女子に特化した教育に根強い需要
女子単学の高等学校が減少する中、受験生にわかりやすい言葉で教育方針を哲学化し、なぜ学ぶのかを問いかけるユニークな実践で知られる旧・一宮女子高等学校が、今春から修文女子高等学校と校名変更した。「修文」は学芸を修め学び、礼儀・法度をととのえるという意味をもち、論語など中国古典に由来する言葉で、系列の修文大学の開学に合わせたもの。
同時に猶村七甫(なおむら・ななほ)新校長が就任し、「進学実績のステップアップを図りたい」と抱負を語った。猶村校長は愛知の県立高等学校で校長を務め、県教育委員会での経験を持つ。就任直後の感想を「教員が生徒と向き合い、親しく話す姿が目についた」と述べた。また、生徒に対しては始業式で「苦手なことから逃げないで、チャレンジを続けよう」との励ましの言葉を贈ったという。
公立と私立の違いはあるものの、生徒像を定め、教育方針を打ち立て、各教員が分掌することがらに責任を果たしていく学校運営に変わりはない。ただ、経営努力の重要性に関しては、募集や広報についてのノウハウを高めるため、情報収集力が問われるという認識を示した。
愛知県下の私立高等学校では少子化の影響を受け、共学化に踏み切った学校が多く、女子単学の高等学校が減少中だ。だが、受験生や保護者の中には「女子校でなければ」という根強い需要があることも確かで、事実、同校では女子校が減少する中、遠方から通学する生徒も少なくない。
同校では女子特有の感性が強く求められる社会の到来を予測し、7年ほど前から教育の基本方針をリベラルアーツの実践に置き、バランスのとれたゼネラリストの育成を目指してきた。リベラルアーツ実践の根本理念を哲学化し、生徒にわかりやすく伝え、考え、行動に導くため、「自分らしく幸せに生きるために、どう生きていけばいいのか」の問いかけを続ける。この言葉を生徒と教員が共有し、3年間をともに学ぶ女子校なのである。
積み重ねられる学力アップ対策
猶村校長が目指す進学実績のステップアップを支える取り組みは、すでにいくつか実践されている。そのうちの一つに部活動としての「補習部」がある。部活動のため、対象は1〜3年の希望者すべてということで、その“活動内容”も苦手科目の克服から受験対策までと幅広い。また、他の部活動と兼ねることも可能で、3年生は夏以降ともなれば、ほとんどの進学希望生徒が入部し、大学受験の推薦入試に欠かせない小論文の徹底指導を受けるという。数、理、社などは志望校に応じ、選択制で、顧問は教科別に複数の教諭が務め、実質的に受験対策講座の役割を担っている。
また、授業効果を高めるために作成されたオリジナル教材は、同校の面倒見の良さを端的に示している。授業ごとに毎時間作成されるプリントは、表面にその日の授業内容がまとめられ、裏面には課題が印刷されている。生徒はこのプリントを同校のオリジナルバインダーに保存し、復習やテスト勉強などに活用する。授業でのポイントがわかりやすくまとめられ、限られた時間で効率的に学習内容を定着させられるよう工夫がなされている。
授業そのものの質の向上にも取り組んでいる。特定期間を授業公開日と定め、教員が互いに参観し合い、改善策などを講じるのである。それ以外の日にも自らの授業をビデオに撮り、よりわかりやすく、引きつける授業への検討材料とする教員もいるという。広報課長を務める野田紘秀教諭は「20程度の評価項目を1〜4段階で評価し、コメントを書き入れる評価シートを教員相互間で交換している」と授業研究の実際を話した。また、猶村校長は「授業の質向上だけでなく、生活指導面、クラス運営面でも、新人研修はもちろん、3年、10年と節目ごとの研修が必要」との考えを示した。
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目的をもって学べる4学科
普通科では、国、英、数などの主要教科で習熟度別授業を展開し、前述にあった「補習部」での実践や進路行事でのきめ細かい受験指導とも相まって、ここ数年、高い大学合格実績を挙げている。また、中学校での成績基準によって受験料や入学金、授業料が免除される「特待生制度」や「優待生制度」といった奨学金制度も充実している。
情報会計科では、パソコンスキルを中心とした実務能力を習得しており、関連する資格検定の種類が多く、努力次第で多くの資格を取得することができる学科である。そのため、授業だけでなく早朝講習による指導も行われており、さらに技術に磨きをかけたい生徒は、部活動としてマルチメディア部に所属し、資格取得に向け、励んでいる。最近は簿記検定や情報処理検定で上級を取得すれば、国立大学の推薦枠にも応募でき、就職だけでなく進学にもメリットがある。
家政科では、自作のドレスでファッションショーを毎年開催して好評を得ている。さらに高度な専門知識を身に付けたいと、家政や保育系の大学へ進学する生徒が多数出ている。
食物調理科では、3年間で調理師免許や食品衛生責任者の資格を取得することができ、さらに勉強したい生徒は系列の修文大学の健康栄養学部へ有利な条件で進学もできる。同学部を修了すれば、管理栄養士国家試験受験資格、栄養教諭普通免許が取得でき、今後、福祉施設や病院をはじめ、学校、各事業所などでの幅広い需要が見込まれる。
やりたいことを見つけにくいといわれる時代に、「幸せに生きるために」を学びの根本理念に据えた女子教育が見直されている。
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