変化こそ改革のチャンス
行動力を促進する星陵の学び
2020年2月28日、新型コロナウイルス感染防止と子どもたちの命を守るため、星陵中学校・高等学校は翌日からの休校を決めた。その日のうちに卒業式・修了式を敢行した素早い対応力は地元でも称賛された。ホームページ上では校長が力強いメッセージを生徒に向けて発信している。
「皆さんに望むことは『ピンチをチャンスに変えていく』ことです。可能な範囲で挑戦してほしいと思います。その挑戦を、星陵は全力で支えます」休校中も担任はClassi(学びのICT化をサポートするクラウドサービス)で毎日メッセージを送る。
渡邉一洋校長も生徒に語りかけた。「危機的状況だからこそ、アンガーマネジメント(怒り、不安、悲しみを自分の中で整理し、状況を客観的に判断する)力と、問題解決スキルを身につけましょう、と。ポイントは『衝動・思考・行動』を自分でコントロールすることです」
実際に、自らの智慧でこの危機に立ち向かった星陵生がいる。中高一貫コース高2男子は、給食休止で困窮する小学生のために、子ども食堂を設立するクラウドファンディングを立ち上げた。
「危機を危機と受け止める『認知』、どうしたらいいだろうと考える『思考』。ここまでで終わる人が多いなか、彼は『認知・思考』を高次のレベルでの『行動』に移している。この行動力はすごい」と称賛するのは入試広報課長・佐野北斗先生だ。
ユネスコスクールでもある同校が積極的に取り組むSDGsについても、彼をはじめ、本校の生徒は具体的な行動目標と捉えているという。
「中高一貫コースでは、社会の問題を見出し、どうしたら解決できるか考え、周りの人の力を巻きこみ協働できる行動力を育てています。彼のように積極的に学びを実践に移している生徒が見られるのは嬉しいことですね」
一般入試も推薦・AO入試も
突破力は「やりたいこと」
渡邉 一洋 校長
「自分のやりたいこと」が明確な生徒が増えてきた、と現場の先生方は口々に語る。Classiで「日々の振り返り」を行い、佐野先生も授業でクラス内の対話に活用する。
「国語では小説・小論文の執筆、鑑賞、自己評価などをClassiで行っています。中1には『3・11に考えること』など、書く機会が多く、内容の質も高い。次第に自分は何に向いているのか、どこを目指したいのか、どんな場で自分を生かせるか、足りないのは何か、が見えてくる。生徒の自己分析がより深まりました」
今春、中高一貫コース4期生が卒業。名古屋大学・北海道大学など旧帝大に合格者を出したほか、医学部医学科・歯学部歯学科にも7名が合格。医歯薬系大学への進学は年々増加し、今年は40名の大台をうかがう。星陵生は元来、地元貢献への意識が高い。浜松医科大学に進む生徒も、富士宮市の地域医療に携わるつもりだという。
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SDGsをテーマにした2年目の文化祭では、来場者に楽しんでもらいつつ「意識が変わる『何か』をお土産に」と、展示や体験コーナーを徹底してつくり込んだ。約5000人の観客への新たな刺激になっている、と渡邉校長。
「地元企業の方々が『勉強になる』と(笑)。中学生の展示は高校生に引けを取りません。探究学習で年間通して学んで知識はあるし、議員や商店街の人々に取材する行動力、映像編集の技術力がすごい。ネットの調べ学習では不充分で、フィールドワークが必要なことも生徒は熟知しています」
プロジェクトごとにプレゼンテーションの経験を積み上げて他者への伝え方を磨き、「自らの問題意識、興味を突き詰める6年間」を送ってきた星陵生は、推薦入試やAO入試でも抜群の強さを発揮する。深い探究心、独自のアピールポイントを武器にお茶の水女子大学2年連続、東京理科大学、上智大学(文学部・理工学部)などの合格を勝ちとっている。
体験、発見、新たな問題提起
星陵流GSETAM教育が
鍛えあげる『自分軸』
星陵の教育のコアが、物事の本質を見抜く力を育てる「美育行事」だ。中学校設立から10年間、芸術文化体験、先進科学探究、SDGs学習など多様なプロジェクトに取り組んできた。中学校教頭・能勢和幸先生は、生徒たちの世界・社会を見る目が深く、先鋭的になる様を目の当たりにしてきた。
「例えば陶芸体験では、普段使っている器の『見方』が変わる。さらには芸術作品との違いも。制作には『待つ』時間が必要で、費やす時間に比して良い作品ができるわけではなく、失敗もある。何でも手に入る時代だからこそ、時間が生む豊かさに、生徒たちは気づいていきます」
学校説明会は毎回、約200人が参加する地元の人気イベントで、今年の中学入試の倍率は1・5倍。入試問題には「暗記だけではない、思考力や創造力を要する学校」というメッセージが読み取れる。「優秀な生徒たちの中でウチの子がやっていけるのか心配」という保護者も少なくない。佐野先生はそんな不安も理解しながら、実際の生徒の姿を微笑みながら語ってくれた。
「毎日本当に楽しそうで元気いっぱいです。しっかりした面と、無邪気で後先考えずに行動する年相応な面と。それが自然な姿で、楽しければ笑い、悲しければ泣く。意見が食い違うことも、ケンカすることもある。実際、気持ちにストレートで素直な子が多いです。私たちは鉢植えの小さな木をつくりたいわけではない。中高時代しか経験できない挫折や悩みを抱えながら、将来、誰かをその木陰に守ることができるような大きな木に育ってほしいと思います」
星陵生には、予測不可能な解なき時代を生きるために、揺るぎない価値観を確立する=『自分軸をつくる』という命題がある。世界という森で自分がどんな役割を果たせる木であるのか、生徒自身が見つけるために。確かな実績を誇りに、伴走する教員たちも10年目のステージに挑む。
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