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2012/7 塾ジャーナルより一部抜粋

政局の波で大きく揺らぐ大阪教育界
私学が問われる存在意義

  大阪私立中学校高等学校連合会 会長 坪光 正躬氏
(大阪明星学園理事長・学園長)
 
 2011年度、私学の授業料無償化の話題が教育界を席巻し、公私を問わず多くの教育関係者の注目の的になった大阪私学界。しかし、そこにはさまざまな問題が存在し、現在も関係者たちの心を悩ませ続けている。この大阪府私立学校の状況について、今回は大阪私立中学校高等学校連合会の坪光正躬(つぼこうまさちか)会長にお話を伺った。

授業料支援補助金制度と
高等学校就学支援金で
授業料軽減

 今年度4月に大阪私立中学校高等学校連合会会長職に就任した坪光氏は、昨年度までは同連合会副会長として、大阪全体の連合会に所属する私立校のために尽力してきた人物。そのスタンスは今も変わらず、今回会長職に任ぜられた2年間、大阪の私学のために尽くしたいと語る。

 その坪光氏が問題視している大阪の教育界の課題は少なくないが、最も大きいのが、橋下徹元知事(現大阪市長)の施策として、2011年度より開始された就学のための支援補助金制度である。

 「保護者の授業料負担が大幅に免除されます」との謳い文句で、さまざまなメディアが取り上げている私立高校の授業料無償化の拡充。国の支援金と大阪府の制度を併せることで、生徒・保護者の選択の幅を拡げようとする制度である。

 国の制度では、高等学校就学支援金(高校生全員が交付対象)が所得にかかわらず、年額11万8,800円を交付。また、年収の目安として350万円以下の家庭の生徒には、給付額が1.5〜2倍に加算される。

 一方、大阪府の授業料支援補助金については、大阪府内在住の高校生が対象となり、年収目安610万円未満の家庭の生徒には、実質無償となる補助を、年収目安が610〜800万円未満の家庭の生徒は、授業料負担上限が年額10万円となるように補助が行われる。ただし、授業料の上限を58万円と設定し、それを超えた授業料を徴収している学校にあっては、その58万円を超える額の生徒分を学校が負担することになっている。もちろん、この制度の対象者となるのは、この58万円の限度額に賛成した私立校の生徒のみ(就学支援推進校)となっており、元々年間授業料が58万円を下回る私学が、許容範囲内で授業料を上げようとすると、行政の厳しいチェックが入る場合もある。私学側が100万円の授業をしたくても、推進校に加盟している限りは値上げもままならない状態である。

 その上、この支援金・補助金は申請後、即支払われるわけではない。高等学校就学支援金(国の制度)は毎月1日に在籍する生徒が給付対象となり、年4回に分けて、学校に振り込まれる。授業料支援補助金(大阪府の制度)は、10月1日の時点で、学校に在籍が確認できた生徒を対象に振り込まれる。そのため、授業料の支払い期日が在籍確認日より以前となる場合は、一旦保護者が支払うことになる(後に還付・相殺。今年は2、3年生には4月末頃、半年分前倒しで交付された)。また、入学金、制服、教科書代金、修学旅行や研修旅行の費用の積み立ては給付対象にならないため、保護者側に注意が促されている。

府外の生徒を
置き去りにするなど
問題点も多いシステム

 一見、保護者にとって非常にありがたい制度と思えるこの政策、実は両刃の剣となりかねない、非常に危ういものだと、多くの知識人が指摘している。まず、県外からの通学生は対象外だということである。府内の中央に位置しているような私学なら問題はないが、北摂地域、京阪沿線などにおいては、京都、奈良、兵庫、滋賀など、近県の生徒を確保したいというのが、私学側の思いである。しかし、この制度の導入により、府外の生徒たちの不平等感を促進し、入学希望者が減る学校もないわけではない。一度、受験対象校から外された場合、その地域の生徒に再度受験を促すのは、非常に困難なことである。また、先にも述べたように授業料の上限は年間58万円と定められており、それを超過する場合は、各学校側の負担とされるのだから厳しい。

 隣接する京都でも、ほぼ同じ制度を導入しているが、授業料の限度額は65万円。それ以上となる私学の場合は、各生徒の保護者が超過額を負担する。しかも、各校に交付される経常費補助金も大阪に比べると生徒一人当たり6万円強も上回っている。このため、無理な経営を強いられない利点がある。だが、この制度が普通で、大阪の制度のほうに問題があることに、まだ府民の多くが気付いていない。この件に関しては、今後アピールしていく必要があると坪光氏は考えている。

