掲載:塾ジャーナル2021年9月号

2021年度国公立大学・
私立大学医学部募集人員について

私立・国公立大学医学部に入ろう.com 平野 晃康


2009年度に始まった医学部定員増は、新医師確保総合対策、緊急医師確保対策、経済財政改革の基本方針(2009、2018、2019)などにより年を重ねるごとに増加し、令和2年度入試では1705名まで増加しました。募集人員の総計は2015年度に史上初めて9000名を超え、2019年度に史上最大の9420名となりました。2020年度には9330名へ減少したもののほぼ同規模でした。令和4年度入試においても募集人員の規模をおおむね維持することが決まっています。

しかし、厚生労働省は将来、少子化に伴って国民の数が減少すること、高齢者医療の需要の減少などが見込まれることから、現在の規模を保った場合、医師数が過剰になると推計しています。また、定員増のうち、840名は2017年度までの臨時定員増であったことなどから、毎年のように医学部募集人員の削減が議論されています。こうしたことから、ここ数年、募集人員の確定は10月以降になることが多く、2022年8月現在、募集人員が確定していない大学が多数あります。

本稿では、8月10日時点で発表されている2022年度募集人員の内訳の紹介と、医学部募集人員の今後について解説します。

1.国公立大学・私立大学医学部の
  募集人員の内訳と2021年度との比較

国公立大学の募集人員の内訳は表1の通りです。2022年度入試においては募集人員がおおむね維持されるため大きな変化はありませんが、学校推薦型選抜で募集人員の総数が減少している一方で、地域枠での募集人員が増加しているなど、地域医療へ力を入れていることがうかがえます。

一般選抜は前期、後期とも募集人員が減少しています。前期日程は全国で200名ほど募集人員が減らされており(一部の大学では今後増員の可能性があります)、学校推薦型選抜が20名ほどしか削減されていないことと比較すると減少幅の大きさが目を引きます。後期日程は90名を募集する山梨大学を除くと全国で254名しか募集枠がなく、2022年度入試から富山大学が後期日程を廃止、岐阜大学が25名から10名へ募集人員を減らすなど、熾烈な競争になることが予想されます。

私立大学では表2の通り、一般選抜の募集人員が減少する一方で総合型選抜、学校推薦型選抜の募集人員が増え、一般選抜の募集人員が減少しています。また、関西医科大学では一般選抜の募集人員を削減してその分を大学入学共通テスト利用型選抜に振り替えました。これは優秀な地元の学生の囲い込みや大学入学共通テストをもちいた国公立大学との併願者の確保などを意図したものと考えられます。

また、地域枠の募集人員はほとんど変化していません。まだ確定していないため、今後、地域枠以外の募集人員が増加することは考えられますが、私立大学は地域医療を支える医療技術者を育成することが教育目標の大きな部分になっていますから、今後も地域枠を重視した募集人員を設定することが予想できます。

2.義務年限付き地域枠について

ここで地域枠について簡単に説明しておきます。地域枠は出身地や出身高校の指定があるものとないものがありますが、そのほとんどが大学卒業後に一定の義務を果たすことが要求されます。その義務は多くの場合、自治体が設定するキャリアプランにしたがって9年間、その大学が所在する都道府県知事の指定する医療機関に従事することとなっています。この義務年限中は大学病院での研修と医師不足の地域での地域医療を数年ごとに行うことになっています。近年、この義務を履行しない人の存在が問題視されており、2019年以降は義務を履行しなかった研修医を採用した病院に補助金減額などの罰則が加えられるようになりました。(表3)

3.暫定募集人員と今後について

最後に、今後の募集人員の動向について、厚生労働省の発表をもとに予想しようと思います。最初に述べた通り、2020年度入試における増員は1705名(地域枠を要件とする暫定増員840名)、地域枠1679名でした。

厚生労働省は2028年~2029年には医師の働き方改革が進んだとしても医師数は全国レベルで需給が均衡するとしており、そのため、特に地域枠を要件とした臨時定員の必要性について議論すべきとしています。しかし、その一方で地域枠以外の医師は出身大学の地域に定着する率が低く(地域枠は80%以上、地域枠以外は35%程度)、医師が地域的に偏在している実情を考えると、地域枠を減らすことは妥当ではない、ともしています。

一方、2018年度より、都道府県知事から大学へ地域枠の設定・拡充の要請権限が創設されるなど、それまで厚生労働省が主体となって進めていた地域枠の運用が地方自治体に移管されました。これにより、医師不足の自治体に所在する大学では、地域枠の募集人員を維持あるいは増加させる方向に進むでしょう。例として表4に宮崎大学の募集人員の内訳を示します。

2020年10月に厚生労働省が発表した資料中にも「マクロ需給推計では、将来的に医師は過剰になると考えられる。一方で、より多くの地域枠を継続的に設定することが望ましいことから、恒久定員内に地域枠を設定することを令和4年度から、地域の実情に合わせて推進する方針」とされています。

このように、医師不足の地域、すなわち、地方の大学では2023年度以降のいずれかの時点で一般枠の募集人数が減らされて地域枠が維持されるようになると考えられます。そうなれば、都市部から地方への受験の難易度が上がることになり、医学部受験全体の難易度も上がることになるでしょう。


私立・国公立大学医学部に入ろう.com 平野 晃康 https://www.sidaiigakubu.com/
名古屋セミナーグループ医進サクセス室長を経て、現在は私立・国公立大学医学部に入ろう.com代表。医学部受験の指導と正しい入試情報の普及に努める。入試情報誌「私大医学部入学試験を斬る2013」(名古屋セミナー出版)を編集・執筆、医療系データブック(大学通信)にコラムを寄稿。