校長対談 掲載:塾ジャーナル2020年11月号/取材:塾ジャーナル編集部

校長対談
100年の伝統を胸に「新しい甲南」をめざして

甲南女子中学校・高等学校
甲南高等学校・中学校

「世界に通用する紳士たれ」という合言葉のもと、豊かな学識を養うとともに各人の個性や才能を磨く教育に力を注いできた甲南学園。そして「清く 正しく 優しく 強く」を校訓に自立した女性の育成をめざす甲南女子学園。系列法人校として生徒や教員の交流、情報交換を図りながら成長し、甲南学園は昨年、甲南女子学園は今年、ともに創立100周年を迎えた。両校の校長、山内守明校長と岡田明校長に、改めて伝統校の魅力、別学教育の意義、新しい学校像について語っていただいた。


「別学」を選択し
建学の精神を守ることを決意

――ともに創立100周年を迎えられ、男女別学で歴史を刻んで来られました。近年、共学化が進むなか別学の道を歩まれているのは何故ですか?

山内 少子化に伴い本校の教育活動にも様々な試行錯誤がありましたが、両校とも経営面でそれほどの危機感を持たずに踏ん張れたことが大きかったと思います。むしろ「共学」が視野に入った折、「別学」だからこそ創立者・平生釟三郎先生がめざされた人間教育を継承することができるという考えに至ったわけです。心身ともに急速に変化する思春期の男子・女子のそれぞれの発達段階に即した教育があるのではないかと。

例えば、私が本校でアーチェリー部の顧問をしていた時、西日本の選抜校でクラブの合同合宿をしたのですが、合宿先の窓ガラスが割れるというアクシデントがありました。生徒たちは円陣を組んでミーティングをしましたが、割ってしまった他校の男子生徒は女子生徒に強い口調で問い詰められ、うなだれてしまったことがあったのです。また、20年も前から小学校・甲南女子学園との合同学習を行っていますが、その発表会でのプレゼンテーションにも男女で違いを感じています。女子は言葉の選び方が的確で、スマートな発表をするのに対し、男子は訥々と自分の本音を語っている(笑)。個人差はありますが、男女で言語能力の成長スピードが異なるのでしょう。

岡田 今まで学校を支えてくれた理事会が建学の精神「まことの人間をつくる」を守ってくれたから、戦後の教育制度改革の波が押し寄せても、社会の風潮に流されず別学を守ってこられたと思います。異性の目を気にしないで学習に集中できる時間を育み、またリーダーシップを発揮する体験を重ねてきました。母・祖母と3代続いて卒業生という生徒も結構いて、いわゆる『いいところのお嬢ちゃん』がつくり上げてきた校風というのがあり、以前は教育目標を『良妻賢母』と謳っていました。現在は社会の変遷に鑑みて、卒業後の多岐にわたる活躍を応援する学校になりました。理系志望の生徒も多くなり、もちろん甲南女子大以外の進路も全力サポートしています。そして、今も阪神間の女子教育で変わらない評判をいただいていますが、地域の温かい見守りの恩恵を受けてきたからと感謝しています。これは甲南学園においても同様ですね。

山内 そうですね。地域で両学園の評価が高いことは嬉しいですね。今後の教育方針として共通しているのは、多様な進路を保障しようということ。従来は系列の大学に行くのが一つのスタイルで、例えば6年間クラブに打ち込んで甲南大学に上がっていくという流れだったのですが、価値観の多様化、また少子化のなか、各人の自己実現に向かって進路保障ができる学校に、というのが、今の学校の歩み方です。

自校の魅力を伝える卒業生がいる
それが伝統校の良さ

――素晴らしい卒業生を輩出されていますが、在校生との交流はありますか?

山内 5~6年前から年2回、卒業生による講演会「ソフィア」を実施し、在校生に向けさまざまな話をしてもらっています。初回はミズノ株式会社相談役会長の水野正人さんを招き、「東京五輪の誘致とチームづくり“信頼”」について、また、心臓外科医で「神の手をもつ男」として世界から尊敬されている須磨久善先生からは、“Life”と題して、「生きがいのある人生」をテーマに講演していただきました。在学時代のことも話してもらえるので、生徒たちの感想文を読むと、「自分と変わらない学校生活を送っていたのに、今はこんなに活躍している」と、とても励みに感じているのがわかります。阪神間の企業で活躍されている卒業生も多いですね。酒造会社の経営者同士でも、ライバル関係というよりは、一緒に業界を盛り上げようとタッグを組まれています。また、同窓会では、80歳を過ぎた古参のOBから今年大学に入った新米OBまでみんな仲良くて、「これぞ甲南スピリット」と実感しています。

岡田 本校の100周年記念冊子に、旧制女学校の卒業生、作家の佐藤愛子さんに寄稿いただきました。ご高齢ですが、今も母校への愛情が深く嬉しく思います。生徒たちは100周年記念の企画に自らプロジェクトを立ち上げ、記念冊子も制作しています。大先輩と触れ合えるいい機会にもなりました。東京都知事の小池百合子さんも卒業生ですが、まさに政界でリーダーシップを発揮されています。本学園の同窓会は中高、大学の合同で設立され、現在5万5000人余りの会員がいます。いつまでも幹事のお役が回ってくるそうです(笑)。私も日本中の支部に招かれて出席していますが、「古き良き時代の話を今に伝えてほしい」という卒業生の想いを感じます。いい友達を持ち、いい先輩を持つことは人生の宝ですね。

社会の期待に応え進化することで
甲南の魅力がより輝く

――これからの「新しい甲南」の魅力について教えてください。

岡田 今年が100周年ということで、新しい甲南女子像についても考えさせられることが多かったですね。先輩たちがつくってこられた良き伝統、校風を維持しながら、進学にも力を入れ向き合う。前任の校長が「二兎を追う」と言われたそうですが、この路線を進めたいと思います。今回、新型コロナの騒動がありましたが、歴代の校長も戦争や震災など大きな逆境に直面され、その都度みんなの英知で乗り越えてこられた。今、学校は生徒と教職員の安全を優先に運営を進めていますが、女子校としてまだまだ発展の余地がある、世の中が再び女子校の人間教育に期待していただいていると感じています。それにしっかり応えられる学校であると自負しています。

山内 校長になって「学校とはどうあるべきか」の原点に立ち返った時、私学の場合は、「こういう人物を輩出したい」という明確な理念があって創立されているので、とてもありがたく励みに感じています。「心身ともに健康で良き人物をつくる」、さらに「生徒の個性を引き出していく」ことが建学の理念です。そして、究極の使命は「社会に貢献できる人材を輩出する」こと。企業や組織のトップに立つだけが社会貢献ではなく、自分の感性で能力を伸ばし、社会を支える立場で頑張ってほしいと願っています。そんなマインドを持った生徒を社会に送り出したい。同じ使命を持つ甲南女子さんとそれぞれの存在を認め合い、これからもうまく連携していきたいと思います。

甲南女子中学校・高等学校  http://www.konan-gs.ed.jp/
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