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中学・高校受験:学びネット

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2014/7 塾ジャーナルより一部抜粋

高校入試が塾教育を歪める!? 〜永遠に未完の塾学〜

第2回

俊英塾 代表 鳥枝 義則(とりえだ よしのり)
1953年生まれ、山口県出身。
京都大学法学部卒業後、俊英塾(大阪府柏原市)創設。公益社団法人全国学習塾協会常任理事、全国読書作文コンクール委員長等歴任。関西私塾教育連盟所属。
塾の学習指導を公開したサイト『働きアリ』(10,000PV/日)には、多くの受験生
や保護者から「ありがとう」のコメントが。
成りたい人格は「謙虚」「感謝」「報恩」…。

入試で学校を
コントロールする
文部科学省と教育委員会

 平成二十一年から始まった移行措置の際、文部科学省は、都道府県の教育委員会に「高校入試では移行措置をふまえた入試問題を出題するように」という通達を出した。すると各府県の教育委員会は、市町村の教育委員会に「来年の入試で移行措置内容を出題するから、中学校できちんと指導するように」という指令を出した。

 ことほどさように、入学試験は、国の教育政策を短時日に達成するための強力な武器となる。言い換えれば、入試問題によって子どもたちは、一生の知識の質と量を左右されるほどの大きな影響を受ける。

難しすぎる
大阪府公立高校入試問題

 この中央集権体制に、全国でただ一つだけ、無謀にも立ち向かっている府がある。それがわが街、橋下徹氏が率いる大阪である。大阪府教育委員会の反骨心もなかなかのもので、全国で唯一、来年度の公立高校入試までは文部科学省に逆らって相対評価を堅持し続けている。

 ところがその反骨心が、入試問題にまで顔を覗かせるからちょっと困る。なぜこんな難しすぎる、癖のある、極端な問題を出題しないといけないのか、誰に対して肩肘張っているのかと思わされるような難問、奇問を毎年出題し続ける。

 前号の塾ジャーナルで京都の龍谷大学付属平安高校の平井先生は、「大阪府高校入試英語の問題は大学入試のセンター試験、東大、京大等の入試問題を想起させる」、「高校一年生レベルの英語力つけることが不可欠」とまでおっしゃっている。

 数学だと、大阪府が設置した研究・研修機関である大阪府教育センターが公開している『府立高校合格者の学力実態調査』に驚くべき記述がある。平成二十三年度数学の空間図形問題の正答率は、なんと0%!

 合格者ですら誰一人として解けないような問題が出題されるのだ。

特殊な対策が必要な
問題が多すぎる

 難しいだけならまだよいのだが、特殊な対策が必要な、非常に癖のある、どんな能力を検査したいのか疑問に思える問題が多すぎる。

 数学だと、毎年出題される関数の問題は、たった一種類の解き方さえマスターしておけば容易に解ける。規則性の問題は、習熟していたら一次関数に変換して簡単に解ける。読むだけで試験時間が終わりそうな図形問題も、問題文のほとんどを読み飛ばす練習をしておけば対処できる。しかし、そうした数学の本質とは全く関係のないテクニック重視の受験勉強がはたして子どものためになっていると言えるだろうか?

 また、英語問題前半の大問二問は合わせて1,200単語で構成される超長文であり、加えて本文の後ろに40語を超える未習単語の(注)が付いている(さらに意地の悪いことにその未習単語を使わないと答えが書けない小問が多い)。出題事項の偏りも大きくて、今年度問題の大問中に4問ある英作文のうち3問は関係代名詞を使う問題であった。そして長文二問を解くだけでも大変なのに、その後に40語程度の英単語を要求する自由英作文とリスニングがあって試験時間は計50分。おそらく、ほとんどの中学生は、本文を飛ばし読みするコツや、あらかじめ書ける英作文を数個記憶しておいてそれを流用するといった裏技を習得しておかないと高得点は望めないだろう。しかし、それが本当に正しい英語の勉強法だろうか?

 普通の子がこつこつと真面目に勉強して自力で立ち向かえるのは、理科と社会科くらいではないかと私は疑っている。

入試問題が塾の指導を
歪めていないか?

 多くの塾講師は、自分が指導している子どもたちに夢を託す。本当にこいつらは賢いな、すごいなと思っているからこそ、なんとか入試に合格させてやりたいと念じるのが塾講師である。

 ところが各在籍中学校で一、二番を占める「よくできる子」であっても、例えば40語の自由英作文をやらせてみたら、毎年、難関校の合格ラインに届きそうな英文を自分だけの力で書ける子は皆無に近い。愕然として、「英語の弱い人は、どんな問題が出てきても使えて得点力の高い英文を三つ、今から教えるから暗記しておきなさい。困ったら最後の手段としてそれを転用しなさい。」といった指導をすることになる。

 トップ校に合格した連中も含めて、これは歯が立たないと打ちのめされた子どもたちはそうした指導に光明を見いだして喜んでくれるが、こんな英語指導などは邪道の極みであろう。

蹴散らされる中小塾

 今、大阪では(奈良にまで戦場を広げて)二つの塾が優秀な子を総浚いして、私のような弱小塾のはるか高みで激しい空中戦を演じている。例えば大阪府最難関校の北野高校だと、定員360名中、この二塾出身の合格者が357名に達する(但し、両塾の発表数による)。ほぼ寡占だと言ってよい。

 ところで、文理学科を擁する進学指導特色校(大阪トップ校)十校の先生方からは二つの矛盾した声が聞こえてくる。

 一つは、「英作文や小論文の採点をしていると、ほとんど同じ内容の答案を数多く見かけます。塾でしっかり指導されていることがうかがえます。」つまり、成績のよい生徒が多く在籍している塾の合格者が増えてきたことを喜んでおられるようにも聞こえる感想だ。

 もう一つの声は(こちらはひそひそ声で語られるが)、「入試では得点の高かった生徒なのに入学後伸びないのは、何故でしょうね?」こちらは、暗に塾の指導をくさしているわけである。

 大手塾に蹴散らされて悲嘆をかこっている中小塾の仲間の中には、「どこそこの塾では小論文の模範答案例を五つほど塾生に覚えさせて、問題に応じてこことここを書き換えろとやっているらしい」と僻みを述べる人もいる。

 まさかそんな姑息な手は使わないだろうと眉に唾をつけたくなる半面、そういうことをしないと確実には合格させられない入試問題であり、だからこそ合格者の寡占化がすすんでいるのではないかと、私は心中ひそかに勘ぐっている。

誤った指導の
被害者は中学生

 私も同罪だが、「これだけを覚えておいて、上手にそれを流用しろ」といった学習指導の何が最も子どもを害するかというと、年端もいかない中学生が「勉強は要領だ」、「うまく小手先で対処することが受験勉強だ」と勘違いすることだ。

 しかし、大阪府公立高校の入試問題は、癖がありすぎて、塾が(そしてその犠牲で子どもたちが)邪道に陥りかねない危険性をはらんでいる。

では、どんな
入試問題が理想的か

 所得による教育格差の是正は、今最も喫緊の課題の一つであろう。たとえ塾に通わない子であっても努力して高い学力を身につけさえすれば太刀打ちできる、そんな入試問題であってほしい。幅広く、教科の本質を問う深みのある問題を入試では出題してほしい。

 塾の学習指導は、真面目に励み、教科書を理解できる力を持ち、自分の力だけで深く考えることのできる人間を作るためのものでありたい。

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