学校散策 掲載:塾ジャーナル2021年5月号/取材:塾ジャーナル編集部

男子の「志(夢)」は男子校でこそ伸びる!
良いところを伸ばす「志共育」に大きな期待

足立学園中学校・高等学校

「男志(だんし) 育てます」。これは、近年注目が集まっている男子校・足立学園中学校高等学校のキャッチフレーズだ。同校の教育方針は「自分の志(夢)のために学び、社会で役に立つ人財を育てる」というもの。伝統の男子校が取り組む「志」を軸にした人間教育に今、熱い視線が注がれている。
昨年はコロナ禍による休校など、かつてない事態に襲われたが、ICT先進校として学びを止めない工夫を続けてきた。
校長に就任以来、揺るぎない信念を持って「志共育」に邁進する、井上実校長にインタビューした。


志の芽を摘むな!
生徒一人ひとりを尊重

エントリーシートに将来の目標を書いてもらう「志入試」を始めて今年で2年目になる足立学園中学校。「志」を軸にした教育方針に期待、多くの応募者を集めた。
「今回の入試でも、素晴らしい志を持ったお子さんが集まってくれました。今年は特に『感染症を研究して、コロナウイルスの問題を解決したい』という目標を持った受験生が多かったですね。医学的な志もあれば、生活の中で感染予防ができるものを発明したいといった志もありました。明確に今の時流をとらえている受験生が頼もしく、学校としても、お預かりした生徒の皆さんをしっかりと指導するという思いを新たにしました」と井上実校長は話す。

同校では、道徳や総合学習の時間などを使い、「志共育」を年間を通して行っている。また、日々の授業や学校生活の中でも、志の「芽」を伸ばすようなきめ細やかな声がけをしている。
「生徒が持っている良いところ、特性を引き出し伸ばしてあげることが大事です。それには生徒一人ひとりの思いを尊重することが大切ですね。突拍子もないことを思いついた生徒に対して、頭ごなしに『それは無理だろう』と決めつけてはいけません。『じゃあ、実現するためにはどうしたらいい?』という投げかけをすることから、志は芽生えてくるものだと思います」と井上校長。

昨年、ある探究コースの高校2年生が校長室を訪ねてきたことがあった。「探究総合」の授業で自動車の自動運転を研究していた生徒で、実際に模型の車を走らせるための研究費が必要となり、井上校長に直談判に来たのだ。

「校長直々の交渉は勇気がいることだったと思います。そこで彼にプレゼンテーションをしてもらったところ、その内容がとても素晴らしかったので研究費を出すことにしました」
今年2月、その生徒は研究の成果をまとめ、第3回 Change Maker Awards(中高生のための英語プレゼンテーションコンテスト)に出場。見事、金賞(最優秀個人賞)を受賞する快挙を成し遂げた。

「子どもは日々伸びる要素を持っています。しかし、それが大人のちょっとした言葉で潰れてしまうこともある。そこをしっかりと見極めてあげることが大原則だと思っています。社会に出て役に立つか立たないかをいちいち指摘してしまうと、本当に役に立つものが見つけられない。だから生徒には『どんどんやりなさい』と勧めています」

コロナ禍でも学びを継続
ICTを使った国際交流も

「Microsoft Showcase School」にも認定され、ICT先進校でもある同校。新型コロナによる休校期間中は会議・通話用のアプリ「Teams」を使い、毎朝オンラインでホームルームを行った。オンライン授業は、家庭の通信環境によっては画面がフリーズすることも考慮し、録画授業を配信。もう一度見直すことができるようにもした。「なかにはカリスマ講師のようなすごい動画を制作する先生も出てきました」と井上校長。そうしたノウハウを教員間で共有し、スキルをブラッシュアップさせていったと話す。

授業再開後は50分だった授業時間を40分に短縮。始業時間を1時間遅らせ、朝のラッシュアワーの密を避けられるようにも配慮した。昨年6月から通常授業に戻したが、万が一休校になっても「学びは止めない」という自信につながったという。

2020年度から足立学園独自の「オックスフォード大学短期留学体験プログラム」をスタートさせる予定だったが、残念ながら延期。しかし、終息後には再開すべく準備を進めている。
中1から参加できる「オーストラリア・スタディーツアー」は現在は現地を訪れることはできないものの、オンラインを使って生徒同士の交流を図っている。これまでは限られた生徒しかオーストラリアに行けなかったが、これなら希望者は全員参加が可能になる。

「英語で話せることは大前提。その上で、世界のためや世の中のために何ができるか、世界の人々と共有の問題意識を持ってもらえる人間になってほしいですね」と井上校長は話している。

探究の成果で難関大学合格
大学進学の先を見据えて

「女子の目を気にせず、思いきり好きなことに打ち込めることも男子校の大きな魅力の一つです」と話すのは、入試広報部部長の相澤智子先生だ。「中高生くらいですと、男子は何か失敗すると女子から『何やってんのよ!』と言われてしまいます。まるで学校に『プチお母さん』がいるようです。実際、女子の言葉を気にして自分を出せなかったので、男子校を選んだという生徒もなかにはいます」
時に男子はふざけすぎることもあるが、「学校は楽しいところ」ということも伝えていきたいと相澤先生。「楽しい学校生活があるからこそ志も生まれ、その志を達成するための勉強を頑張れる。そうした連動を大切にしたいと思います」

同校は中学に「特別クラス」と「一般クラス」、高校には「探究コース」「文理コース(選抜)」「文理コース」「総合コース」がある。この春、探究学習を進めてきた探究コースの第一期生が卒業した。
「探究学習での取り組みを生かし、総合型選抜にチャレンジする生徒が増えてきました。今年は東京工業大や慶應義塾大などの難関大学に総合型選抜で合格した生徒も現れ、確実に探究学習の成果が出ていると感じています」と井上校長。

しかし、大学進学がゴールではない。「本校の教育のすべては『自分は何がしたいのか』『何のために学ぶのか』に行き着きます。志を達成するために、大学進学で終わらず、その先も学び続けてほしい。学びはずっとつながっていくものであって、何のために学ぶのかに気づき、志を成し遂げさせてあげたいというのが我々の思いです」

足立学園中学校・高等学校   https://www.adachigakuen-jh.ed.jp