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2005/3 塾ジャーナルより一部抜粋

これからの数学
── 安全と安心の希求 ──

  財団法人 日本数学検定協会(文部科学省認可公益法人)
理事長 田 大進吉
全国学習塾協同組合 理事長  森 貞孝
司会 : 塾ジャーナル
 
     
 
生徒の数学能力のレベルアップや推薦入試時の考慮から数々の塾・学校が導入し、技能検定の位置を定着している数学検定。その理事長であり、日本の学力低下を憂えている田大進吉氏と、全国学習塾協同組合の理事長として、日々学習塾の健全な発展を願って組合運営に努力している森貞孝氏。両氏が現在の日本の数学教育の現状と未来について、誌上討論会を行った。

社会で活躍できる力を数学教育で身につける

−−本日は『これからの数学』をメインテーマに、共に数学教育に関して非常に高い意識をお持ちである、日本数学検定協会の田: 理事長と全国学習塾協同組合の森理事長に、日本の数学教育の現状と今後について語っていただきたいと考えております。では、まず日本の数学教育の現状についてお話を聞かせてください。

田:諸外国では元来そうでしたが、ここ数年日本でも理数系をより深く学んだ人材がトップを占める状況になりつつあります。これは日本が科学技術創造立国となるなら当然の流れであり、その知的基盤となるのが数学です。

森:その基盤が、アジア諸外国に比べ減退してきている。

田:そうです。日本はモノづくりで他国と競い合って生きていく国なのですから、数学力が低くなることは、国の力が低下することでもあるんです。それを回復させるためにも、数学教育を実質的知的基盤として確立しないといけません。そのためにも、学校や塾といった教育産業だけじゃなく、様々な企業でも数検を役立てていただきたいですね。数検は教員を含むすべての社会人も受検対象になりますから、自分の実力を磨くにはよい機会になるのではないでしょうか。

−−数学ができる生徒の方が、将来、社会でより活躍できるということですね。

田:はい。実際に数学を得意にしていた生徒は、社会でも問題解決能力が高く、年間収入にもその能力分の差が出ていると、経済学の教授がレポートで発表しています。それを受け、一部大学では、文系である教育学部で数検の準二級取得を義務化しています。これは、数学が生きる力に直結していることを示す大学での一例です。
森:ただ、小学校や中学校で頑張って、数学で良い成績を修めていた生徒が、大学へ入学した後では成績を下げてしまう場合もあります。これも今後解決していかなくてはならない問題ですね。

−−それはどうして起こるのでしょうか。

森:大きいのは教科書の問題ですね。今の教科書は昔のものと比べても、問題を解くための方法は非常に多くのスペースを割いている。ただ、それに対する演習問題がかなり削減されているんです。また、授業時間も減っていますから、その演習問題にかけることのできる時間も少ない。ですから、繰り返し演習ということができない。そうすると、自然、能力の定着ができなくなってしまうでしょう。ですから応用力が多く必要になる大学や社会で直面する数学的問題にはついていけない、ということでしょう。

田:本当にそう思います。ですから、生徒には数学力とはどういうものであり、計算することは実際にどのように役立つのかを、視点を変えて説明することで、生徒の自己学習につないでいくしかないんですよね。

−−その説明の具体的な内容を聞かせていただけますか。

田:まず、数学力は安全と安心に直結するということです。人と人との関係や社会的な関係は、すべて数学的な問題解決が必要になります。例えば、道路を自動車が走っているでしょう。自動車が時速何キロのスピードで走れば安全か、道路の幅はどのくらいあれば良いか、人の歩く道は…と安全性に関する計算をすることができます。また、人間関係でも、自分の立場が相手から見ればどこにあるのかをどのような視座に立てば、互いに良い関係を保ち、安心した付き合いができるのかを考える必要があります。この点でも、数学的見地が必要なんです。

