星陵の「6年制一貫教育」は
学び、経験し、実践する現場
第1期生が実証した成績上昇カーブにならい、2期生には「学力推移調査」全国首位の生徒が現れ、新中3の3期生、新中2の4期生とともに「学力推移調査」平均偏差値をハイスピードに更新し続けている。
「優秀な生徒だけを集めたわけではありません。入学後の伸び率は、上位層だけでなく、すべての生徒が上昇志向を持って出した数値です。私たちは落ちこぼれも伸びこぼしも作りません」
ただ「『学問知』の育成だけではここまで伸ばせません」と、星陵中学校副校長・渡邉一洋氏は強調する。「経験知」が生活に散りばめられ、「学問知」とのシナジー効果で「実践知」=生きる力を積み上げる。緻密に構築された「知」のスパイラルがあればこそ、生徒に「もっと自分を高めたい」という意識が生まれる。それが渡邉副校長ほか、教員の目撃してきた4年間の真実だ。
「どの教科もわかりやすく、楽しい授業を行う先生の工夫と情熱が伝わる」、「皆で意見を言い合って答えが導かれるので、すごく達成感がある」と深い理解を綴る、これが入学2ヵ月後の新入生の作文だというから驚く。
4月「友達づくり」の研修合宿に始まり、体育祭、星陵祭と2ヵ月の経験から「目的を成し遂げるために共に頑張る仲間」の価値を知り、衝突もしながら「生徒主導」を実践する。「自分たちで『何かができた』ことがすごく嬉しい」という喜びとともに「友情の和を広げる」という表現が作文には頻出する。新人星陵生にとって、この「校訓」は経験と実践を伴う、重い価値を持つものとなっていく。
困難の中で力を発揮する
チーム星陵の「生徒主導」
中学校の体育祭は、3年生プロデューサーを頂点に、各競技のディレクターが企画・競技マニュアルを作成、2・3年生の実行委員と競技者に指示を出す。実行委員の一人は「予行演習で問題点が多く見つかり、本当に追い込まれた」と語る。
だが、体育祭当日、受け身で参加する生徒はほぼ皆無。前の競技が終わり、入場門に走って戻ってくる選手を次の競技「二人三脚」のメンバーが「ここに並んで!」と合図し、入場に間に合わせる。全員参加「綱引き」は人の誘導が重労働だが、委員は声を荒げず「疲れていると思うけど頑張って!」と明るく呼びかける。周囲の動きに目を配り、声を掛け合う。参加者もスタッフも互いの心理を共有する行動様式を目の当たりにすると、「生徒主導」とはリーダーの能力ではなく、一人ひとりが自ら思考し、実行する力だと実感できる。
3年生「百足リレー」ではゴールした白組がすぐさま赤組の応援に駆けつける。動きの止まった赤
組が、熱い応援コールの中、息を吹き返して見事な完走。選手も観客席も感涙の嵐だ。
閉会式では、生徒会長が「チーム星陵」として進化できた感謝を伝え、観客と教員に生徒一同「ありがとうございました!」の礼で締め括った。
スキー旅行で豪雪に帰路を阻まれると、女子は不安がる後輩をフォロー、男子は宿を提供した地元の方々に雪かきの御礼をする。渡邉副校長は「彼らには『生きる力』がある」と賛辞を惜しまない。そんな中学生が「とても敵わない」と高校生を尊敬するのが星陵祭だ。
「高校生と共同作業すると、企画力や催し物の出来、お客様対応のレベルの高さに圧倒されるようです。そして『高校生になったらもっと進化する、後輩もしっかり育てる』と奮起する。これも星陵の6年間一貫教育です」 |
「人間を育てる」根幹を成す
星陵オリジナル「美育」の力
同校では3つの発達段階「成長期」(中1・2)、「発展期」(中3・高1)、「飛躍期」(高2・3)を設けて、精神・学習両面で中学・高校をつないでいる。高校の学習は発展期まで、飛躍期は大学受験に備える。成長・発展期の人間形成を促進するのが星陵オリジナルの「美育」だ。美術・音楽・科学・文化の「一流」「本物」に触れ「本質を見抜く」感受性を養う。「文化と伝統を尊重する」のは星陵が疎かにしない教育目標のひとつ。写生やメモを採る習慣を身に付け、「観察」の基本姿勢を、伝統芸能やエンターテイメントから「表現」の豊かさを学ぶ。
探究活動では、静岡理工科大学教授の指導を受けて本格的な実験やフィールドワークを体験、疑問−仮説−調査−検証の「科学的研究サイクル」のプロセスを半年間かけて実践。論文・新聞作成、プレゼンテーションでは、パワーポイントの効果的活用や発表姿勢を生徒同士で評価し、パフォーマンスを洗練させる。
「美育」の集大成が3年次のハワイ研修、星陵生の世界デビューだ。帰国後は比較文化研究の英語プレゼンに挑戦する。
中学・高校で、グローバル教育や探究活動、合教科・科目型学習に先駆的に取り組んできた同校。地元住民、保護者から深い理解と厚い支持を受けている。信頼の根底には、今の日本で教育に携わる集団としての覚悟があると、渡邉副校長は力強く語る。
「一人ひとりの成熟が求められる社会、時代の変化を真摯に受けとめて教育を行う必要性を感じます。個そしてチームとして何を学ぶか、答えはひとつではない。異文化を持つ相手と接し、論理的に説明し、理解し合う。そういう時代を生きる子どもを育てる私たちが成すべきことは『自分の頭で粘り強く考える思考力』と『相手に伝わるように説明する表現力』の獲得、つまり『人間を育てる』ことに他なりません」
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