開塾のきっかけは「子どもの笑顔」
新しいマーケットを開拓するエネルギー源に
大阪市営地下鉄「北花田」駅から徒歩2分、国道に面した立地の良いビルの2階に戸倉塾はある。白を基調にした明るく落ち着いた雰囲気の教室だ。にこやかに迎えてくださったスーツ姿の戸倉代表は、学習塾の先生というよりビジネスマンの印象である。
「日米の会社に26年間勤めましたが、大学を卒業したときから何かのビジネスで独立したいという意思があり、いろんなセミナーに出席するなどして、アンテナを張っていました」と振り返る。
経験を積んできた「計測と制御」という専門分野から離れ、新しい世界を開拓することに興味を持ったという。そして、地元の空手道場で子どもの指導をサポートしていたところ、技ができたときのとびきり嬉しそうな笑顔を目の当たりにし、「子どもの笑顔」が何にも勝る仕事のエネルギー源になる、と開塾を決めたと話す。
「以前は一般企業・研究の世界にいたので、技術的なことも営業においても、基本的なことはしっかりシステム化され、それに則って仕事を進めるというのが当然のことでした。しかし、学習塾というマーケットの入口に立ったとき、そういう面ではまだまだ遅れていて、企業人として身に付けたスキルやノウハウが生かせると実感しました。業界を知らなかったゆえの強みもあったと思う」と笑う。
●経営のポイント
子どもの明るい未来を築くため、企業人として培ったスキルやノウハウを生かす
「すらら」のシステムを活用し
個別のプログラムで、きめ細かく指導
戸倉塾は小学生、中学生、高校生を対象にした無学年制個別指導塾で、塾生は57名。英語・国語・数学に「eラーニング教材すらら」を導入している。
「すらら」の教材の特徴は、綿密なプランでつくり込まれたシステムにより、生徒一人ひとりの弱点を自動で見つけ出したり、ちょうど良い難易度の問題を出題したりすることで少しずつ自信をつけ、力をつけさせていくこと。アニメとの対話形式で子どもの「わかった!」「できた!」をどんどん引き出す仕組みになっている。わかるところまでさかのぼり学習をさせ、わかればどんどん先へ進み、先取り学習を可能にする。無学年制と謳っているのはこのためである。生徒がわからないまま先に進むことはなく、学習効果を高めている。
「起業した5年前、コンピュータ教材を基幹教材にしているところは少なく、フランチャイズで3、4社あったくらいだった」と戸倉代表はいう。
「すらら」の導入で教務(ティーチング)をシステム化し、学習計画に関する進捗の管理・メンタルなケア・保護者との情報共有等(コーチング)に時間とエネルギーを注ぐことができる。開校以来、「人は人にしかできないことに専念する」という運営方針を貫いているのも、企業人として身に付けた合理性の表れだろう。
まず、最初の面談で生徒や保護者の希望、例えば、「小学生の間に英検3級に合格したい」「2回目の定期テストまでに平均点をとらせたい」などを引き出し、到達目標を明確にした上で個別にカリキュラムを設計する。次に、目標を達成するために、いつまでに何をしなくてはいけないのかを「すらら」で確認し、マイルストーン(進捗を管理するための節目)を定め、学習効果を数値化し評価する。学習計画に関する進捗の管理にきめ細かく対応し、PDCAを確実に回す。
特に力を入れているのが国語力の育成。まず「自ら考える」ことが指導方針であるが、考える力の基はしっかりした国語の力であり、考える訓練によって培われる論理的な思考力は、コミュニケーション力、問題解決力の基礎となって、実社会での「生きる力」に大きく役立つからである。
保護者はIDを使って子どもの進捗状況をパソコンで確認できるが、同時にメールや電話で塾での様子を頻繁に伝え、保護者に安心感を届けることを大切にしている。「子どもの性格を考えて指導してもらえるので、喜んでいます。家庭でも見習いたい」という喜びの声が寄せられている。
●経営のポイント
「すらら」を導入し教務品質の安定化を図る
講師の人件費を削減して授業料を抑える
●指導のポイント
到達目標を明確にし、個別にカリキュラムを設計
進捗状況を確認してPDCAを確実に回す
教育を必要とする人のために
共に考え、学ぶ場を提供したい
現在、不登校や発達障害の生徒たちも預かっている。塾においてどこまでフォローできるかは手探り状態だが、産業カウンセラー(日本産業カウンセラー協会)の肩書をもつ戸倉代表は、「保護者の方たちの心の負担を少しでも軽くできたら嬉しい」と、これからも心のケアに努め、しっかり向き合いたいと話す。
文部科学省は「不登校児童生徒がIT等を活用した学習活動を行った場合、出席扱いとすることおよびその成果を評価に反映することができる」という表題の通知(平成17年)を出している。
「不登校ゆえに埋もれている、大きな才能が開花するかもしれません」と顔を輝かせる。
また、「Skypeを使った英語授業を生徒だけでなく、社会人にも門戸を広げたい」「職に就けない人への就活トレーニングにも参画したい」と意欲的だ。
教育の分野で社会貢献できることは数多い。教務で手いっぱいの塾ではできないことだが、「人は人にしかできないことに専念」し、新たな展望を拓いている。
●運営のポイント
教室が空いている時間を活用し、社会が必要とする学びの場を提供する
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