いうまでもないことですが、折り込みチラシは目立たなければなりません。その場合、敵はライバル塾だけと思うのは大きな間違いです。毎日の新聞には塾と同時に他の業種のたくさんのチラシが折り込まれてきます。その中で、とにかく消費者の目にとまり、手にしてもらえなければ何にもならないからです。
では、目立つ工夫にはどんなものがあるのでしょう。
まずハード面では、用紙の工夫があります。チラシには普通、コート紙か上質紙が使われていますが、あえて中質紙やアート紙などを使ってみる。紙の厚さも、通常の73kgのコート紙や55kgの上質紙ではなく、例えばハガキに使う厚さの紙やごくごく薄いものを使ってみる。さらに大きさや形状。一般的にはB4判かB3判ですが、わざと小さなA4判やB5判、あるいは細長や丸形のような変形や穴の開いたものなどを使ってみる――。こういう工夫の仕方です。
次にデザイン面の工夫。
これには写真やイラストやグラフを大きく載せる、原色を上手に配置する、文字や数字を大きく書き込む……等々の工夫があります。
正直なところをいえば私は、他業種のチラシも含まれる中での戦いですから、できるならハード面からの工夫も求めたいと思ってはいます。城南予備校のような分厚い紙、市進学院のような細長い用紙、あるいは塾名は失念しましたが昨年どこかの塾がやったという「丸い」用紙。そういう工夫ができればそれに越したことはありません。しかし、これをすれば間違いなく印刷や折り込みの費用が割高になってしまう。妥当なところで、普段はB4判を使いながらたまにB3判を使う、A4判を入れてみる。普段はコート紙を使いながら、たまに一分の一のような中質紙や、分教場単位で折り込むさいには上質紙も考えてみる、という程度で無理をする必要はないかもしれません。
それよりもむしろ、考えていただきたいのはデザイン面での工夫です。
デザイン面で目立つ工夫は、それこそ数え切れないほどたくさんあります。が、おそらくいちばん簡単なのは、例えば子どもの写真を大きく載せることでしょう。TVCM界に「困ったときの赤ちゃんと動物」という格言(?)があるそうですが、塾業界も同じで、キリリと鋭い眼をした中学生やかわいい顔で笑っている小学生の写真が大きく載っていれば、なにはともあれかなり目を引くものです。
以下、このデザイン面での工夫のさいに、注意を促しておきたいことを2点、記しておきます。
(1)「塾らしいチラシ」にする
人口30万人のエリアに10万枚のチラシを折り込んだとしましょう。私の計算では、このエリアで多少なりとも塾に関心を持っている子どもと保護者の数は2万7862人、うち現実に入転塾を考えている子どもと保護者の数は8359人です。かりにこの全部が毎日折り込みチラシを眺めているとして、彼らは眼を皿にして一枚一枚のチラシをめくるものでしょうか。たいていははぱらぱらと目を通しているうちに、塾らしいものを見かけたらそこではじめて手を止めてじっくり読んでみる、そんなところでしょう。であるとすれば当然、塾らしいチラシでなければならない、一目で塾だとわかるチラシでなければならない、というわけです。
後ろに協力いただいた6つの塾のチラシと新聞広告を載せておきました。5例目の早稲田スクールのチラシのオモテ面をご覧ください。中学生でしょうか、凛としたいい眼をした女の子と柔和なかわいい眼をした女の子の写真が載っています。非常によく目立って、しかも一目で塾とわかる。申し上げてきたことの好例です。
(2)「キレイ」にこだわらない
チラシ作りにデザイナーの手を借りる場合も多いと思います。餅は餅屋で結局、広告効果が高くなるはずですから、多少経費が掛かっても私もそのほうをお勧めしますが、デザイナーによってはときに、「キレイ」と「目立つ」とを混同している方がいるものです。たいていは色の選び方とその配置(おもにパステル系の色使い)の問題で、すばらしくキレイで上品ではあるけれども、残念ながら目立たないというケースです。
1例目の開成教育セミナーのウラ面を例にあげさせていただきましょう。この塾のチラシはかなり上質なチラシです。点数をつけるとすれば十分「優」クラスに入るでしょう。しかし、モノクロ写真ではわかりにくいかもしれませんが、例えばタテイチのキャッチが薄い青ベタの文字白ヌキになっていたり、小見出しが同じく薄い黄色だったりして、読みにくい上に目立たない。上品でキレイではあるけれども、残念ながら宣伝物としては画竜点睛を欠き、「マル優」には届かないチラシになってしまいました。もったいないというのが私の実感です。
とはいうものの、「キレイなチラシ」に意味がないわけではありません。上品で立派なチラシにはなによりも塾生とその保護者に満足感を与え、塾への帰属意識を育むという見えない大きな役割があることを、皆さんもご存知でしょう。少しばかり目立たなくてもキレイで上品なチラシのほうが、ケバケバしく下品なチラシよりずっといいと塾生は考えるものですし、その思いはみごとな地下水脈となって塾生増加に結びついていくものです。デザイナーとクライアントがそこまで考慮して「キレイ」にこだわっているようなら、もちろん何も申し上げることはありません。 |