統一化される私学…
独自の教育方針を
消さないで

 このように、実はこの支援制度は、私学側に注目が集まり、生徒が来やすくなったといえるが、一方では非常に厳しい運営を余儀なくしている。私学にとっては私学教育の健全化を図るため、国の施策として、各私学に交付されている経常費補助金が大幅に削減されている大阪の私学の現状は大問題である。

 しばしば大きく新聞に取り上げられる内容では、就学支援補助金として、税金が私学に流れるように書かれているが、実は私学は経営側が教育の質を落とさないために自助努力をするとしてもなお負担する金額が大きく、今後の制度改革が望まれるところである。

 100%を公的資金で賄っているのは公立校のほうであることが、あまり認識されていないと私学関係者は憤っている。

 一方、公立高校では平成23年に大きく定員割れを起こした学校が続出した。これを救うため、大阪府は公立の定員を減らして対応。そのためにあぶれてしまう生徒がいないようにと、私学に募集定員を増やすように要望があった。これに同意し、24年度の募集で、例年の20%以上定員を増やした学校については、なぜか行政の査察が入るという状態に陥っている。この矛盾に当惑した大阪の私学界は大阪府と協議しているものの、募集定員と実際に入学した生徒数との大きな乖離は好ましくないとの指摘を受け、今後の対応を迫られている。

 「寺子屋から始まった日本の教育は、私学の歴史とも言えるでしょう。その長い歴史を無視し、授業料支援補助金を出すことで『公立と私学を同じ土俵に立たせた。今からが再スタートである』と言われても納得はできません。各私学がしっかりとした独自の教育理念を守り、支援金制度問題だけで揺れ動くことがないようにしないといけませんね」

 坪光氏は仕事で、日本全国の教育関係者と会う機会があるが、その度に大阪の私学教育界の現状を聞かれるという。良くも悪くも日本中から大阪の教育が注目されている今、私学はどのように動くのか、大事な局面を迎えている。

政局変化で揺れる制度
連合会が私学を
救う力となる

 この制度の抱える一番の問題は、この授業料支援金は制度施行から5年(施行時点よりの計算・現在残り3年)で、見直し対象に入るというところだ。現在の大阪府の施策は橋下府政より始動し始めたものであるが、数年後、政治情勢に変化が生じたり、万が一、財政逼迫の事態が再発して、別の仕組みに転換されるなど、大きな予算を使うこの制度が持続するという保障はない。国の支援制度にしても同じで、政権が変わる、もしくはマニフェストが変更された場合、この大きな国庫負担金は削減される可能性が高い。そうなった場合、私学への入学は断念し、公立指向に転じる生徒やその保護者の割合は高いのではないか。日本中の私学や教育界は混乱、特にその双方を合わせた支援金で注目を集めていた大阪では、私立高校が窮地に立たされてしまう可能性は少なくないだろう。しかし、公立高校の統廃合とは異なり、私学が閉校するというのはその存在までもがなくなってしまうこと。そこで働く教員、学ぶ生徒にとっては、一瞬にして行き場をなくすことになる。それは絶対に避けなければいけない。大阪府の行政としては、「生徒が少なくなり、経営が破綻する危険があるのであれば、私学も閉校を考えればいい」という感覚かもしれないが、そう簡単に考えられることでは決してない。

 「現在、大阪府のほうからこの2つの就学金支援制度と授業料の無償化の拡充を大きくアナウンスする動きが出ています。しかし、もし政局が変化して、支援金制度も変更となった際、生徒たちの公立志向を押しとどめるためにも、この就学支援金制度が政局の変化に揺るがされることなく、今後も続けられるよう力を尽くした上で、私学の素晴らしさを改めて皆様に知っていただき、進路として選択されるような学校になる。それが我々連合会、しいては私学の存在意義だと考えております」と坪光氏は胸を張った。

 坪光氏は平成7年より大阪明星中学校高等学校の学校長に就任、一貫して「我が校の生徒である存在価値を見つけなさい」と指導をしてきた。その、学校は人生を学ぶ場所であるという考え方は今も変わらない。この国と大阪府の制度には問題も多いが、確かに私学を目指したいと考える生徒たちにとっては、私学受験への良いきっかけを作ったとも言える。

 坪光会長をはじめ、多くの私学人が同じ視点でぶれることなく私学を導けば、この波乱を乗り越えていくことができるに違いない。

※大阪私立中学校高等学校連合会としては、毎年発行している「私学のイイとこ満載!」で、支援金や支援補助金の仕組みを紹介している。

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