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中学・高校受験:学びネット

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2009/7 塾ジャーナルより一部抜粋

小さな島で日本一の教育を
離島発 地域教育魅力化プロジェクト

     

 日本海に浮かぶ隠岐諸島の一島、海士町(中ノ島)は、人口約2400人の島だ。「平成の大合併」の波が押し寄せた頃、海士町は人口の流出と財政破綻の危機の中で合併をせず、自立の道を決断。独自の行政改革と産業創出、子育て支援などによって、日本で最も注目される町の一つとなった。次に目指すは教育改革だ。「小さな島で日本一の教育」を目指して様々な取り組みを進めている。中でも、地域と学校が連携した学習センター(公立塾)の創設が大きな柱である。「子育て島、教育の島として若い家族が全国から集まる島にしたい」と語るのは、島の高校魅力化プロデューサーの岩本悠氏。自身も大手企業を辞し、島の教育改革に乗り出した一人。この島の挑戦が、田舎と都市部の教育格差を乗り越える、新しい道を切り拓くかもしれない。

最後尾から最先端へ 小さな島の大きな挑戦

 海士町は、後鳥羽上皇が配流されたという歴史もあり、神楽や俳句など伝統文化が残っている一方、島まるごと国立公園に指定されているほど自然豊かな島である。近年、公共事業に依存していた島の経済は、2004年頃から急速に冷え込み、町の財政破綻は目前に迫っていた。国や県が合併を進める中で、住民は敢えて自立再建の道を選択する。行政と住民は協同で、「海士町自立促進プラン」を作成。「意志は、行動で示す」という山内道雄町長のリーダーシップのもと、町長は給料を50%、議員と教育委員は40%、職員は16〜30%それぞれカットし、海士町職員は日本一安い給料の公務員となった。そこから、島を守る覚悟を決めた島民による生き残りをかけた闘いが始まった。

 第一に手を付けたのは、外貨獲得と雇用創出を目指したモノづくりである。最新の冷凍技術「CAS」を導入し、島の海産物を新鮮なまま都市部や海外へも届けられるようにした。メディアでも多数取り上げられ、海士の海産物は全国で売れるようになった。また、農業特区を取り、島生まれ島育ちの「隠岐牛」をブランド化。こうした「モノづくり」への挑戦は全国の注目を集めるようになった。

 一方で、「ひとづくり」への挑戦も始まった。小6生全員が島の課題を探り、施策を提案、それらを実際に具現化させていく「子ども議会」。若手の社会起業家を招き、志の育成を図る「出前授業」。海士の中学生が東京大学で地域を題材にした授業を行う「逆出前講座」など、様々な取り組みを行っている。こうした挑戦の結果、海士町はまちづくりの先進地域として、全国から200人を越える移住者が集まるようになった。

学校・家庭・地域が連携 島の子どもは島で育てる

 そんな海士町の目下、最大の課題が島内で進学希望を実現できる教育環境の整備である。島には島前(どうぜん)高校が1校あるが、この地域の子どもたちの半数近くは中学校を卒業した時点で、島を出て下宿などをしながら、本土の高校へ通う。島を出る子どもたちの多くは大学への進学希望がある生徒。「島の高校へ通えば、大学進学が困難である」と多くの保護者や生徒は考え、大きな経済的負担をしてでも本土へ子どもを出すのである。

 島前高校は少子化の影響で生徒数が減り、全学年一クラス、一学年30人程度の生徒数である。生徒の数が少ないため学力順位が固定化しており、生徒同士の競争や切磋琢磨が起こりにくい。また、教師の数も減り物理が履修できないため、理系進学が困難である。さらに一クラス30人といっても、中学校レベルの基礎学力がついていない生徒や就職を希望する生徒から、国公立大学を志望する生徒までが混在している。そのため学校での同一教室、一斉授業では、学力の高い生徒や進学希望の生徒にはモノ足りず、学力の低い生徒は授業についていけないという状態になってしまう。本土であれば、予備校や学習塾、家庭教師といった民間教育がそうした学校だけではできない部分を担うのであるが、人口の少ない離島にはそうした学校外の教育サービスがほとんど存在しない。

 子どもたちの流出を食い止め、島の高校の存続を図るためにも、また島外に出るほどの経済力がなくても充実した教育を受けられる教育の機会均等を実現するためにも、島内で進路希望を実現できる体制をつくることが不可欠である。

 「今までこうした離島と本土の学力格差は『しょうがない』とあきらめられてきたが、これからは『離島では進学に不利』『勉強したいなら本土へ出るしかない』という旧来の‘常識’を打破していきたい。」と熱く語るのは、海士町教育委員会・学校教育課長であり、高校魅力化プロジェクト担当課長を兼任する吉元操氏。自立再建の立役者である。「島の子どもは島で育てる」という強い信念が感じられる。

 今回海士町の人づくり戦略の大きな柱として創設されるのが「隠岐國学習センター(仮称)」である。このセンターは、島の子どもたちの進路希望の実現に応えるための、いわば公立塾で、小学生から高校生までを対象に、今後、情報通信技術を駆使した最先端の教育環境を整えていく予定。「センターを中心に学校、家庭、地域が連携し、島全体で学力向上、進路希望実現に取り組んでいきたい。センターを早期に立ち上げ、成果を出すことが島の未来を左右する、といっても過言ではない。」と吉元氏。

教育改革の担い手を熱望!

 すでに文科省や大手の教育会社も、このプロジェクトに注目している。地域の教育格差をなくすモデル地域として支援したいという声や、教育システムや進学ノウハウの提供を通じて協業したいという要望もあがっており、島外との連携体制も整いつつある。

 あとはこのセンターの中核になる学習コーディネーターを探すばかりだ。高校生の学習意欲を高め、学力向上のノウハウを持った大学受験指導のスキルがある人物が求められている。これまで70人程度の申し込みがあったが、塾や高校での進路指導経験者は少なく、採用に至っていない。採用担当の一人で、高校魅力化プロデューサーの岩本悠氏も、東京の大手企業で人材育成にかかわる一方、途上国での教育支援活動を行ってきた市民活動家でもある。海士町が企画した中高生向けのワークショップに、講師として招かれたことがきっかけで現職に就いた。

 「多くの同志とともに、どんどん新しいことに挑戦していける海士町の雰囲気が、自分の生き方にマッチした」と話す。また、「海士町の生き残りをかけた一連の挑戦は、全国の多くの地域にも通じる取り組み。海士町は日本の縮図のようなもの。島での成功が、全国のパイロットモデルになり、日本の教育にも影響を与えていける」と、そのやりがいを語る。

 このプロジェクトで成果があがれば、海士町の子どもたちの進路を拓くだけでなく、教育格差がある全国の他地域にも展開可能なモデルになり得る。『教育改革をやりたい』という志を持った人材が全国から集まりだした今、海士町は、この教育改革の担い手やパートナーを待っている。

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