創業者から引き継ぐ
教育・経営理念
── 創業者である渡邉弘毅氏(現:代表取締役会長)の後任として、2015年11月に代表取締役社長に就任されました。抱負をお聞かせください。
田上 明光ネットワークジャパンは今期で33期目に入りました。私は、当社が創業時から掲げてきた経営理念に基づいた会社経営、教育理念、そしてチェーンの展開をしっかり受け継いでいきたいと思っています。
当社の経営理念は「教育・文化事業への貢献を通じて人づくりを目指す」「フランチャイズノウハウの開発普及を通じて、自己実現を支援する」の2つ。教育理念は「個別指導による自立学習を通じて、創造力豊かで自立心に富んだ21世紀社会の人材を育成する」です。
── 2009年の弊誌でのインタビューでは、渡邉弘毅会長(当時は代表取締役社長)は「同族会社にはしない」とおっしゃっていましたが、その通りにされました。
田上 一昨年、渡邉会長と奥井世志子副会長が、所有する株を基金とし、返還不要の奨学金を提供する公益財団法人明光教育研究所を設立しました。これまで受給が決まった学生は今年の春までに180人ほど。主に片親の方を中心に、学費として最大で年間50万円を給付しています。
渡邉会長と奥井副会長は株の一部を財団に移して、社会還元することを選択しました。財団の活動を通して、理念に掲げる21世紀社会の人材育成に寄与し続けたいという意向だと思います。
教育サービスを提供するからには教育理念を掲げ、それを具現化していくのが会社の経営の目的です。そのことをきちんと踏襲し、会社を次の世代とつなげ、チェーンとしても成長を続けていくことが私の役割だと思っています。
── 教室数と生徒数を教えてください。
田上 2016年5月末の時点で全国に2,102教室。このうち直営は230教室です。生徒数は11万3,518名です。ボリュームゾーンは中学生で6割、小学生と高校生でそれぞれ2割。若干、高校生が増えてきていると感じています。
教室数、生徒数は前年から若干マイナスになりました。教室数が減少したことと春の入会がやや遅かったことが原因です。
この背景には、講師の勤務環境の整備や塾内のサービスレベルを上げることに意識が集中し、生徒募集活動がやや手薄になったことが関係していると思われます。
現在、エリアの再編を進める一方で、一部不振教室の閉鎖も行っており、教室の競争力強化を図っています。
自立学習で学習を習慣化
コミュニケーションがカギ
── 現在、個別指導塾は増えていますが、そのことに対してはどう考えていますか。
田上 私どもが33年前に個別指導を始めたときは、個別指導塾はほとんどありませんでした。しかし、矢野経済研究所の発表によれば、学習塾市場における個別指導塾市場シェアは約44%。非常に数が増えていると同時に中身のバリエーションも増え、「個別指導」の定義付けが曖昧になっています。逆に言えば、保護者や生徒の皆さんから中身がわかりにくくなってきている点もあるかと思います。
そのため、私どもとしては「明光義塾の個別指導は、生徒が自ら学習に取り組む力を育てる自立学習です」ということを改めて明確に打ち出していくつもりです。
── 自ら考えて答えを導き出せる力は2020年の大学入試改革もあり、重要視されていますね。
田上 今、教育改革で言われている方向性は、私どもがずっとやってきた方向性そのものであると考えています。今後は指導内容をレベルアップし、さらに進んだものにしたいと思っています。
私どもの考えでは、自習は自立学習ではありません。自立学習とは生徒が自分で学習する力を習慣化していくことです。そのためには人のサポートが必要で、そこには講師に大きな役割があると考えています。
── 講師の役割とは。
田上 一番大切なのはコミュニケーションです。それも教室長、講師、生徒、保護者の四者間においてです。講師と生徒は授業中、授業前後も含め、会話量の多さが明光義塾の特徴です。教室長も生徒に細かく声がけを行い、気持ちをほぐすようにしています。
そうしたコミュニケーションによって、生徒にとって教室が「居心地のよい場所」にすることが大切です。生徒にとって教室が自分のことを気にかけ、サポートしてくれる人がいる場にしたいと思っています。
保護者の方とのコミュニケーションも非常に大切です。そのため、教室長と保護者の面談は年に4〜5回は実施しています。一般的には中学生になるとだんだん親と話をしなくなりますが、塾というコミュニケーションの場があることで、教室長が保護者の気持ちを生徒に伝え、逆に親には言えない生徒の気持ちを教室長が保護者に伝える「橋渡し役」になったりしています。そうしたことが明光義塾の特徴だと思いますね。
