試行錯誤した3ヵ月
2月の学校休校から今日まで、激動のコロナ禍に見舞われている東京。特に当塾のある台東区は、最初に病院での院内感染が起こった永寿総合病院が区の基幹病院となっており、かなり緊迫した空気が流れていました。その後、当塾を挟んで反対側の隣町の特別養護老人ホームで集団感染が発生し、当塾は挟み撃ちにあいました。正直なところ、生きた心地がしませんでした。
当塾は3月第1週目に全生徒のオンライン化を準備し、2〜3週で月内の授業を消化、4週目は通塾を再開し春期講習を実施しましたが、4月は1週間程度で緊急事態宣言が出たため、生徒・保護者はもちろんのこと、社員・スタッフからも営業や出勤に対して恐怖を感じるという訴えも出、以降授業もストップし、授業料も返還。完全に営業を止めました。5月にはオンラインで授業を再開し、6月はオンライン+通塾のハイブリッド。7月からは通塾の比率を少し上げましたが、それでもハイブリッドを継続しています。
当塾が全生徒オンライン化をわずか1週間で準備できたのは、すでに3年ほど前からオンライン授業に取り組んでいたからです。インド・バンガロールに始まり、釧路、島根、千葉、都内と、人数的にはわずかながらも、双方向通信授業を続けてきたので、多くの成功事例も、そして失敗も重ねてきました。ノウハウがある程度溜まっていたので、技術的な設定・準備をするだけで130名以上の生徒分のオンライン授業を準備することができました。
ただ、試行錯誤したのはクラス授業。3月はYouTube での映像配信を実施しましたが、やはり映像授業だけではできる子とできない子が出てしまい、保護者からの不満も少し出始めました。そこで通塾での春期講習後は、YouTube Live での配信を試みましたが、そこで緊急事態宣言となってしまいました。
GW明けの授業再開時には、クラス授業をZoomに切り替え、電子黒板の画面を共有しながら双方向通信での授業を始めました。個別指導は別の通信システムを利用しているので、複雑にはなりましたが、現在はこのかたちで落ち着いています。
オンライン授業は不完全なもの
ちょうど世間の塾が緊急事態宣言を受けて授業のオンライン化を始めた頃、我々はある意味「力尽きて」全面休校に入りました。その頃オンライン授業を始めた塾からは、物珍しさや新しい技術への感動も手伝ってか、「もうこれで授業をすればいいのではないか」「わざわざ物件を借りて塾を開く必要がない」「世界中がマーケットになる」などという声が数多く聞こえてきました。ですが、少しだけ先行事例を持っている私たちは、「今にわかるよ」と、大変失礼ながらちょっと上から目線で世を眺めていました。
案の定、2ヵ月もするとその声は一気に変わってきて、「オンラインでもできないことがたくさんある」「やっぱり通塾でないとダメだ」「管理ができない」「講師が疲弊する」などという評価に変わってきました。「ようやくわかってきましたね?」と私は思っていますが、実はココからがオンラインの真価が問われるところだとも思っています。
結論から言いますと、オンラインは万能ではありません。むしろ、まだかなり不完全な授業形態で、特に管理面においては致命的な欠陥もあります。低学年になればなるほどオンライン化は難しくなり、双方向通信であるにもかかわらず双方向通信をフル活用すると余計にダメになるというジレンマに陥ります。
オンライン授業の落とし穴
本気で話をし始めると本が書けるほどの内容になってしまうのですが、いくつかの落とし穴を指摘しておきます。
まず、デジタルネイティブ世代である今の生徒たちは、若い講師たちならいざ知らず、40代以上のノンネイティブの遥か上を行く順応性があります。小学生の保護者から「子どもがチャットで質問するのは無理だと思う」という声が上がったことがありましたが、その子は授業中にチャットで一番おしゃべりをして叱られる子になりました(笑)。我々の方が使い切れない多様な機能を、子どもたちは直感的にどんどん使いこなしてしまいます。ですから、かなり生徒の上を行く「使いこなし」がどうしても必要になってきます。
また、生徒たちはオンライン授業の全体像を瞬時に把握しますから、質問されて答えられなくても通信不良のふりをすることもありますし、指名されるとカメラをオフにする子もいたりします。手が出せないのをいいことに、カメラの前から姿を消す子もいますし、カメラの死角に解答集を置いていたり、できていない問題を「できた」と答えてやり過ごしたり、とにかく現場にいないということをフル活用してきます。「敵もさる者」と覚悟し、指導者の方が「教室での指導とは別物である」と認識して授業にあたることが非常に重要になってきます。
また、生徒指導に一層気を使わねばなりませんし、すべての画面に目を配ったり(画面の都合でスクロールしないと顔が出てこない子もいます)、ハッキリと聞き取りやすく話そうとして、つい声を張ってしまったりと、講師側がとても疲弊するというのもわかってきたことです。実はこれは私たちも改めて認識した落とし穴でした。
もちろん利点も多い
もちろん悪いことばかりではありません。軽い体調不良で、今まで欠席や振替としていた授業をオンライン参加で消化できるという利点も出てきましたし、人気がなかった遅い時間の有効活用もできるようになりました。また完全オンライン化で出席率が100%になった子もいますから、適した子には有効な授業提供手段であることは間違いありません。遠方からの入会も増えましたし、その子たちが何らかの理由で大幅な遅刻をしそうな時は、「今日はオンライン参加」という対応が可能になりました。
しかし、生徒やご家庭側が積極的に利用する、授業に参加するかたちでないと、さほど有効に機能しないというところも見えてきています。過干渉にならないよう注意しながらも、ご家庭の協力もかなり必要です。
物珍しさで、オンライン授業に一時的な高揚感を感じる時期はすでに過ぎたと思います。できること、できないことがハッキリわかってきた今、オンライン授業をどう有効活用し、どういうツールとして育てていくかは、コロナ禍が過ぎ去った後まで、飽きることなくオンライン授業を使い続けていく塾にかかっているように思います。
進学個別桜学舎 塾長 亀 山 卓 郎
プロフィール
1968年東京生まれ。2009年、進学個別桜学舎設立。株式会社VISITU代表取締役。2019年1月に著書「ゆる中学受験」を現代書林より発売。中学受験ナビにて「親子で疲弊しない『ノビノビ』中学受験」連載。Y o u T u b e「下町塾長会議」「Ohgakusha Channel」配信中。
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