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安田教育研究所
代表 安田 理 |
これから先、塾を囲む環境が年々厳しくなるであろうことは誰もが否定しないであろう。
が、全体としてはそうであっても、どんな業界でもそうであるように、その中には必ず繁栄を続ける勝者がいる。そうした勝者に共通していることは、「これからの社会を読む力」に優れ、「変化に応じて自身を変える力」を有していることである。そこでこの稿では、塾を巡る環境としてはこれからどのような変化が予測できるのか、それを見ていくことにしよう。
自治体の「教育改革」が活発になる
「教育」はお金がかからず、もっとも効果的な住民サービス
「はこもの行政」が財政難から行き詰まり、各自治体はそれに替わる住民サービスの材料を探していた。折から、小泉内閣により「権限の地方委譲」が打ち出され、教育面でも「画一から多様へ」のスローガンの元、様々な独自の試みが認められるようになった。
「教育」は、住民にとっては最大の関心事である。自治体の首長からすれば、この機会を逃す手はない。かくして各自治体は競って「教育改革」に乗り出すようになった。
「学校選択制」「学力テスト」「教員の独自採用」「土曜講習の実施」「社会人講師の起用」「学習サポーターの派遣」「二期制の導入」「退職教員を活用した学習の場の創出」…ここへきて市区町村ごとに実にいろんな施策が打ち出されている。多額の財政出費を伴わず、それでいて住民受けするもの、目立つことを選んでやっているようにさえ見受けられる。
なかには、これまで塾がやってきたことを肩代わりするようなものもある。住民にすれば、無料ならば当然そっちに行ってしまう。自治体の教育サービス競争は、紛れもなく塾にとっては脅威となる。
自治体ごとにバラバラな時代が来る
私の事務所は、実は東京の港区にある小さな塾内におかせてもらっている。その港区で、一昨年の夏、こんなことがあった。港区が区内の全小・中学校で突然夏期講習を実施したのである。
塾にとっては、いちばんの稼ぎ時である夏期講習に子どもが来なくなったのであるから一大事である。死活問題である。こんなことが、これからは日常茶飯事で起こる―そう思っていなければいけない。
ではお隣の区も夏期講習を実施したかというと、そんなことはない。隣接していても状況は全く違うのである。
また、私の住んでいる横浜市は来年から全小・中学校が「二期制」になるが、お隣の川崎市はならない。
つまり、これからは様々な事柄が自治体によってバラバラになるのである。
こうなると、広域に展開している塾にとっては厄介である。夏期講習を実施する教室と実施できない教室、市をまたがって通ってくる生徒がいる教室は定期試験対策の回数、時期、範囲が違ってしまう。
このほかにも、全教室一律というスタイルが困難になる要素はいくらでも出てくるであろう。
家庭の財布事情
環境の変化として考慮に入れなければならない重要な要素に「家庭の財布事情」がある。
これからの産業界を考えたとき、工場の海外移転による産業の空洞化、賃金における年功序列給の崩壊、正社員採用の抑制(派遣・パートで代用)と、従業員側にとっては明るい材料は少しも見当たらない。このところ企業業績が回復基調にあるといっても、従業員自体の雇用条件は少しも好転していないのが現実だ。
「数パーセントの飛び切りのお金持ちと、90数パーセントの貧乏人の時代の到来」ということが言われている。『年収300万円時代を生き抜く経済学』という本が売れているように、これから先多くのサラリーマンの所得は減少する方向にあると予測される。「年収300万円」―当然わが子を塾に通わせることは不可能である。こんな時代になるとしたらどうしたらいいのだろうか。
商売の原理からすれば、『薄利多売』か『高品質高価格』かということになるが、300万円では『薄利多売』も限界であろう。私個人としては賛同できないことであるが、少数のお金持ちを対象とした『高品質高価格』路線を採るしかないのではないか。
ただこうした路線で存在できる塾の数は、対象人数が少ないのであるから当然ごく少数となる。しかも突出した優れた点がなければこの競争に勝つことは難しい。
高い費用を納得させられる「高付加価値」を与えられる塾だけが存続できる時代になる、
経済的要素だけを考えればこうした予測が成り立つのである。
― 一部抜粋 ― |