マナビネットオープンスクール2022 ●掲載:塾ジャーナル2023年1月号/取材:塾ジャーナル編集部

寮生活、留学、金沢工業大学との共創教育で
北陸から羽ばたくグローバルリーダーを育成

国際高等専門学校(石川県)

交流スペース、リビング・コモンズ。放課後学習「ラーニングセッション」もここで行う


1957年、北陸電波学校として開校。1962年に金沢工業高等専門学校に発展し、多くのエンジニアを輩出してきた。2018年には新時代が求める人材教育を目指して国際高等専門学校と改称し、全寮制の白山麓キャンパスを開設。併設校の金沢工業大学と連携したカリキュラムで新たなグローバル人材の育成に取り組んでいる。学生たちが入学から2年間の寮生活の中で体験する「英語によるSTEM教育」と「エンジニアリングデザイン教育」を取材した。


各国出身者が集う白山麓キャンパス
文化の異なる仲間と協働する力を育む

国際高等専門学校の1・2年生は、全寮制の緑ゆたかな白山麓キャンパスで学友や教職員と生活を共にしながら学びと創造の青春時代を過ごす。教員の半数以上は各国出身の外国人で「いないのは南極大陸出身の先生くらいです(笑)」と校長のルイス・バークスデール教授。

留学生や帰国生も積極的に受け入れており、キャンパスの共通言語は英語だ。数学、科学、工学の授業は英語で行い、そうした理工系科目に必要な語彙や表現を学習する「ブリッジイングリッシュ」の授業や、英語を母語としない学生向けの英語授業でサポートする。

3年生には全員がニュージーランドの国立専門学校オタゴポリテクニクに留学して専門科目を履修し、4・5年生は併設校の金沢工業大学とキャンパスを共有する金沢キャンパスで学ぶ。このとき4・5年生は大学が英語で行う専門科目の授業も履修でき、専門力を高められる。

同校は2018年、前身の金沢高専時代の3学科、電気電子工学科・機械工学科・グローバル情報学科を「国際理工学科」に統合し、理工学を幅広く学んだ上でそれぞれの専門分野を深める教育プログラムに刷新した。

その狙いを国際理工学科の松下臣仁教授は「暮らしや仕事にAIやIoT、ロボティクスが欠かせなくなっていく社会で、先端技術を応用して世の中に貢献できる理工系人材、グローバルイノベーターの育成を目指しています」と語る。

そのために推進しているのが英語での「STEM教育」だ。STEM教育は2000年代に米国で始まった科学技術の教育モデルで、Science(科学)、Technology、Engineering(工学)、Mathematics(数学)を統合的に学ぶ。


(左)4、5年生は金沢工業大学と共有するキャンパスで学ぶ
(右)英語での科学授業。ナグワ・ラシィド先生はエジプト出身

課題を発見し、解決策を探る
デザインシンキングの実践授業

STEMの科目群の学びを生かし、活用するのが「エンジニアリングデザイン」と呼ばれる授業だ。この授業では身の回りの課題を発見し、テクノロジーを活用して解決策を模索する。ある1年生チームは校内の清掃スタッフが頻繁にゴミ箱を点検しなければならないことに気付き、センサーを取り付けることで空のゴミ箱の点検を回避できる仕組みをつくり上げた。

こうした取り組みに必要な装置は、キャンパス内工房「メーカースタジオ」に揃う3Dプリンターやレーザーカッターなどの機材で製作する。発想を形にする、ものづくりの環境が整っているのだ。

さらに2年生のエンジニアリングデザインでは課題発見の視野を広げて、地域課題の解決に取り組む。その一例が、キャンパス周辺の農地のサル害対策。AIにサルの画像を学習させ、サルが接近したら音を鳴らして威嚇するシステムをつくった。

これは効果があったものの新たな問題が発生した。「サルが音に慣れてしまいまして(笑)」と松下教授。というわけで現在はドローンで威嚇できないかと試行中だ。こうしてディスカッション、プレゼンテーション、試行を重ねながらプロジェクトが進化していく。

授業は大学と同じ、1コマ100分。中学校を卒業したばかりの1年生は長く感じるのでは? と思うが、受け身の授業ではなく、ディスカッションやプレゼンテーションをまじえたアクティブな100分間だ。また、英語での理工系科目の授業には、教授の他に日本語バイリンガルの教員が同席して、専門用語などをフォローする。

夕食後、7時半から9時半までの「ラーニングセッション」は夜の学習時間。キャンパス内の交流スペース「リビング・コモンズ」で個々に予習・復習や課題に取り組んだり、チームでプレゼンテーションの準備をしたりする。この時間をサポートする外国人教員「ラーニングメンター」は理系のキャリアを持つ若手で、学習指導に加えて、兄や姉のような役割も果たしている。

ラーニングセッションに参加していた1年生男子に入学動機をたずねると「F1レースチームのエンジニアになるのが夢で、そのためには英語力が必要。ここは工学も英語も勉強できる学校だと思い、受験しました。考えていた通りの授業内容で、夢に近づいている手応えがあります」と快活に答えてくれた。


【3Dプリンター】器機や工具を使ってアイディアを形にする

専門性を深め、実践力を鍛える
金沢工業大学との緊密な共創教育

白山麓キャンパスでの寮生活は2年間。3年生のニュージーランド留学を経て、4年生・5年生は金沢工業大学と共有するキャンパスで学び、大学生とともに研究やプロジェクト活動に取り組む。

同大学の「夢考房」は樹脂3Dプリンターや金属3Dプリンター、旋盤やフライス盤、プリント基板製作機器などの本格的な工作機械を課外でも使えるものづくり施設だ。この充実した環境を生かし、同大生はさまざまな工学系コンテストで成果をあげており、同大学との「共創教育」は国際高等専門学校の大きな特色だ。

今年度は前身の金沢工業高等専門学校からの改編5年目。国際高等専門学校になって初めての卒業生を送り出す。その進路は、金沢工業大学3年生への編入、海外大学、就職と幅広い。

バークスデール校長は「国際高専は、現在の職業というよりも、未来の科学技術を使って未来の職業を創る、いわば世界のイノベーションのリーダーを育成するのがミッションです。一人ひとりの学生が自分の課題を見つけ自分でチームを組んで、または1人で面白いと思ったプロジェクトに力を入れています。授業だけではなく、いろんな課題に取り組む学生が本校の教育に向いているのではないかと思います」と言う。

第1期生を送り出し、国際高等専門学校は次のステージへ踏み出そうとしている。

国際高等専門学校 https://www.ict-kanazawa.ac.jp/


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