学校と塾・予備校・受験産業との連携を考えるー

 

小畑力人:大阪初芝学園常務理事(教育改革を担当)
平井正朗:初芝富田林中学校高等学校校長

 
     

これまでの学校と塾の関係は?

 学校と塾・予備校の関係性、相互に果たしてきた教育の営為をどのように考えるかは、日本の教育をめぐる重要な論点の一つです。これは、幼児教育に始まり初等教育(小学校)から中等教育(中学校・高等学校)、そして高等教育(大学・短大・専門学校)に連なる一貫した教育構造として捉える必要があります。さらには、「予測困難な時代、生涯学び続ける学生の育成」(学士課程答申:中央教育審議会)が謳う生涯教育、社会教育にも及ぶものでもあると考えます。

 幼児から生徒そして学生へのそれぞれの発達段階に於いて学校と塾・予備校は、相互に、かつ〝分担的〟に教育を担ってきました。そこには、連携による教育効果の向上と新たな可能性が望めるにも拘わらず、いたずらに「対立的」関係が醸成されてきました。「塾通いは子どもの自由な時間を奪う」等の言説があり、学校サイドの「上から目線」の塾批判がまかり通ってきました。そのなかで、古いタイプの私立進学校が口にしてきた「塾いらず」は、私学の学費負担を「軽減的」に理由づける説明方法の一つだったと思います。そこでは、生徒の「塾通い」をする時間まで学校に拘束することによって、時として深夜に及ぶ教員の長時間労働を生んできました。「学校はブラック企業か?」突きつけられたこの〝問〟に学校は答えなければなりませんが、その一つの〝解〟が塾との関係にあるでしょう。

学校教育と塾産業の連携についての一研究〔先行研究〕

 校塾連携のこれまでと〝今〟についての先行研究として「学校教育と塾産業の連携についての一研究」日本教育大学院大学の特定研究費助成金による共同研究(黒石・高橋)があります。論文は、塾と学校の連携の現状として6つの側面を指摘しています。①塾講師派遣による授業提供、②学校の受験生(生徒)募集支援、③教員研修および教員紹介・派遣、④テスト提供、⑤教材提供、⑥コンサルティングです。ただし、現状ではビジネスとして成立している部分と、学校との関係維持・強化という観点からビジネス外で提供されている部分があることを明らかにしています。

 そして、今後の展望として、①学校教員と塾講師による研究会や塾における学校教員研修、塾から学校へのキャリア・パスの構築といった学校と塾における人材交流、②経営不振に陥った学校の塾による経営代行や私立学校に対する校長の斡旋、③子どもを中心とした生徒指導における連携等、様々な連携の可能性を示唆しています。

 2020年大学入学新テストが始まります。しかし、この改革は1990年の共通一次試験から大学入試センター試験への〝制度改革〟とは異なります。周知の通り高校と大学の教育改革を踏まえた高大接続改革としての入試改革であり、その後に続く教育と入試の改革の始まりです。そこでは、校塾連携の〝これまで〟と〝今〟を超える可能性の拡がりのなかで、新たな校塾連携の構築が問われるものと考えます。( 図1参照)

2020大学入学新共通テストに始まり、急展開する教育改革・入試改革と校塾連携

 幼児教育から初等・中等教育そして高等教育に至る教育改革と、それぞれの教育段階の間にある入試を含む接続の問題があり、そこでの接続改革が課題になっています。その文脈のなかで、2020大学入学新共通テストの実施と国公私立大学の入試改革を捉える必要があります。英語4技能と「民間テスト」利用、新共通テストの「記述問題」、教科・学科を超える「合科目」出題、正解は一つでない出題等々、新しい学力が問われるとともに、受験に向けた学習指導と対策が求められます。

 そして、2023年「新高等学校学習指導要領」にる大学入試が実施され、2024年以降には、プログラミングや統計等の情報科目の導入も検討されています。さらに、その先にはAIが進展するなかで教育の劇的な変化も予想されます。各学校は、これまでは考えられなかった急速な教育改革が求められることになります。学校はこの変化のスピードについていくことができるのか、学校と塾・予備校・受験産業・民間教育機関との新たな連携が必然的に求められると考えられます。(図2参照)

 先日、某出版社主催のリーダース・フォーラム「教育ICTカンファレンス2018」が開催されました。そのパネルディスカッションに経済産業省の浅野大介氏が登壇され「未来の教室」について熱く語られました。学習者が主体的で「個別最適化」された学びを得るための「一斉・画一型の教育方式」への挑戦、これこそ塾の教育が実践してきたものだと思います。この「未来の教室」は、大学教育の未来を考える上でも注目すべきものです。自身が会長を務める「観光ホスピタリティ教育学会」の全国研究大会(2019年6月)のテーマにする予定です

芝富田林中学校高等学校の試み

 今春、初芝富田林中学高等学校に平井校長が赴任し、常務理事小畑とともに教育と学校の改革に取り組んでいます。ミッションは、「立命館グループの学校として、大阪府南部に確固とした地位を占める進学校の復活と新たな教育を創造する学校づくり」です。そこで、これまでの教育活動とその成果について全面的に精査しました。創立34年の学校の歩みを振り返り、学校評価を軸に、有識者、卒業生、保護者会本部役員等と懇談会を設けて議論するとともに、塾の先生方とのヒアリングを実施しました。勿論、本校の先生と密接に対話・議論するなかで現状の課題を整理しました。その結果、「定着度」ではなく、「量の消化度」で先に進む傾向があり、生徒は量を処理することに追われ、定着度が低くなり、大学合格という進路保障に大きな問題点を抱えていることが、浮き彫りになりました。その他にも改善すべき点は多々ありますが、順次、〝大胆かつ柔軟に〟対応して改革を進めます。同時に、全教職員が〝チーム学校〟を意識し、一人ひとりの生徒が確かな〝伸び〟を実感できる授業を提供するカリキュラム・マネジメントが不可欠であることも確認しました。

