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2018/5 塾ジャーナルより一部抜粋

医学部募集定数と難易度の推移の予想 第6回

 

私立・国公立大学医学部に入ろう.com 平野 晃康

 
     

 2017年度入試において、医学部合格者定数は史上最大の9420名となりました。2018年度入試では1名減少したものの9419名と9400名を超えており、1969年度の4040名と比較すると約2・3倍です。

 ここ10年ほどを見ても2007年度の7625名から1794名増加しており、医学部受験者数の増加による倍率の上昇を抑制しています。今後、少子化により医学部受験者数は緩やかに減少すると考えられますが、それに伴って医学部の倍率は低下するのでしょうか。

 IT技術などの進化などにより医師の働き方やキャリアも多岐にわたるようになりました。実際、コンサルティング会社や製薬会社が医師免許を持つ人材を募集したり、医師が医療系IT企業を立ち上げたりするなど幅広い分野で人材としての医師が必要とされています。現行の臨床研修制度は、医学部卒業生が自由に就職できる制度のため、こうした技術の進展と、人材募集の要請に対応できています。

 一方、自由な就職は都会や人気診療科への医師の偏在を生み出してしまい、医師数が増加しているにも関わらず、へき地や不人気診療科では医師数が減少し続けるという現象を生み出しています。

 本稿ではこうした状況を踏まえ、厚生労働省から発表されている情報などを元に、医学部受験の今後について予想します

①医師数の充足と医師の偏在

 1973年、医療体制の地域格差を是正するために、第二次田中角栄内閣により一県一医大構想が打ち出され、各地に私立大学が新設されました。このことにより医学部募集定数は1969年度の4040名から1979年度には8280名へと増加しました。

 さらに、2007年からは緊急医師確保対策、2009年からは新成長戦略に基づく医学部募集定数の増加が、おもに地域枠入試という形で行われ、2017年度には史上最大の9420名となりました。

 この一連の医学部募集定数の増加により2020年度には人口10万人当たりの医師数がOECD加盟国の平均を上回ると予想されています。このことから、厚生労働省は医師数は充足したと考えているようです。

 少子高齢化に伴う医療財政の悪化は年々厳しさを増しており、また、成績上位者が医学部に集中することによる他の産業への悪影響を考慮し、医学部募集定数を削減することが議論されています。具体的には新成長戦略に基づく増員(年間688名)は2019年度入試で、緊急医師確保対策に基づく増員(年間317名)は2017年度で終了(2018年度入試では特別措置により304名分が延長)することが決まっています。

 2001年度にそれまでの医局制度から臨床研修制度への切り替えが行われ、卒業大学の附属病院に入職することが一般的だった医学部卒業生が、自由に就職先を選べる制度となりました。

 この臨床研修制度により、医師の人材流動性が高まり、自由なキャリアを描けるようになった一方で、医学部卒業生に人気のない病院やへき地の医療機関での医師不足が顕著となりました。それまでは大学医局が地域の病院の要請に応じて医師を派遣していたのですが、医師が自由に職場を選べることになったことで、大学医局に入局する医師数が激減し、派遣ができなくなったのです。

 また、専門医資格に定数の定めがないため人気診療科に医師が集中してしまい、全国的に医師が不足する診療科も現れるようになりました。

②医師の偏在の是正

 このように、現在問題となっているのは医師不足よりも医師の偏在であるというのが厚生労働省の見解で、今後は医師の偏在の是正を中心とした政策が実施される見込みです。

 具体的には、新専門医制度の実施や地域医療支援センターの設立、奨学金付き地域枠の充実などにより、医師の人材流動性を抑え、地域医療を支えるのに必要な数の医師が出身大学の所在県に残留するように誘導し、地域枠受給者によって地域医療の充実を図ろうとしています。

 医師の偏在問題は、受験生にとっては医学部卒業後の話ですが、厚生労働省が進める医師の偏在の解消方法は医学部入学時点で大まかなキャリアを決めようとする動きになりつつあります。

 このことから、医学部を受験する際は合格難易度だけではなく、自分の将来について考えて受験校、受験枠を決める必要があります。この詳細は次月以降で詳しく解説します。

③医療の輸出、製薬、行政などに従事する医師数の増加、医師の働き方改革

 厚生労働省では、海外、特に東南アジア各国の保健省と連携した医療の輸出を推進しようとしており、そのための人材を養成しようとしています。その一つが千葉県成田市に新設された国際医療福祉大学です。授業の一部を英語で行い、年間20名の留学生を東南アジアから招くなど、今後の医療輸出の拠点の一つになると予想されます。

 また、製薬、行政などに従事する医師、災害時などの国際協力に従事する医師を大幅に増加させることを目論んでおり、医師の職域を積極的に増やそうとしています。

 また、高度な医療を提供する三次病院などに勤務する医師の労働時間が長時間にわたっていることを問題視しており、今後、働き方改革によってこれらの医師の労働時間を大幅に削減する方針です。

④医学部募集定数の推移の予想

 医療の輸出、製薬、行政などに従事する医師数を増加させること、医師の働き方改革などにより、医師数がOECDの平均を超えても実際に医師数が十分となることはないでしょう。これは、医療は非常に高度な技術であり、多分に個人の能力に依存する技術であるためです。単に人数が増えてもそれだけでは業務効率の低下が起こったり、実施できる業務が減少したりすることは避けられないでしょう。

 しかし、少子高齢化による医療財政が悪化する局面で医師数を増加させ続けることは難しく、また、新成長戦略、緊急医師確保対策による増員は期間の定められたものです。2018年度入試における緊急医師確保対策の延長のように、期間の延長がみとめられる可能性もありますが、いずれ終了し、医学部募集人数の削減が行われるでしょう。

 しかし、緊急医師確保対策、新成長戦略による増員のほとんどは地域枠のものです。これらの増員分を単純に削減すると、医師の偏在の解消・地域医療の充実という目標の達成が遠のいてしまいます。

 そこで、一般枠の募集定数を削減し、その分を地域枠に転換する措置が行われると考えられます。これにより、医学部入試は今以上に難関とする流れとなるでしょう。


平野晃康 プロフィール

 名古屋セミナーグループ医進サクセス室長を経て、現在は私立・国公立大学医学部に入ろう.com代表。医学部受験の指導と正しい入試情報の普及に努める。入試情報誌「私大医学部入学試験を斬る2013」(名古屋セミナー出版)を編集・執筆、医療系データブック(大学通信)にコラムを寄稿。

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