森:そうするには、どのように数学教育を進めればいいとお考えですか。

田:数学教育そのものに生涯学習の視点を加えることが先決でしょうね。教員の数学能力を高めることで、教員が個々で数学力を利用して考え、調べることのできる人間にならないと、生徒への個別対応ができません。しかし、そのためには教員にある程度余裕がないと無理ですが。難しい問題ですね。

−−塾の立場としては、今の数学教育の問題はどこにあるとお考えでしょう。

森:塾は生涯教育というよりは、生徒の実践面での数学学習能力を考えますね。具体的な例では、ある二人の生徒が小学五年生の時に、算数に対する姿勢が全く異なった場合があります。一人は算数が好きで非常に速いペースで問題を解くのですが、その分間違いも多い。もう一人は、算数が好きでも嫌いでもない子で、解く速度は遅いが、間違いはほとんどない。この二人、中学から高校へ上がるにつれて、理解度が逆転し、速いけれど間違いの多かった生徒は少しずつ数学が理解できなくなって、段々数学が嫌いになり、もう一人の生徒は理解ができるために数学が好きになっていきました。つまり、間違わず、基本をしっかりと身につけた生徒の方が、後々応用力がつくことを証明したようなものですね。ですから、塾では尚基本を大切に教えようとしています。しかし、文部科学省の学習指導要領では、その基本も削ってしまっている。まあ、見直しの発表もあったのですが、それでも教科書は最低ラインにして良いという内容でしょう。ですから、基本的な内容を充実させた授業を行うか、それとも教科書内容はそのままに先取り教育を行うかは教員の判断に任されてしまう。この辺が大きな問題ですね。

−−それが学力低下につながることにもなるのですね。

森:そうですね。もともと数学は、指導者次第と思います。指導の方法によっては面白くて、どんどんのめり込んでいくものなんですよ。子どもが今どういう状況で、どのようなきっかけを与えることで学力が伸びていくか、それを考えて指導しないといけません。ただし、今の時代、学校の先生自体が算数嫌いという場合も少なくない。生徒は日本教育界全体の動きではなく、そのときに担当された先生の影響によって、算数や数学が好きにも嫌いにもなり、理解できることもできないこともある。その影響をどのように受け、どうすれば改善していけるのかを見極めて、その子どもを伸ばす方法を考えるのが、塾の指導方法だと思うんです。

田:それに加え、塾には、社会に出た後のことも考えた数学教育をお願いしたいですね。今の能力のまま社会で働き、創造力や情報処理力を求められて、本当にそれを活かすことができるのかその終局的なことまで考えた人材育成をしていただきたいです。卒業してすぐはいいとして、40歳、50歳、果ては70〜80歳になったときに、かけ算の基礎である九九を思い出せるのか。そういう記憶を引き出せるような指導が求められているのではないでしょうか。

右上がりの伸びを続ける数学検定「数検」受検者数

−−では、次に数学検定の現状をお伺いしたいのですが。

森:教育関係者の方々ならどなたでもご存じのように、この数年、特に先に行われた新指導要領導入から、数学の指導内容がかなり削られています。この4月より再度見直しが行われ、多少の回復はするようですが、これは数学検定「数検」にも大いに影響しているのではないでしょうか。

田:そうですね。ただ、もともと「数検」自体が今より十数年前の偏差値教育全盛期の頃に、相対評価に対する絶対評価のひとつの目安として打ち出してきたものなんです。その後、埼玉県を中心にして、偏差値で生徒の成績を決めることに異論を唱える運動が起き、絶対評価の導入への動きが活発になってきたときに、では、絶対評価で生徒の成績の状況を計るメジャーは何かと言う声が上がり始め、「数検」がクローズアップされてきたわけですね。

森:平成4年頃のことですよね。その当時は、まだ「数検」で何級を合格したと言って、優遇される例はほとんど無かったから、塾も受験に対し、生徒がどの程度のレベルの数学学習能力を持っているかを知るための目安として、「数検」を生徒に受検させている場合が多かったんですよ。

