夢を見つけ、自己を守る
ふたつの意味のキャリア教育
浜松海の星高等学校は、現代に活躍できる『勁(つよ)く、優しい、自立した女性を育てる』ことを教育目標にした静岡県西部で唯一のカトリック系ミッションスクールとして存在している。
「『勁い』には、しなやかな強さを表す意味があります。女性として譲れないものを持ち、障害があってもしなやかに乗り越えて伸びるようにとの願いを込めています」(北脇保之理事長)
コースは国公立や難関大学を目指す特別進学コースと、多彩な進路の実現を目指す総合進学コースの2コース制。特進コースは勉強量が多く設定され、自主学習時間は1年で週に1,500分を目標、2・3年ではさらに増える。この勉強量や内容はノルティスコラという手帳に記載、担任と個別指導のチューターがチェックする。このチューターは、生徒3人につき1人の割合で担任以外の教員が担当。手帳による学習時間の管理だけでなく、学習計画の作成や手厚い学習指導で生徒のやる気を引き出していく。
「特進コースの指導は厳しいですが、学習習慣を身に付けないと難関大学には進めないのです」(清水明子進路部長)
さらにクラブ活動も多彩。勉強と両立する生徒も多く、昨年度は浜松医科大学に弓道部の生徒が、慶応義塾大学にバスケット部の生徒が合格。全体では大学進学率は44%、その他にも短大や専門学校など、生徒各々が自分の希望する進路に進学している。これは自分の進路を深く考えて、将来の希望の職種につけるように努力するための意識付けを行う、独自のキャリア教育が行き届いている結果でもある。通常のキャリア教育では職業体験や社会人講義などだが、浜松海の星高等学校では、それに加えて、労働基準法を始めとする法律や社会保険の仕組みなど、労働者を守る社会の構造を理解する授業も並行して行っているのだ。
「本校では目標を見つけ、目指していく指導と、社会の中で働く自分を守る知識を得るという両面を持つ指導を理想としたキャリア教育を実践しています」(北脇理事長)
私学に求められる内容が就任した4年前と今では異なってきていると語る北脇理事長。以前は合格実績だけを重視する傾向が強かったが、最近では大学卒業後の人生までに影響する指導を期待されている。その期待に応えるのが、浜松海の星高等学校の女子教育やキャリア教育、そして進路指導である。
「進路指導では、常に生徒に進路に向き合うきっかけを作り続けることを大切にしています。各学校のオープンキャンパスに参加する時は、『(志望する学科の学生が)卒業後はどのような道に進んでいるのか』など、具体的に聞いてくるよう指導しています」(清水進路部長)
生徒が第一志望に進み、満足して卒業していく姿が、浜松海の星高等学校の教員全員の喜びだと、清水進路部長は笑顔でそう語った。
看護・医療・栄養系プログラムや
幼稚園でのプログラムで
より実践的なキャリアデザイン教育
キャリアデザイン教育が授業で行われているのは、特別進学コースおよび総合進学コースの2年生。外部講師を招聘し、女性としての社会で働く意識の持ち方や効果的なプレゼンテーションの方法、産業社会を知る座学などが行われる。また、実際に社会で活躍している社会人の女性を招き、経験談や職業感覚、ライフプランニング講座、立ち居振る舞いや言葉使いを学ぶビジネスマナー講座と、学期ごとにさまざまなテーマを設けて計画されている。
「OGを招くことが多いのですが、先輩の立場でいい刺激を与えてくれるようで、生徒たちの集中も高いですね」(重信明利教頭)
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もともと看護・医療・栄養系プログラムがある総合進学理系コースでは、週末にプラスアルファの課題と夏期講習などが実践されている。専門学校を目指す生徒にはその対策模試を、専門的な知識や技術を身に付けるために大学を目指す生徒には外部模試を受験させる。中にはどうしても進みたい大学を専願し、3月ギリギリまで努力を続け、合格を勝ち得た生徒もいる。
「1年から2年、3年と学年が上がるごとに本当にその道に進みたいのかを問い直します。なりたい職業の道筋をつけるのが私たちの仕事なので、ミスマッチさせないようにキャリアデザインで自分の道をしっかりと見つめさせ、決めた道に確実に進めるように努力を促します」(看護・医療・栄養系プログラム勝野有紀子係長)
無論、特進コース同様に総合進学コースでも『勉強する習慣』はしっかりと身に付ける。進学先で難しい専門学を学んだり、資格を取得する際に必要な人一倍の努力を習慣にしておくことで、無理なく実力が身に付くのだ。
英語と国際力をつけてグローバルに活躍する生徒と、看護・医療・栄養系で手に職をつけて働く生徒、そしてキャリア教育で見つけた目標を達成して輝く生徒。そういった生徒を輩出することで在校生の意識をアップ、高校全学年を活性化していくことが、今後の浜松海の星高等学校の目標である。
キャリアデザイン教育授業に密着
総合進学コースの高2生30人の授業を密着した。講師は民間企業での社会経験がある大隅和子先生だ。教科書と新聞の記事(企業の半数が女性管理職ゼロ)などを使った独自の授業は生徒に好評だ。
今回のテーマは「自分史をつくろう」。ワークシートの質問「小学校の頃のあなたはどんなことをするのが好きでしたか」に大隅先生は「みなさん思い出して書いてください」と投げかける。生徒からは「覚えていない!」と声が上がるが、そのうち一心に書く生徒や相談する生徒と、授業に引き込まれる。
5分ほど経つと「それでは発表してもらいます。○○さんお願いします」と先生。しばらく考えた生徒は「友達と話すのが好きだった」と応える。「そう、良かったね」と先生は笑みを絶やさない。その後、2人一組で発表しあう。「おかあさんとショッピングに行くこと。姉妹で遊んだこと」と意見が出る。
グループワークを中心とした参加型の授業では、一人ひとりが自分自身を見つめ直し、理解をすることができる。理解ができれば、さらに将来への道につながると大隅先生は話す。「中学では何になりたかったか」の質問には「スターバックスの店員さん!」と大きな声で発表する生徒。教室内は一気に盛り上がった。
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