STEAM教育における
美術科の新しい役割
サンゴやロボット研究に代表されるSSHの活動、自由研究における探究型学習など長年にわたり、STEAM教育の素地を積み重ねてきた玉川学園。美術科においても「本物に触れる教育」の方針の下、クリエイティブな授業を展開していた。
玉川学園の美術教育は2007年の国際バカロレア(IB)プログラムの導入によってその考え方が大きく変わった。IBプログラムに占める美術(Arts)の比重は高く、日本の学校における美術教育とは考え方が異なる。
「作品のクオリティを重視するのが従来の日本の美術教育。しかし、IBでは、何を考え、どのように情報を取り入れ、そして自分の伝えたいことをどう表現するのか。作品を通して自分の考えを表現するプロセスに重点が置かれています」と中学の美術科主任の瀬底正宣先生は話す。
その考えを実践したのが、10年生(高校1年生)のIBクラスで行われた保健センター健康院の竣工式のための記念品プロジェクトだ。石けん・バスボム・キャンドルの制作、パッケージデザインなどをグループ別に担当。ミツバチの研究で知られる玉川学園らしくハチミツを使い、健康院のイメージ「清潔感・heal=癒し」に合わせてプロデュースした。
商品開発では玉川大学農学部教授のアドバイスを仰ぎ、バスボムは3Dプリンターを使って型取りをするなど最先端の技術も導入。パッケージデザインでは、ハチの巣のモチーフに持ち運びやすさも考慮して設計。何回も試作を繰り返し、企業の商品開発さながらのプロセスを経験した。生徒にとっては美術の授業の枠を越えた貴重な体験となった。
デジタルとアナログで
本当の創造力を育てる
「デジタル技術を使うだけではなく、 手も動かす。アナログな部分も大切に しているのが玉川学園のSTEAM教 育の特色です」と話すのは、高校の美 術科主任の梶原拓生先生。
身に付けられるアートをつくる 「WEARABLE ART」という授業では、 最初にデッサンを行った。身の回りに あるものをデッサンすることでイメー ジを膨らませ、アイデアを3Dソフト で設計。3Dプリンターで出力して、 立体作品として完成させた。
「デジタル技術を使いこなす力とデ ッサン力。この両方を備えた人材を育 てたい。そうすることで本当の意味で の創造的な力が生まれると思います」 と梶原先生は話す。
玉川学園では、美術科が他の教科同 士をつなぎ、STEAM教育を推し進めている場面が多く見られる。例えば、高校の文化祭「ペガサス祭」のギリシア神殿をイメージした装飾では、デザインは美術だが、LEDライトやレーザー光のアニメーションのプログラミングは別の教科の教員に相談。協働しながら装飾を完成させた。
今年度の4月には生徒の創作意欲をすぐに形にできる「アートラボ」を設置。3Dプリンターやレーザーカッターといったデジタル・ファブリケーション機器を揃え、希望する生徒たちが自由に集える場所であり、昼休みや放課後に集まっては、玉川学園の創設以来の伝統である「労作」などに取り組む。
「労作」とは、玉川学園の創立者である小原國芳が掲げた「全人教育」の根幹として、大切にされてきた教育の一つ。生徒たちはこの労作に自主的に参加し、学園内の施設や庭造りなど、さまざまな活動を行ってきた。参加することにより、一つの教科ではくくれない多様な学びをできるのが、この「労作」の大きな利点だ。
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学園内の環境整備のために伐採された樹木を、教育活動の中で再利用する「TAMATREEプロジェクト」を実施し、木製の椅子などを製作。森を守ることも学びながら、製材のプロセスを通して、輸入材の多い日本の林業の現状も知る。教科の枠を越えたSTEAM教育の実践である。
豊かな感性を育み
夢の実現へ知性を磨く
こうしたSTEAM教育の根底にあるのは、90年間揺るがない「玉川モットー」だ。創立者・小原國芳は全人教育を提唱し、「人生の最も苦しい、いやな、辛い、損な場面を、真っ先に微笑を以って担当せよ」という言葉を残した。これは玉川学園で学ぶすべての「玉川っ子」が共通して目指す実践目標となっている。
「自ら困難に立ち向かい、それを担う気概ある人材こそ次世代のリーダーとなると考えています」と中学部長の中西郭弘先生。
中学部では「触れて」「感じて」「表現する」をキーワードに、様々な体験をするように呼びかけている。そうした体験により感性が磨かれ、新しい発想が生まれる土台をつくっていく。
もう一つ、生徒が取り組んでいるのが「玉川しぐさ」だ。これは玉川っ子としての粋な振る舞い(他人や社会全体を考えて行動するなど)のこと。中西先生は「丸み、深みのある大人になるために、様々な体験と玉川しぐさの2つを実践できるといいね、と生徒たちに話しています」と語る。
高校では中学で磨きをかけた感性に、知性を加えた「知性と感性の共創」を目標に掲げている。高等部長の長谷部啓先生は「感性が豊かでも知性が足りないと、表現の幅は狭まってしまいます。高校では、将来の夢を実現するため必要な知性を身に付けさせていきます」と話す。
玉川学園が掲げる「自学自律」の精神を最もよく表しているのが、自分の興味・関心のある研究テーマに取り組む探究型学習の授業「自由研究」だ。中学では各教科が主体となる「教科発展型」の研究を進める。
9年生(中学3年生)になると「学びの技」として、テーマの決め方、情報収集などの論文作成のスキルを学び、3000字以上の論文にまとめる。さらに10〜12年生(高校1〜3年生)では5つのカテゴリー(人文科学・社会科学・理学工学・教育・芸術)から自分で研究テーマを見つけ、論文を書き、プレゼンテーションも行う。玉川学園の探究型学習「自由研究」はまさにSTEAM教育に直結している。
中西先生は「玉川学園は将来への可能性を見つけられる学校です。色々な夢を描いている子どもたちにぜひ来てほしいですね」と話している。
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