ボディメカニクスで
介助者の負担を軽減
福祉実習室では4時限目の授業が始まろうとしていた。今日は2時限目から連続3時間の実技演習授業。真新しい実習服を身に付けた生徒たちが席につく。
授業を担当するのは、NPO法人福祉サポートセンター「さわやか愛知」の加藤弘美講師。今日は特別に丸山冬芽講師にも来ていただいている。
「さわやか愛知」は、サービスを受ける側と提供する側が互いに補え合える相互扶助を目指して、介護サービスや資格講座を展開している。2007年には愛知県の「人にやさしい街づくり賞」を受賞。新しい形の介護として、マスコミからの取材も多い。
授業の始めは3時限目のおさらい。加藤講師が「体位変換のときにベッドに膝をつけるのはなぜ?」「てこの原理はどこを使う?」と次々に問いかける。
単に介助の手順を覚えるのではなく、科学的根拠を理解させている。「ボディメカニクス」と呼ばれる力学的原理を活用した介護方法を修得し、介助者の身体的負担を軽減するためだ。
4時限目の実技演習は、利用者がベッドに寝た状態でのシーツ交換。グループに分かれて、実際にシーツを交換する。利用者役の生徒がベッドに寝て、両サイドに介助者2人が立つ。新しいシーツを用意し、利用者の身体を支えて体位変換。古いシーツを取り除く。生徒たちは少し緊張気味に作業を進めていく。「頭を失礼します」「楽にしてください」と声かけも忘れない。
「寝てる人、嫌だったら『嫌!』と言って」と加藤講師から声がかかる。丸山講師も「利用者さんがリラックスできるように楽しいトークをしよう」とアドバイス。あちらこちらで介助者と利用者の会話が始まり、笑い声が聞こえてきた。
幅広い実技演習体験で
適性に気づかせる
全員がシーツ交換を体験した後、グループごとに実技演習を振り返り、ボディメカニクスの原則を確認する。原則は、「重心の位置を低くする」「支持基底面積を広くする」など全部で8個。それに、「利用者の自然な動きを介助する」がプラスされる。例えば、利用者が立ち上がろうとしたとき、介助者が目の前にいると、その動きを止めてしまう。生徒たちは、常に相手の気持ちと動きに配慮しながら、介助の技術を身に付けていく。
丸山講師は、「考える力が大事。実技演習の後にポイントをまとめ、根拠を理解してから次につなげる指導を徹底しています」と話す。 |
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3時間続きの実技演習でも生徒たちの集中力は途切れない。4時限目終了のチャイムが鳴った後も、実技演習のまとめを続けた。
授業を終えた生徒たちの顔には、「やりきった感」が垣間見える。
野末恭司教頭は、現場のプロに授業を依頼する目的を「最先端の技術とそのベースとなる心を教えてもらいたい」と話す。
丸山講師も「介護は楽しくてカッコイイ。ということを伝えたい。『福祉って何かな?』という軽い感じでOK」と笑顔を見せる。
福祉コースの卒業生は7割が大学や専門学校に進学し、3割が就職する。一口に福祉といっても分野は幅広い。同校では、生徒が自分の適性に気づけるように、保育園実習、介助犬の施設見学など、介護以外の体験実習も多く取り入れている。中には大学で心理学を学び、少年院に就職した生徒もいる。「更正には介護の心が必要だと思った」からだ。
3年間の学びが思いがけない場所で花を咲かせている。
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