マナビネットオープンスクール2022 ●掲載:塾ジャーナル2022年9月号/取材:塾ジャーナル編集部

新校舎STEAM棟の完成に伴って
さらに加速する「主体的な学び」を実現するシステム

ドルトン東京学園中等部・高等部(東京都)

従来の教室のイメージにとらわれない自由な空間で、「主体的な学び」の芽を育てる


ドルトン東京学園中等部・高等部は、2019年春の開校以来、「自ら学ぶ楽しさ」を大切にする教育システムを掲げ、実践してきた。「自ら学ぶ楽しさ」を生徒たちが実感できるために、教員たちはどのような機会や場所を提供し、どう生徒たちとかかわっていけばよいのか。そしてこれらの学びは、どのような子どもの未来を見据えているのか。新校舎STEAM棟が今年の6月に竣工し、9月から使用開始となるに伴ってますます加速する、ドルトンならではの学びのあり方と、それを支える教師の思いやスタンスを深掘りする。


「ラボラトリー」の時間が
「学ぶ楽しさ」を呼び覚ます

「敷地の森や畑には、よく近所の園児たちが遊びに来ていますよ」。そう語るのは、探究教育部長・沖奈保子先生だ。ドルトン東京学園は、緑豊かで閑静な立地ながら、地域のみならず、社会に対してかつてなく開かれた学びを提供する学校だ。

ドルトンの学びの中で、特に大きな特徴となっているのが「ラボラトリー」と呼ばれる時間だ。「ラボラトリー」は、学年ごとに共通のテーマを探究する「基礎ラボ」と、自らテーマを選んで取り組む「テーマラボ」に分かれる。「テーマラボ」については、これまでも「起業ゼミ」などの取り組みが各メディアの大きな注目を集めてきた。一方、「基礎ラボ」も、「学ぶ楽しさ」を味わうのに大切な役割を果たしている。

昨年度、中学1年生が1年間取り組んだ「基礎ラボ」は、三井物産と連携した「学校改創プロジェクト」だ。年度末に学びの成果を発表する「Dalton Expo」では、外部関係者も含めた審査員の前で4チームの決勝コンペが行われた。最優秀賞を勝ち取った提案は実際に実現されるため、生徒たちのプレゼンにも自ずと熱がこもる。

「最終的には、どの案もすばらしかったため、『全部実現しようよ』という結果になりました! 決まりにこだわらないこうした柔軟さも、ドルトンの特長です」と、沖先生は微笑む。

今年度の中学1年生の基礎ラボのテーマは、地域と連携した「仙川地図づくり」だ。こうしたテーマは、根拠なく決められているわけではない。ドルトンでは、「こんな能力や行動特性をもった生徒を育てたい」という生徒像を具体的な15のキーコンピテンシーに落とし込み、「それを実現するにはどうするか」を逆算して年間カリキュラムを組み立てていく。カリキュラム検討時のことを、沖先生はこう振り返る。

「キーコンピテンシーに照らしながらカリキュラムを検討する中で、『世界につながる観点は多いけど、実は身の回りについての観点が薄いかもね』ということが見えてきました。そのため、今年度は『地域とつながる』が大きなテーマになったのです」


(左)基礎ラボは、数人のチームに分かれ、それぞれのチームが独自の切り口を設定して探究する
(右)年度末に行われる「ドルトンエキスポ」では、年間を通して探究してきた学びの成果が発表される

教師の思いやスタンスこそが
ドルトン独自の学びを支える

「ラボラトリー」を中核としたドルトンの学びを支えるのが、教師たちだ。

「自ら学ぶ楽しさを味わわせるために、気をつけていることは2つあります」と、沖先生は言う。

「1つ目は、『おもしろい』『もっと知りたい!』など、子どものアンテナが立った瞬間にいち早く気がつき、それを広げ、深めるためのサポートをすること。自学自習の時間に『しりとり』を探究した生徒や、得意のイラストをLINEスタンプにした生徒もいましたね。2つ目は、何よりも『教員が楽しむ』こと。大人がワクワクしていれば、子どももワクワクします。すると不思議なことに、おもしろがって連携してくれる人々や企業が現れます。こうして、学校と社会とのつながりが生まれていくのです」

ドルトンでは、なぜ社会とのつながりをこれほどまでに重視するのか。

「子どもを育てるということは、社会と隔離して特別な空間に置くことではなく、社会とかかわりながら、社会に出る準備をすることです」と、安居長敏校長は語る。

「ドルトンでは、先ほどの『学校改創プロジェクト』しかり、学びで得られた知識や成果を社会実装することを重視しています。その理由は、学びの意味が実感できるとともに、『自分の行動が社会を変えた』という体験をしてほしいからです。投票率低下などの問題は、『どうせ何をしても社会は変わらない』という無力感からきているともいえるでしょう。自分が社会を変えることができるんだという感覚は、社会に出てから生涯にわたってその子を支え続けます」


(左)国土交通省のサステナブル建築物等先導事業(省CO₂先導型)に採択された、環境配慮型の新校舎
(右)教科・授業の型にとらわれず、自由に学びを深掘りできる環境が、生徒のクリエイティビティを引き出す

STEAM棟でさらに加速する
社会に開かれた学び

6月には、新校舎「STEAM棟」が竣工した。開校以来使われる本棟は「吸収の場」、STEAM棟は「没頭の場」というコンセプトだ。STEAM棟の1階「クラフト・ラボラトリー」と3階「サイエンス・ラボラトリー」には、美術室や理科室などの整った設備があり、生徒たちはそこで学びに没頭できる。そして、2階の「ライブラリー」は、生徒たちが学びの合間に休憩、交流できるハブとして機能する。

「STEAM棟では、まるで『息を吸って吐く』ように学びを深めることができます」と、安居先生は評する。

さらに充実した教育環境で営まれる、ドルトンの学びの最大の特長は、「自分の『やりたいこと』ありきで、『そのためにどうするか』を自ら考える」こと。言われて学ぶのではなく、自分発信で学ぶということだ。「どうして勉強しなきゃいけないの?」という問いは、ドルトンの生徒からは聞こえてこない。自分で決め、行動するその姿勢は、めまぐるしく変化する現代社会を生き抜くのに必要不可欠だ。

社会では、「自分はこうしたい!」と言ったひと言が大きく物事を動かすこともある。それゆえ、どうしたいかを自分で決めることは、楽しくもあり、怖くもある。自由は、責任の裏返しだ。「それこそが、社会で生きることそのものです」と、安居校長は力を込める。

ドルトンで、そんな体験をたくさんしてもらいたい。それが、ドルトンの学びを支えるすべての教師の願いだ。

ドルトン東京学園中等部・高等部 https://www.daltontokyo.ed.jp/


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