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2020/11 塾ジャーナルより一部抜粋

コロナ禍での大学入試

「大学受験の桔梗会」代表 合格ストラテジスト
加藤 哲也

     

 コロナ禍の影響を受け、本年度の大学入試は、今までの傾向に従わない全く未知のものになる事が見込まれています。この記事では、いくつもの例示を挙げながら、本年の受験生たちが迎える「コロナ禍での大学入試」について考察しました。

2次試験中止を早々に決めた
横浜国立大学

 2020年7月31日、横浜国立大学は新型コロナウイルスの感染拡大の終息が見通せないとして、全学部・学科で2次試験の内容の大幅変更を発表しました。本年度の入試において最も衝撃的なニュースの一つでしょう。

 かつて、国公立大学の一般入試で、2次試験を実施しなかった事例は過去にも存在します。2011年3月の東日本大震災の発生時には、山形大学・岩手大学・福島大学など東北地方にある国立大学のみならず、埼玉大学・筑波大学・東京外国語大学など関東圏の国公立大学の中にも、計画停電の実施や試験会場の安全確保ができないことを理由として、後期日程の2次試験を中止した大学がありました。実は、横浜国立大学は、地震発生直後に後期日程の試験実施延期を発表し、後の14日に試験中止をいち早く決めた経緯があります。

 このときは、東北圏・関東圏のの国公立・私立大学が一斉に試験中止をしたことと、いずれの大学も「2次試験を実施せず大学入試センター試験の得点のみを合否判定に用いた」ことがポイントになります。しかし、本年の横浜国立大学の対応は2011年の事例とは大きく異なる点が3つあります。

ゴールはいきなり変えられる

 1つ目は、2次試験の中止を決めている国公立大学が、この原稿を書いている9月15日時点で、横浜国立大学だけであること。現時点では、他大学が追随する動きは見られません。2つ目は、国公立大学の入試のメインである前期試験でも2次試験を行わないこと。

 3つ目は、「2次試験を実施せずセンター試験の得点のみを合否判定に用いる」という旧来の対応ではなく、「2次試験も共通テストで代替する」ことです。つまり、2次試験で課される英語・数学・理科などの配点を共通テストの得点から算出し、2次試験での得点と見なして合否判定を出すことにしたのです。

 この対応により、本年の横浜国立大学では、例年であれば合格ができる生徒が合格できず、例年なら絶対に合格しない生徒が合格してしまう事例が発生します。特に理工学部では、2次試験を実施しないため、入試で数学Ⅲを課されることがなくなります。

 つまり、本年度に限り、横浜国立大学理工学部を志望する受験生は、数学Ⅲなどの記述解答をつくる能力を伸ばすことを捨てて、共通テストでほぼ満点をとることに特化しない限り合格が見込めなくなってしまいました。入試の過去問や赤本が、全く役に立たない異常な入試が行われることになります。果たして、この入試を突破して入学できた学生は、大学が求める能力を有していると言えるのでしょうか。

大規模な志望者の流出・流入

 さらに、本年度の受験生からは、横浜国立大学は「共通テストで高得点をとらない限り合格が見込めないリスキーな大学」だと見なされ敬遠されるだろうと思います。とくに、浪人生で横浜国立大学を志望する場合には、浪人生のアドバンテージを全く生かせなくなります。横浜国立大学の志望者の中には、他大学へ志望校変更を行う者が相当数出るだろうと考えます。この影響を受け、理工学部の志望者なら千葉大や筑波大へ、教育学部の志望者なら東京学芸大へなど、受験予定者が近隣の国公立大学へ大規模な流出・流入することになるでしょう。

 この横浜国立大学の事例のように、一大学の急な入試制度変更は、他大学の学生募集に大きく波及することが考えられます。

「2年前予告ルール」の崩壊

 一般論として、大学入試の試験方式や科目を変更するときは、2年以上の猶予期間を以て予告をすることが大学入試の暗黙の了解であったはずです。これは、受験予定者に十分な試験準備をさせるための施策だと考えます。しかし、例年とは異なる対応を迫られる本年度の入試では「いつ」「どのように」入試の実施が変更されてもおかしくない状況が生じてしまいました。入試を実施する大学側も苦渋の決断をされているだろうと思います。