田:そうです。ですから全国学習塾協会の支部などに、「数検」の詳しい話をさせてもらいに行ったこともありますよ。

−−その当時の学校教育はいかがだったでしょうか。

田:教育上では苦労が多かった時代ですね。小学校の教員などは、自分が理数系が苦手なのに、算数を手探りで教えていた人も少なくなかったようです。また、中学になると専門の教員制度になりますが、聖職と呼ばれた時代とは異なり、教員がサラリーマン化していたために、子どもの個別対応ができなくなってしまっていました。全体的に教員の能力が低迷化し始めたのも、この時期からだったのではないでしょうか。

森:そうですね。その当時から教育のフォローを塾が行うというスタンスができあがったのだと思います。

田:ええ、そのために「数検」を塾へ薦め始めたのですが、どうも今ひとつ認識されなかった。そこで、もう一度学校へ目標を絞り、生涯活きる技能としての実用数学技能検定であるとして、提示したのです。計算能力向上だけでなく、測定技能、証明技能などの七つの技能を特化させて薦めることにより、数学の全体的な技能を高める検定ですよ、と学校関係者に教えました。その甲斐あって、今では全国で七千〜八千の中高が学校を上げて受検しており、多くの大学や高校で、一定の級を取得すれば推薦入試などでの優遇措置があるようになりました。

森:そうなると塾側としても、学校が導入し、受験で優遇されるようになった「数検」を実利のあるものとして捕らえ始めるようになり、今では塾生に必ず受検するように薦める塾も多くなりましたね。

田:そうですね。昨年は年間に約26万人の受検者がおりましたし、ここ数年右肩上がりに受検者数が増えていますから、今年はおそらく30万人を超えることになると思います。

生涯学習と数学教育その豊かな未来に於いて

−−田さんの学力低下に関する論文の中に、『65歳になれば、誰でも近くの大学に再入学でき、学習した成果に応じて健康保険料の金額を安くする施策を』という興味ある一文がありましたが。

田:私は生涯学習に着目しておりますが、中でも高齢者をターゲットにした教育には重点を置いています。学習塾にも言えることですが、高齢者に対して脳内にある学習の記憶を思い出すことで、生活力を養うという学習療法とも言える方法を、高齢者に施すことが、今後の高齢化社会に対する対策として必要ではないでしょうか。無論、数学検定、英語検定も受検してもらい、学習意欲を高めていただくことも視野に入れています。

森:確かに高齢者、特に80代になると、小学校で覚えた算数はまだ非常に良く覚えており、すらすらと解くこともできるが、中学・高校の数学になるともう式を立てることすらできないという人が多くなりますね。老人ホームでは、お金を使った買い物ゲームなどで痴呆の進行を食い止める療法などが実際に行われているのですが、実際に自分が体験したことを繰り返すことで、頭の回転を強くする練習になるようです。そういう意味では、生涯学習に数学教育を採り入れることは非常に価値のあることだと思いますよ。また、もともと、日本には算盤を初めとして、算数の能力は非常に高いものがあるのですから、それを大切に引き継いでいくためにも、生涯学習は必要ですね。

田:同感です。現在、「数検」の受検者数は急激な伸びを見せていますが、われわれはこれを学校にとどまらず、生涯学習にも十分使っていけると考えているため、市場はまだまだ広がると思っています。

森:それは塾も同じですね。学校教育をどれだけその塾が重視するかでも違ってきますが、「数検」を社会が認知するに従い、生涯使える資格検定として受験の時の優遇措置になったり、受験の合格ライン目安になったりするでしょう。これからは積極的に採り入れる塾がもっと増えてくると思いますよ。

田:そうですね。資格検定なら将来就職活動で履歴書にも書き込めますから、受験対象学年でなくとも、勉強へのモチベーションになると思います。塾にとっても今後さらに役立つ存在となるでしょう。

−−今後も「数検」・塾ともどもの発展をお祈りしています。本日はありがとうございました。

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