殻を破り
自分らしさを表現する
「ハイッ! 走って、ポーズ。もっと可愛く!」
かけ声が飛ぶ。生徒が次々と中央に走り出て、大きな声で早口言葉を唱え、ポーズを決める。男子も女子も可愛らしさを表現しようと、頬に手を当てたり、片足を後ろに上げたりしながら、精いっぱいの笑顔をつくる。見物に回った生徒たちからどっと笑いが起きる。
ここは校舎4階のアクトミュージックスタジオ。「劇団ひまわり」の藤津康宏氏による「表現」の授業だ。今年度は、2年生の1学期・1年生の2学期に開設されている。
授業は、滑舌を良くする早口言葉を覚えることから始まり、次第に動きをつけていく。生徒にしてみれば、皆が見ている前で自分で考えたポーズをとるなんて、恥ずかしくてたまらない。ある意味、苦行であり、自分との戦いでもある。「自分の殻を破ることが目的です」と藤津氏。
授業の後半は即興劇。「無人島」や「上京物語」など、グループごとに「お題」が与えられ、自分たちでおおまかなストーリーを考える。今日の授業で1回目を演じ、その後、グループごとに劇を練り上げ、最後の授業が発表会だ。
3年担任の米木綾教諭は、「この授業で生徒は大きく変わります」と話す。昨年の発表会では、内気でシャイだった男子生徒が、猿の役を体当たりで演じて大受け。それをきっかけに人前で堂々と発言できるようになった。生徒はそれぞれ殻を破り、自分らしさを表に出していくようになるという。
学内オーディションで
業界デビュー
2階のトレーニングルームからEXILEの“I WISH FOR YOU”が聴こえてくる。3年生のヒップホップのレッスンだ。講師はダンサーのK−TA(ケイタ)氏。生徒はチームごとに鏡に向かって縦一列の隊列を組み、波のように連続して変化する動きを見せている。どの生徒も笑顔だ。のびのびとダンスを楽しんでいる。
K−TA氏は「テクニックより、人前で自分を出し切ることが大事」と話す。
アクトクラスでは、ヒップホップだけでなく、創作ダンスやジャズダンスのレッスンもある。ミュージックもギター、ベース、ドラム、ボーカルを一通りこなさなければならない。生徒たちはさまざまなジャンルを学ぶことで感性を磨き、表現力の幅を広げている。
年に1回開催される学内オーディションは、自分の実力を試す絶好の機会だ。クラス全員が出場し、芸能事務所の人たちからアドバイスを受ける。スカウトされる生徒もいる。昨年度のオーディションをきっかけに、演技やダンスで総勢40数人がシンガーのプロモーション・ビデオに出演が決まった。業界デビューも夢ではない。 |
同校がアクトクラスを開設した目的は、総合的な人間教育にある。元モデルの高木弘恵理事長が自身の経験から、エンターテインメントの世界では、座学では得られない多くの学びがあり、人間的に成長させてくれることを知っていたからだ。
第1期生である3年生の多くは、いま進学を希望しているという。米木教諭は「好きなことを思いっきりやって満足したようです」と笑顔で話す。
芸能界を目指す者、進学から就職というコースを選択する者、それぞれ歩む道は異なるが、溌剌とダンスを楽しむ彼らからは、生き生きとしたエネルギーが伝わってくる。
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