ひとつの細胞から広がる世界
3連休明けの1時限目。1年8組は小林ひかり先生の「生物基礎」の授業だ。
「中間試験までガンガン進みます」
高校入学後、初の定期試験まであと11日。小林先生の一言で、クラス全体が一気に集中モードに入る。
特進クラスは1クラスの定員を最大30名としている。1年8組は29人編成。その半数が内部進学の生徒だ。クラスの約8割がクラブに加入し、毎日練習に励んでいる。
今日の授業は、「細胞」。小林先生はアメーバーの図を板書し、両手でジェスチャーを交えながら「植物細胞もジュワーと動きます」と、「原形質流動」を説明する。手の動きが印象的で記憶に残りそうだ。
次に「細胞を構成する物質」を考える。一番多い物は何かという問いに、生徒からすぐには答えが出てこない。
「○○さんを絞ると何が出てくる?」
小林先生が絞る真似をして見せるとどっと笑いが起こり、「水!」という声があがる。「一般的に、動物も植物も生物の70%は水」という説明が加えられ、続けざまに「次に多い物資は?」「その次は?」と、発問と答えのやりとりがハイペースで進む。タンパク質や脂質、炭水化物が出たところで、「三大栄養素」・「五大栄養素」を確認する。
「これは一般常識だからね」と小林先生。
生徒たちから次々と答えが出てくる。リラックスして自由に発言できる雰囲気だ。無機質に関しては、鉄や亜鉛などの化学記号も確認。さらに、それぞれの栄養素を多く含む食品へと話題は広がり、「動物細胞と植物細胞を構成する物質の違い」と栄養素が関連づけられる。
小林先生のポリシーは、教科書の内容だけでなく、普段の生活で必要な知識を意識的に取り入れていくこと。そうして「生き物とは何か」というところまで考えが及ぶことを願っている。 |
|
手を動かして細胞の構造を理解する
細胞を構成する物質を押さえた後は、単細胞生物と多細胞生物の比較だ。
小林先生は生徒にゾウリムシをノートにスケッチするように指示。
「輪郭は必ず1本の線で描く。濃淡は塗らずに点で表す」と注意事項を付け加える。
ゾウリムシは単細胞生物。1個の細胞のなかに様々な機能が備わっている。これに対して人間は多細胞生物。1個の受精卵からさまざまに分化し、成長するにしたがって60兆個まで増える。小林先生は、単細胞生物をワンルームマンションに、多細胞生物を豪邸に喩える。生徒たちは納得の表情だ。
ではゾウリムシの構造はどうなっているのか。小林先生が細胞小器官の名称とその働きを説明し、生徒に人間の臓器や器官と対比して考えさせる。
授業はテンポよく進み、ヒトのからだを構成する60兆個の細胞は大まかに「上皮組織」「筋組織」「神経組織」「結合組織」の4つの組織に分類できることを説明して終了。あっという間の50分だ。
授業後、ある生徒は「生物は自分の身体のことも分かってくるのでおもしろい」と笑顔を見せた。また、毎日ダンス部の練習に励んでいるという生徒に、勉強と部活の両立について聞くと、明るく「がんばってます」と答えてくれた。
小林先生と生徒たちの掛け合いでペース早く進む授業。内容もぎっしり詰まっているが、生徒たちの明るい表情が、「しっかりついていってます」と語っているようだ。 |
|