 コロナ禍によって試験が実施できない不都合は、大学入試だけに生じた訳ではありません。英検・TOEICなどの資格試験の実施も中止されてしまいました。そのため、本来であれば、5月や7月に英検を合格して、推薦入試の出願要件を確保しようとする計画を立てていた受験生たちの目論見が大きく狂うことになりました。

 このような情勢に対して、大学側では「出願に英語資格不問」とすることや「学校長が同等の能力があるを認める書類を添付することで代替可」など、救済措置を行う事例が散見されるようになりました。そのため、例年なら出願要件を満たさなかった受験生たちが好機だと捉えて「出願したい」を言い出す事例が発生しています。上記の救済措置は、もともと合否のギリギリにいたはずの受験生を特例として出願させるための措置です。一方で、例年では出願できないはずの受験者が合格してしまう可能性も考慮しなくてはいけません。

 実は、本年度の大学3年次編入試験でも、同様の措置による入試動向の激変が生じています。名古屋市立大学では、3月15日以降のTOEIC試験が中止されたことを踏まえて、TOEICスコアを不問として生徒募集を行いました。そのため、例年以上の出願者が集り、競争倍率が激化してしまいました。さらに、試験内容は小論文のみであるため、例年では絶対に合格ができない英語能力の裏付けを持たない受験生が、合格を勝ち取る事も起こりうるだろうと考えます。

 要件緩和などに伴う受験倍率の上昇で競争は厳しくなります。そのため、受験生それぞれが、自分の行きたい大学の入試動向や傾向を見極めて、「受験戦略」を持って望まない限り、合格を引き寄せることが難しくなったと考えます。本年の受験生たちが「昨年の先輩と同様にガンバる」ことが、必ずしも合格に結びつかないことを知っておく必要があります。

 合格のための学力の向上よりも、合格戦略というテクニカルな部分が、合否を分けてしまうクリティカルな要因になる風潮は、大学での学びを与えるに値するか否かを選抜するための「入学試験」の意義との間で矛盾を生じさせるのではないでしょうか。

学習の遅れの正体

 一部の私立大学では、学習の遅れに対して出題範囲の縮小や、試験問題を選択制にすることで学習の遅れに対応をするところもあります。このような動きは、総合型選抜、学校推薦型選抜、一般入試を問わず、本年限りの緊急的な措置の実施が見られます。

 ところで、受験生に「学習の遅れ」は、生じているのでしょうか。

 学校が休校期間であっても、参考書やオンラインでの学習ツールを使って、自主的に学習を進められた生徒は一定数存在します。当塾塾生からの聞き取り調査では、特定の高校の特定の科目に限っては、オンライン授業がとても役に立ったと答える生徒がいる一方で、普段とは異なる形での授業実施や、機器のトラブルのせいで、無駄な時間拘束でしかなかったと回答する生徒が相当数を占めています。高校が実施していたオンライン授業を上手く活用するポイントは、生徒たちよりも、配信を行う高校の先生方の力量だったのではないかと思われます。

 また、岐阜県・愛知県の公立高校では、全生徒に「スタディサプリ」のアカウントを発行し、視聴を励行していました。岐阜県内の一部の高校では、休校期間中は、特定の講座の視聴を毎日の課題とし、学校から視聴教材をプリントして配布し、視聴後の確認テストを評定の対象として活用していました。そのため、スタディサプリを利用する生徒は多く存在しました。しかし、学校が再開されると、毎日の学校からの膨大な課題に時間をとられるようになってしまい、スタディサプリを継続利用して学習を進めている生徒はごく一部に限られる様に見受けます。

 私は、大学受験や日々の学習に手軽に活用できる、良質な教材が使えるようになったことは大変良い社会の変化だと捉えています。当塾の自習室では、塾生たちに自塾のレットを自由に利用させ、自塾で提供している映像教材だけでなく、学校から提供されたスタディサプリのアカウントを使って、学習を進めることを励行しています。

