学問の魅力あふれる空間に
自ら学びに向かう姿勢へ
「各フロアで教科の世界観に包まれ、全学年の交流が始まる。ランチや自習は好きな場所で、エントランスの大階段ではパフォーマンスを披露するなど、新校舎内すべてのエリアが自由に使える、生徒のテリトリーになります」
創立142周年の青山学院はキャンパス内の再開発計画を推進中だ。中等部には21世紀型の学びを創る新校舎が2017年春に完成。「教科センター型」の7階建ての校舎は各フロアが教科専用となり、全学年の生徒がフロアを往来する。各階のメディアスペースは学習成果を展示、ディスカッションやプレゼンテーションを行う。最新のICT設備を整えるが、すでにWeb上での情報システム「コースパワー」を英語など一部教科で運用中だ。
「外国人にインタビューした動画をコースパワーに乗せると生徒は随時閲覧でき、『自ら質問内容を考える』という課題も受け取れる。英語文法も授業映像を生徒があらかじめ見ておくと、反転授業も可能です。発表物もWeb上で見せ合えば、生徒同士の学びになります」
新しい教育形態に臨む教員には何が求められるか、敷島部長に尋ねた。
「基礎知識の教育・指導はもちろん、学びの材料の提供やチャンスづくり、学び方のアドバイザーになれること。教員が生徒に知的刺激を与えられる存在かどうか、根源的な力量がより問われるでしょう。本校の教員は『もっと頑張れる』と校内外で数多くの研修を受けますが、いずれ新校舎で生徒に還元されていくことでしょう」
生徒も教員も「待つ姿勢から向かう姿勢へ」、そして全学年が同じフロアを共有する。2つの大転換は、総合学園における中学教育が果たす使命、同校の生命線と敷島部長は捉えている。
学び続ける力を創るのは
本物の楽しさに触れる授業
同校では、中等部出身者の青山学院大学卒業までを追跡調査し、進路、就職についても学校説明会で伝えている。
「成績や行動面で周囲を心配させた子も、確かな就職先を決めていて感動しますね。中高6年間はゆったり過ごしても、大学時代に大きく成長したという話は実際よく聞きます」
大学と資格専門校とのWスクール、企業内インターンなど、学問やキャリア修得に積極的、かつ体育会系クラブ活動と継続している学生が多いのも中等部出身生の特徴だという。
「興味があることは何でもやりたい」、それが中等部出身生の原動力、と敷島部長。その土壌は創立時からの「本物を存分に与えたい」信念に基づく学びの場づくりだ。3年次の豊富な選択科目群の多くは教員が情熱を傾けている専門分野、かなり高度な講座もある。
「中学生対象ならこの程度でいい、ではなく、その学問の持つ深みや面白さ、驚きを実際に体験させたい」と敷島部長が語るように、「本物にこだわる」情熱があふれる授業だ。「経済」ではOBの企業人を招きソーシャルイノベーションを理解するワークを実践、数学「暗号入門」では暗号研究の最先端を学ぶ。大学教授の出張講義もある。
2016年度入試は受験者数が225人増、女子の実質倍率は約1.6ポイント上昇、受験回数は1回のみにもかかわらず、近年人気は急上昇だ。
「入学後の生徒をどう伸ばせるかは学校の責任。『すべてに一生懸命に向き合う姿勢』を大事にしたい。多様な「本物」に触れながら生徒がやりたいことを見つける、新校舎はその機会をさらに拡大、促進してくれるはずです」
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全学年が行き交うフロアは
青学の人間関係力を拡大する
もうひとつ、敷島部長が新校舎に大きな期待を寄せるのが「全学年が共有するフロア」だ。学年を越えた交流が拡大する中、どんな化学反応が生まれるか。中等部生の多くは高等部・青山学院大学と10年間の時間を仲間とともに過ごす。「自分たちが考えたことを先生方は存分にやらせてくれた」と卒業生の多くが語る。敷島部長は「生徒が面白がることを教員が邪魔をしないだけです」と笑う。東日本大震災後の中等部出身の有志のボランティアは、大学生になった世代を軸に継続中だ。
「自分たちがやりたいことを友達に声を掛けつつ巻き込んで、企画や活動の幅を広げながら後輩も育てる。人との関係を作りながら生き生きと楽しんでいるのが素晴らしい。みな協力を惜しまないし、人の協力を得られる自信もある。『人と一緒にやる』ことが好きですね。仲間の関係が良いからでしょう」
タテもヨコも個性を認め合い、刺激を与え合い続ける中で行動力が発動する。「その根源はキリスト教信仰に基づく教育が涵養する『自己肯定感』にあります」と敷島部長。
人間関係に揉まれながら、互いへの理解や信頼、多様性など「人に関する幅広い受容」を身に付ける。人の力を得ながら自分のアイデアを実現させる術、自分の生かし方を見出す、そんな中等部生の底力が発揮されるのが、生徒中心の運営による文化祭だ。2015年の文化祭のテーマは「Bloom〜たすきをつなぐ〜」。先輩が培ってきた伝統を栄養に、自分たちの花を咲かせて皆が輝き、種を次世代につなげよう、という願いが込められているという。「ここから」は「此処」と「個々」の意味を持つ。新校舎から、中等部生の個々の芽が息吹き、どんな花を咲かせるのか、ぜひ見届けたい。
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