【ユニーク学級】
自分を知り、自分を肯定する
キャリアデザインの授業は、2年生を対象に週1時間設定されている。今年度から授業を担当している大隅和子先生は、子育て・次世代支援のNPO団体で活動するカウンセラーでもある。その経験から、「女性としての生き方」という観点からも授業づくりを考えている。
本日は、総合進学コースの生徒約40人のクラス。授業は「産業社会と人間」のテキストに沿って進められる。テーマは「自分ってなんだろう」。自分を振り返り、客観的に見つめる目を養うことが目的だ。
高校2年生という時期は、思春期のまっただ中。理想と現実のギャップに悩み、他人と較べて優越感を持ったり、逆に劣等感に打ちのめされることもある。大隅先生は、「自分を知り、自分を肯定できる力をつけてもらいたい」と語りかける。
自分の知らない「自分」との出会い
この日はワークシートを使って、グループワーク。まず、「明るい」「素直である」「社交的」などの性格・資質が自分に当てはまるかをチェックし、次に他のメンバーからチェックしてもらう。自分が思う「自分」と、他の人が見る「自分」はどう違うのか。「自分」を見直すきっかけとなるワークだ。
生徒たちは、ワークシートの一つひとつの項目に対して、じっくり考えながら○や×をつけていく。真剣な表情だ。自分のワークシートを記入し終えたら、他のメンバーへと回す。やがて、それぞれのワークシートが一巡して本人に戻ってきた。次第にざわめく教室。他人から見た「自分」の意外さに驚いたり、笑ったり。中には腑に落ちない表情も見られる。「これは今日のグループの中の『私』。固定したものではありませんよ」。すかさず大隅先生からフォローが入る。
続いて、自己分析のツールである「ジョハリの窓」にワークシートの結果を記入し、感想を述べ合う。
ある生徒は、グループ全員から「リーダーシップ」に○を付けられて驚いたと話し、また別の生徒は、自分の思う自分と他のメンバーから見た「自分」がほとんど一致したことから、「私はわかりやすい性格だとわかった」と言って、その場を笑わせた。多くの生徒は、自分と他人から見た「自分」とのギャップが面白いという感想だ。これをきっかけに客観的に自分を見る目が養われていくことが期待される。
キャリアデザインの授業はこの後、職業について学び、自分の将来の具体的計画づくりへと進む。その過程で、企業の専門講師などによる講座も予定されている。昨年度は、ソニー生命の「ライフプランニング講座」、花王の「環境講座」、また地元信用金庫に勤務する同窓生が「ビジネスマナー講座」を実施した。「職業を知る」単元では、看護師や幼稚園教諭などが現場の実際を語ってくれた。
最後の授業は「ライフプラン発表会」。1年間の学びの集大成だ。この段階で、多くの生徒が将来就きたい職業を決めている。一人ひとりが真剣に考えたプランをプレゼンすると、思わぬ拍手が湧き起こるという。
昨年度、キャリアデザインの授業を受けた生徒は、現在、高校3年生。具体的目標を手に入れた彼女らは、いま意欲的に受験勉強に取り組んでいる。
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【ホープ登場】
教科指導と進路指導で女子校活性化を担う
地歴公民 美和 裕子 先生
静岡県西部唯一のカトリック系ミッションスクールである浜松海の星高等学校は、新しい時代の女子教育を目指し、学校改革を進めている。総合進学コースに看護・医療・栄養系プログラムを開設。特進コースではチューター制を導入し、難関校を目標に進学指導強化に乗り出した。進路目標実現に向かって意欲的に学習に取り組む生徒たち。そんな生徒たちを、教科指導と進路指導の両面でサポートする特進コース3年担任の美和裕子先生に話を聞いた。
ストーリー化と映像で
歴史を身近なものに
美和先生は世界史と日本史の授業を担当。「歴史は苦手」という女子が多い中、歴史の面白さを知ってもらいたいと「できるだけストーリー化しています」と工夫を重ねている。
そのため、教科書には載っていないエピソードを紹介し、歴史上の人物を身近に感じさせている。人物関係や権力構造は、いま現実に起きていることと関連させて説明すると理解しやすい。また、教科書に登場する人物はほとんど男性だが、授業では女性を多く取り上げると、卑弥呼や北条政子など、興味を持った女性についてもっと知りたいと、本を読み始める生徒もいる。
イメージで覚えてもらおうと、視聴覚教材も活用。NHKの大河ドラマや『タイムスクープハンター』、『そのとき歴史が動いた』等から授業に関連するシーンを選び、生徒に見せている。
歴史を学ぶ楽しさは、切り口が多いことにある。授業でも戦いに負けた側の視点に立ったり、もし勝敗が逆であったらと考えさせたりすると、授業を重ねるにしたがって、休み時間に生徒同士で歴史談義する光景も見られるようになった。中には、大学で史学を学びたいという生徒も現れて、美和先生を喜ばせている。
迷いのない選択を
特進コースは国公立大や難関私大を目標としている。入学時より一人ひとりの生徒にチューターと呼ばれる担当教員が付き、学習指導を行う。生徒は能率手帳に学習状況を記録し、毎週提出。それを担任とチューターが隔週交代で確認し、必要に応じてアドバイスする。「今年の特進3年生は、全員が一般入試での合格を目指しています」と、意欲的な生徒たちに美和先生の顔がほころぶ。
美和先生は進路部進学指導係。3年生の進学指導に関する業務を一手に引き受けている。
受験勉強の過程で、不安や悩みを抱える生徒の相談に乗ることも多い。伸び悩みの生徒には「そんな時期もあるよ」と安心させて、卒業生の成功事例を話したり、行き詰まっている生徒には、思い切ってリフレッシュするよう勧めることもある。
「大学4年間の勉強をつらいものにしないように、じっくり考えさせます」
今春、美和先生に嬉しい便りが届いた。数年前に部活と受験勉強の両立に悩んだ生徒からだ。看護系大学を志望していたが、所属する吹奏楽部は10月の全国大会に向けて早朝から夜遅くまで練習が続いていた。「毎日くたくたの様子でした」と美和先生は当時を振り返る。しかし、最後まで諦めることなく努力を重ね、見事に志望大学に合格。そして今年3月、大学を首席で卒業。看護師としての道を歩み始めたのだ。
美和先生は進路指導にかける思いを、「一人ひとりに寄り添って考えを引き出し、迷いのない道を歩ませたい」と語る。 |
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