 一方で、いくらインターネットが普及したからといっても、すべての受験生が、散在する受験情報をもれなく正確にキャッチできているとは思えません。私のYouTube チャンネルの視聴者からのコメントを見ると、一部の高校や塾には、未だに「センター試験の過去問を10年やれば合格できる」と吹聴し、ひたすらにセンター試験の過去問演習をさせるところがあると見聞きします。さらに、それを何も疑わず指導者の言うことをひたすらに信じ、与えられた課題のみをこなして満足している受験生がいることも散見します。

 時代の変化とともに、受験生自身にとって有益なものが、いつでもどこでも安価に利用できる世の中が到来したのは、大変好ましいことです。しかし、巷に溢れる受験情報や様々なツールを使いこなす能力と、志望校合格に向けた計画的・戦略的な学習プランをつくり、日々の生活の一部として継続的学習ができる忍耐力を身につけられないままの受験生がまだまだ存在するのではないでしょうか。高校の休校期間中に勉強が止まってしまい、受験に向けて何をして良いのかわからず立ち尽くしてしまった多くの高校生が存在することも推測できます。本年の大学受験生たちは、明確な二極化を起こしているのではないか、と推測します。

 私たち塾ができることは、子どもたちの意識を改革することだと考えます。自分が目指したい、明確な将来のビジョンを意識させること。目指す自己像を実現させるために自分が努力する必要があると自覚させること。そして、メンターとして、伴走者として生徒たちに寄り添い叱咤激励を続け、生徒のグランドデザインを共有することだろうと考えます。

失われた
「じっくり考える機会」

 各高校が夏休み・冬休みを大幅に短縮し、例年以上のハイペースで学習内容を終わらせていることの功罪を考えてみる必要があると思います。

 いま、一部の高校がやっていることは「学習の遅れ」を取り戻すことではなく「年間カリキュラムの遅れ」を取り戻すことではないでしょうか。もちろん、高校には、学習指導要領に基づく指導内容を行う原理原則があることは理解できます。その上で、長い休校期間の間で失われてしまった、「難解な問題とじっくり向き合う機会」を取り戻すことができたと評価できるのでしょうか。同様に、塾・予備校も「未習単元をいかに早く終えるか」に躍起になっているのではないでしょうか。自塾の日々の学習指導も振り返って反省するべき点があると思います。

 私が自塾の新規入塾者から感じている危機があります。それは、どの学年も共通して、外部模試の理科と数学の得点が良くないこと。とくに、論述解答をつくり上げることができず、ほぼ白紙のまま試験を終えてしまい、模試の結果が芳しくない生徒をお預かりする機会が増えた事です。模試の解答を持参してもらい入塾面談をすると、気づくことがあります。それは、解答用紙に自分の考えた跡が残っていないこと。殴り書きの計算メモと流れが追えない数式がいくつか書かれているだけで、問題に対する「答え」のみが書かれているため、思考過程が表れない紙面がつくられていることです。

 オンライン授業や映像授業では、従来以上に効率の良いインプット学習はできるだろうと思います。しかし、一方通行になりがちな映像授業は、一度視聴すればわかった気になってしまう弊害があります。学習の遅れが指摘される昨今では、一度インプットをしてしまえば「学習が完了した」と見なしてしまうことで、省略されていることがあるのではないでしょうか。

 私は、物事をじっくり考えるための演習時間や、つくり上げた解答を他者と批評し合うような学習経験が不足するのだと考えます。そのため、評論文の論旨要約や、英作文エッセイ、数学や理科・地歴で論述解答をつくるための「じっくり考える」学習をする機会が失われているのではないかと心配します。

 コロナ禍による休校期間は「自分でじっくり考えるための時間でもあった」という意見もあるでしょう。しかし、例年であれば高校の授業で行われていたはずの「じっくり考えるための機会」が失われているのではないでしょうか。失われた「じっくり考える機会」が、来る大学入学共通テスト等の出来に、どのような影響を与えるだろうかと憂慮しています。


●加藤 哲也 氏 プロフィール

大学在学時より高校生専門塾で講師を始め、講師歴20年目。2011年より高校生専門塾「大学受験の桔梗会」独立開業(岐阜県大垣市)。現在10年目。200人以上の大学受験をサポート。YouTubeチャンネル登録者2,000人。UUUMネットワーク所属。

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