日本語学校を子会社化
台湾で合弁会社設立
── 明光義塾における新しい取り組みについて教えてください。
田上 中学生を対象としたオンライン教材「理社クイッパー」を昨年から始めました。これは月4回、塾でのタブレットによる学習と家庭学習を組み合わせたものです。個別指導で5教科受講すると受講料が高くなりますが、この「理社クイッパー」では料金を抑え、負担を増やさず、教科数を増やせるようにしました。内容もテンポよく学習でき、自分のペースに合わせて進めていけると生徒から好評です。5年ほど前から高校生のための映像学習「MEIKO MUSE」も導入しています。これは大学受験対応のコンテンツです。
── 2011年には早稲田アカデミーと業務提携をした難関校進学を目指す個別指導塾「早稲田アカデミー個別進学館」をスタートされました。
田上 これは堅調に教室数が伸びており、教室数は2月末で30校です。難関校を目指す受験塾は集団授業が多いですが、それに馴染まない生徒さんもいますし、苦手教科をもっと勉強したい生徒さんもいます。ニーズは確実にあると思います。
── 新規事業として、学童保育の「明光キッズ」も2011年から開始していますね。
田上 現在、7スクール直営で運営しています。通常、学童保育は学習指導をしませんし、時間も長いわけではないので、そこをしっかりケアできる場をつくろうとしたのが目的です。おかげさまで好評で、一部のスクールはキャンセル待ちが出ている状態です。エリアは練馬区がメインで、江戸川区などでも展開していますが、そうしたサービスがあるということが地域に浸透するのに時間がかかりますので、ある程度エリアを集中しながら新規開校していく方向で考えています。
── 日本語学校も子会社化されました。この狙いは。
田上 2014年に早稲田EDUを、2016年に国際人材開発をグループ会社化しました。外国人の観光客も増加していますが、日本語を学び、日本で高等教育を受けたいと希望する外国の方も増えています。日本の大学からも留学生を増やしたいニーズがありますので、この分野は将来性があると考えています。
── 2015年には台湾へ進出されました。なぜ台湾だったのでしょうか。
田上 台湾で良いパートナーが見つかったのが大きな理由です。2015年11月、台湾の教育事業会社の翰林出版グループ、台中で学習塾を運営する百大文教とともに合弁会社「明光文教事業股?有限公司」を設立しました。今年の春からスタートし、今後のオープンも含めて年内に7教室になる予定です。これらは現地の日本人学校の生徒さんではなく、すべてその国の生徒さんに向けたサービスとなります。
── 台湾は塾激戦区のイメージがありますが、手応えはいかがですか。
田上 いいですね。台湾の場合は個人でやられている学習塾が多く、個別指導塾はあまり知られていません。生徒が自分で自主的に取り組む学習形態だということ、それから一人ひとりに合わせた指導であるという点が受け入れていると考えています。
人づくりを通じて
国の基盤や成長を支える
── 最後に御社が掲げる2020年ビジョン「人づくりのトップカンパニーを目指す」の目的について詳しく教えてください。
田上 このビジョンは6年前に設定したものです。そのときに社内で議論をした結果、会社として目指す方向性は、生徒の自立学習やフランチャイズオーナーとしての自己実現を含め、「人づくり」という言葉に集約できると考えました。自立学習を通じて、自分で問題解決のできる人材をどれだけ数多く輩出していけるかということは、国の将来にもつながっていくと思います。同時に社員も成長し、FCのオーナーの方々も独立事業者として成功できるようにする。そういったことを通じて、国の基盤や成長を支える一助になりたいという思いを込めています。
私ども個別指導塾は、学校での学習を補完するサービスという面があります。子どもたちには、勉強は楽しいものであり、そして自分が成長するのに非常に大切なことだと実感してほしいと思っています。
これから教育改革に向け、学校は変わっていくと思います。それに対応して私どものサービスも変わっていきます。私どもが子どものためにできることはもっともっと増えていくでしょう。学校でやること、学習塾でやることは別ではありません。生徒は同じ一人なのです。その生徒なりの成長や学びにいかに貢献できるか、という視点で取り組んでいきたいと思っています。 |