第1部 著作権問題と日本文藝家協会
三田 誠広 氏(作家・日本文藝家協会常務理事知的所有権委員会委員長・日本文藝著作権センター事務局長)
日本の著作権には「著作者人格権」など様々な権利が付随していますが、経済的な面では複製権が中心でした。
近年は二次利用に関する法律もつくられ、すでに「送信可能化権」も盛り込まれています。「送信可能化権」とは、インターネットなどで自動的に公衆にデータを送信できる状態に置く権利であり、入試の過去問など、著作物から一部を転載した長文問題をHPにアップすると、著作者の送信可能化権を侵害。法律違反となります。
著作権が教育にかかわる部分としては著作権法第32条・第35条・第36条などが挙げられます。第32条は教科書への掲載について定められており、検定教科書に作品が掲載される場合、著作者は内容に関して注文を出せますが、掲載自体を拒否できません。教育という公共の利益のために著作者側の権利が一部制限されているのです。第35条は学校での著作の複製を条件付きで認め、第36条は入試や検定試験での作品使用を認めています。ただし、教育に関しては著作物を自由に利用してよいというわけではありません。
5年ほど前、詩人の谷川俊太郎さんら数人が「作品を無断使用された」と、教科書準拠ドリル業者の組合である日図協(日本図書教材協会)を訴えました。日図協側は作品の部分的使用を「引用」と考えていたため、著作者には連絡をしていませんでした。
裁判の結果は引用ではなく転載、つまり複製と判断され、ドリルの価格の8%を過去20年にさかのぼって支払うよう判決が下されました。著作権の時効は通常3年です。しかし著作者は、学校に直接納入されるドリルの存在を知る状況になく、時効は成立しませんでした。
この訴訟が起こされたのは、私が文藝家協会で知的所有権委員長を引き受けて間のない頃でした。訴訟が新聞などで大きく報道されると、その時点から時効のカウントダウンが始まります。3年経つと時効が成立してしまう恐れがありましたので、裁判を起こした人以外の著作権問題を早急に処理する必要に迫られました。日図協側からも申し出があり、3年ほどをかけて話し合いを続けました。
私は作家として著作権をないがしろにされるのは問題だが、法外な金額を要求して教育関係者や生徒・保護者に過大な負担を強いたくはないと考え、5%で10年と取り決めました。その他、学習教材協会や大手教育出版社などとも同様の条件で交渉を終えています。
その後、文藝家協会内部に著作権管理部を設け、協会員以外の方々からも作品を委託していただき、一括管理を開始しました。その数は2500人ほどで、当協会のHP(http://www.bungeika.or.jp/)から許諾申請手続きが可能です。
今後問題となるのは、学校や学習塾など、教育現場における著作物の利用です。先に申し上げたように著作権法第35条は、学校法人の学校において教科担任の先生が自分の担当するクラス用にコピーすることを認めています。しかし、担当以外のクラスに配布すると違反になります。著作者の権利を不当に侵害するとみなされるからです。
第35条の解釈については音楽・映像関係の方々とも相談。権利者側の見解をガイドラインにまとめ、当協会のHP上にアップしています。
入試問題に関しても、著作物の利用が認められているのは入試時のみ。過去問の第三者への配布は違反です。
営利を目的とする学習塾においては、複製自体が違反となります。
学校や学習塾で印刷物を作るたびに許諾を求めなければならないのは、大変な作業です。しかし、面倒だからと著作物を利用しないとなると、正常な国語教育は成り立ちません。
私たちは、教育における著作物の利用が日本の文芸文化の基礎であると考えています。そこで、簡単な手続きでストレスなく著作物を利用していただくために、あらかじめ保証金を支払っていただく方法をご提案しています。ただし、学校法人の学校と学習塾では第35条の関係で金額に差が出ます。いずれにしても協会としては法外な金額を請求するつもりはありません。
学校関係は、「著作権利用等に係る教育NPO」を相手に交渉を進めていきます。塾の方々ともまとまった形で話し合いを持ちたいと考えています。
当協会とは別に、すべてを裁判に訴えようという団体も存在しています。裁判になるとけた外れの賠償金額を請求されるうえに、使用料も高額なものとなりかねません。教育現場で適切に著作物を利用していただくためにも、皆様のご協力をお願いいたします。
(続きは本誌にて…) |