真面目にやっても失敗?
自然は思い通りにはならない
「虫がいる!」「どこ?」。畑に声が響く。恵泉女学園の中学1年桃組の園芸の授業。5月の今日は、4月に植えたジャガイモの芽を間引く「芽かき」を行い、追肥と土寄せをする。授業をするのは、副校長で園芸科の松井信行先生だ。
「先生、どれを抜いたらいいんですか?」「これでいいのかな」。どの芽をとるか相談しながら作業を進める生徒たち。松井先生は各班の畑を回りながら、質問に短い言葉でテキパキと答えていく。
最初は追肥の肥料の独特の匂いに鼻を押さえていた生徒たちも、いつの間にか手づかみで肥料を撒いている。地下茎に日光が当たるとイモにならないことから、スコップで根元にこんもりと土を寄せた。
「生徒に伝えたいのは、真面目に愛情を持ってやるということです。しかし真面目に世話をしたからといって、たくさん収穫できるとは限りません。それが園芸の奥深さであり、人の思いを超えた自然の営みに対する理解にもつながっていきます」と松井先生。
次に向かったのは花壇。同校では入学したばかりの春には、ビオラやアリッサムなど6種類の花の名前を覚えるが、花壇にはそれらの花々が咲き誇っている。生徒は「これはワスレナグサ、これは…」と指を折りながら暗記。
教室に戻った後は、ワタとバジルの播種(種まき)を行った。ポットに土を入れて、その上に種をまく。秋にはバジルもワタも収穫できるはずだ。
最後はイチゴの鉢植えのスケッチ。生徒は見たままの姿を描こうと、真剣に観察をしながらスケッチを進めていた。
食べることは働くこと
経験そのものが宝
園芸の授業で、生徒を成長させるのは「経験そのもの」と松井先生は話す。
「高齢者施設でのボランティアで竹を切る作業があったのですが、園芸で同じような作業を経験していたこともあり、生徒たちは『できます』と、すぐ行動に移せました。1とゼロの間には大きな差があって、1回経験しているとすぐ次のステップに進める。それはとても良いことだと思っています」 |
また学年が上がるにつれ、次は何をしたらよいか先を読み、言われなくても自分たちで行動するようになる。園芸がキッカケで、食わず嫌いだった野菜が食べられるようになる生徒もいる。
「一般的に、園芸は理科の授業の一部のように思われがちですが、理科とは違う面を持っています。植物を育てるのと同時に、心を育てるのが本校の園芸です」
友達と協力し合って働かないと作物は育たない。育てた小麦は刈り取り、干し、千歯こぎや石臼を使って粉にしてから、やっと授業でパンを焼くことができる。苦労して作ったパンを食べるとき、生徒は「食べることは働くこと」を実感することができる。
「卒業生はよく『もう一度、園芸の授業を受けたい』と言いますね。今はまだわからなくても卒業して数年経ってから思い返すと、得たものが大きいと気付く。それが園芸の授業だと思います」
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