皆ありのままで平等
だから皆で一緒に背負おう
今春、青山学院中等部部長に着任した敷島洋一氏は、英語の授業で初めて出会った生徒たちの印象を強烈に記憶している。今から23年前のことだ。
「僕らの世代と違って、先生に対して臆する気持ちや距離感を持たず、フランクに話しかけてくることに驚きました。しかし、だからこそ生徒に一人の人間として向かい合えます」
伸び伸びとした生徒像は今も変わらないという。同校ではキリスト教の精神に則り、「一人ひとりがかけがえのない存在、欠点も含めて『みんな宝』なのです」と伝え、自己肯定感につなげている。生徒たちの伸びやかさは、異文化圏の大人にも鮮烈な印象を刻んだようだ。
「先日、サウジアラビアの学校関係者が授業見学に来た際、中1生が『ハロー!』『ウェルカム・トゥ・青山!』と屈託なく挨拶し始めたんです。臆することなく英語でコミュニケーションできることをサウジの方々も褒めてくださいました」
率先して交流する姿に、「愛と奉仕の精神で、すべての人と社会に対する責任を進んで果たす」青山スピリッツが垣間見える。
昨秋の中等部祭のテーマは「シェア〜喜びも痛みも〜」。毎日15分の礼拝、週1時間の「聖書」の授業は中学生の心にどう響くのか。
「毎日の食事のように生活の一部となります。そのときはその良さがわからなくても『どう生きる、何のために? 自分の存在、命とは?』と蒔かれた種は、生徒の心には確かに残って育っていくようです」
中等部祭の開会宣言の前にも礼拝が行われる。昨秋は実行委員がテーマにこめた思いを語った。
「東日本大震災の痛みを分かち合うことを含め、喜びも痛みも全員で共有しあいながら作り上げる中等部祭です」
「教科型」新校舎で進化する
生徒が学び、深め合う授業
2009年から青山学院の再開発「アカデミック・グランド・デザイン」が始動。今年末、中等部の新校舎建設に着工、2016年秋に各フロアに教科ごとの教室群を置く『教科センター型』の新校舎が完成する予定。敷島部長は、中等部のさらなる見える化を目指す。
「本校の良さをもっとお伝えしたい。教育の中身を積極的に発信していこうと考えています。各フロアのメディアスペースでは、生徒の作品や発表物を展示します。今まで以上に授業も『先生が教える』から『生徒が学ぶ』方向へと進化していくでしょう」
電子黒板やタブレット型教材対応の通信環境インフラも整備。アプリなどを駆使した個別学習支援と、ディベートやプレゼンテーションなど体験型グループ活動、その両面を連動させていく予定だ。グループ学習・体験型学習は創立以来、精錬を重ねて質を高めてきた。件のサウジアラビア視察団が絶賛した理科は、実験・観察に相当数の経験を積ませる同校の伝統授業。この日は「白い粉」の正体を調べる方法をグループで議論。教員は生徒が学ぶための材料を提供し、学びが上手く流れるための旗振りは行うが、解答に至る方向性は示さない。昨年まで教壇に立っていた敷島部長もアイデアは尽きない。
「私がひとつ考えているのは、生徒たちが大人になってからの社会と、どうつながっていくかを考えさせる授業。『自分ならその状況でどうするか?』グループや個人で思考を深めるような学習が展開できたら素晴らしいですね」 |
「好き」を極めて「伸びる」
「喜ぶ力」で未来を生きる
同校の究極のオリジナル授業は、3年次の選択授業だ。昨年は19講座開講。敷島部長も十数年来、外国映画のスクリプトと日本語字幕を比較して翻訳の奥深さを知る講座を担当していた。
「講座はその先生が大学院などで専攻してきた内容が多い。当然、その面白さを生徒に伝えたいので、情熱が授業に表れます。教員にはやりがいがあり、生徒には少し背伸びした内容でも、頑張った分、確実に力になる」
「経済」の講座では、株式学習ゲームで企業の仕組みや社会的役割などを学んだ後、東京証券取引所を見学、株式模擬売買を体験する。「中国語」では企業と提携し、全国初の中高生向けe−ラーニングを試験導入、自習環境を強力サポートする。「イングリッシュ・ドラマ」はネイティブ講師とともにシェークスピア作品の原文を読み込み、レポートも添削を受けながら磨いていく。
「教員たちの目標は、まず『好きになってもらう』です。生徒たちは面白さがわかれば、もっとわかりたいと勉強していきます。良い学校とは生徒が『伸びる』学校です。入学生一人ひとりにとって青山が『良い学校』になってほしいと思います」
これからの人生を歩む生徒たちには、「喜ぶ力」を身に付けてほしい、と敷島部長は最後に付け加えた。
「彼らは将来、日本を越えて、世界で生きていくことになるでしょう。どんな状況下でも、自分の存在を喜び、他人を認める。自分に絶望せず、平和な社会に貢献できる、可能性は絶対にある…そう信じて生きていける『喜ぶ力』を持ってほしいし、育てたいです」
生徒たちの底抜けに明るい笑い声が校内に響く。「それが青山学院中等部の伝統です」と敷島部長は目を細めた。
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