7時限授業を6時限授業へ
生徒の可能性を引き出す時間を創出

 在校生の教科別到達度状況(偏差値推移)、卒業生の進路状況、次期学習指導要領、働き方改革等、様々な事象をあらゆる角度から検証、総合的に判断して、2019年度から全学年とも現行の7時限~8時限授業を、月曜~金曜をすべて6限にする(土曜は4限)ことで合意形成しました。1~6限は、本校の教員が基礎・基本の指導を徹底し、積み残しがある生徒には、放課後、教科担当者が個別指導(指名)で定着を図ります。中学の基礎・基本とは、検定教科書レベル、高校は、センター試験で例年、その8割近くが出題されると言われる高1~2内容のことです。

 発展的学習を望む生徒には外部講師による特別講座(オプション、校内予備校)を設定し、国公期立2次(前中後)対策までの〝合格答案づくり〟をマスターしてもらいます。講師は、予備校講師と受験指導に優れた本校教員が担当します。勿論、オプションですから校外の塾や予備校に行くのは自由です。校内予備校は、7~8限を使って中3~高3まで実施し、教科は英語・数学を基本とします。高2は国語、高3は国語、理科(化学、物理)を加味する予定。中1~2は、現在、取り組んでいる本校教師による自主講座(英語・数学)を継続します。平常の授業時間を減らすことは単なる生徒の負担減という意味ではありません。一番の目的は、量から質への転換を図り、放課後7~8限を使って積み残しを解消する、もしくは得意教科をさらに伸ばすという〝学び方の選択〟を導入し、よりきめ細かく指導するシステムにスクラップ&ビルドにしたということなのです。(図3参照)

教育改革は教員の働き方改革、そして、働き方改革は教員の「教育力向上」改革です

 一方、教員は授業研究、入試問題分析の時間、クラス担任は生徒一人ひとりと対峙する時間を確保でき、今まで以上に手厚い指導が展開できます。またアウトソーシングした外部講師と連携することによって、ティーチング・スキルを練磨するだけでなく、大学入試の最新情報も入手することが可能になります。この教育改革は、教員の長時間労働を是正する学校の「働き方改革」でもあるのです。さらに言えば、教員の働き方改革は教員の「教育力向上」のための改革でもあるのです。毎朝実施の10分テストは授業の中に組み込みます。5教科を教科で実施し、基本的には単元ごとに、目標を〝見える化〟した上で、小テストを行い、誤答分析(教師の十分な原理&解法説明)して、完全理解と定着を求めます。教科によって特性があるため、実施時期、時間、回数は異なりますが、各回の試験では前回の類題も含めて出題し、スパイラル形式で積み上げられるようにします。大学入試ではすでに、教科横断的、探究的アプローチに関する問題が出題され始めています。教科間でのバランスよい習熟が背景知識につながり、入試対策として最大の効果を発揮する。この一つ一つの教育実践が教員の教育力の向上につながると考えます。

 生徒一人ひとりとしっかり向き合い、個々の学力を伸ばす指導を〝チーム初富〟で取り組むことによって、生徒の夢の実現に近づくよう努力していきたいと思います。ビジネスの世界の「顧客満足は従業員満足から」を学校の「生徒(保護者)満足は教職員満足から」の試みを初芝富田林中学校高等学校で進めます。

校塾連携の〝これから〟

 これまで述べてきた改革は、文部科学省『論点整理』(2015)の「教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせる」と符合します。これを考察し働き方改革も併せて考えると、今後ますます校塾連携の可能性も拡がると思います。

 その校塾連携を推進していく上で両者の役割をしっかり棲み分けすることが重要です。あらためて、それぞれが担う教育領域を明瞭にして、社会的にも「説明責任」が果たせる教育機関としての関係性を構築することが校塾連携の〝これから〟を拓くと考えます。


平井正朗氏 プロフィール

初芝富田林中学校高等学校校長、大阪市教育委員

 私学教育一筋。私立中高の学校経営や英語教育に精通。京都、兵庫の名門私立中学校高等学校の要職を歴任し、斬新な組織改革で進学実績や学校評価をV字回復させてきた。国際教育学会理事、全国英語教育研究団体連合会理事(近畿地区)、京都府英語教育研究会連合会連絡協議会会長歴任。大阪初芝学園理事。


小畑力人氏 プロフィール

大阪初芝学園常務理事

 関西文理学院(予備校)進学指導部長。大学受験誌「栄冠をめざして」発刊に関わる。立命館大学入試部長。入試改革に取組み「志願者10万名入試」達成。和歌山大学副学長、国立大学初の観光学部を設置、教授。追手門学院大学社会学部教授・学部長、教職教育支援センター長などを歴任。神戸山手大学客員教授。日本観光ホスピタリティ教育学会会長。学校法人立命館評議員。

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