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2020/7 塾ジャーナルより一部抜粋

業界時評 教師の本音 122
オンライン授業と内発的動機づけの学び

 

教育評論家 放送大学非常勤講師 小宮山 博仁

 

 前回5月号では『学力と地域格差の要因を考える…その2』で、主に日本の学校の教育力について論じ、7月号では学校以外の学力を形成する場所を考える予定であった。

 しかし今年2月から爆発的に広がった新型コロナウイルス感染症により、教育界も激変しつつある。このような社会情況を鑑みて、急遽オンライン授業を取り上げることにする。(3回の予定)

 今、大手・中小を問わず、ほとんどの塾がオンライン授業を取り入れているか、検討しているかのどちらかではないだろうか。ここでは「内発的動機づけの学び」をキーワードに、主に塾での授業を考えていくことにする。

1. 学びの動機づけ

 ここで、学びの動機づけには主に2つあることを確認しておこう。

①内発的動機づけ

 学校教育などで重視されている動機づけに、『内発的動機づけ』がある。この用語は現在でも教育心理学のテキストには必ず出てくる。自分から学ぶことを積極的に行うため、文科省が唱えている「生きる力」やOECDが広めようとしている「生きるための知識と技能」とも関連が密であることは確かであろう。心理学のテキストでは「何か他の報酬を得るための手段としてではなく、それ自体を満たすことを目的とされた欲求」と『内発的動機づけ』を定義している(『学習と教育の心理学』〈岩波書店〉)。

 この動機づけは、何かを理解したいという欲求や向上心と結びついていると考えられている。また、『内発的動機づけ』の原動力は、不適合や隔たりを最適水準に調整しながら解消する能力と言われている。この学習の動機づけは、21世紀に入ってから注目されるようになった「生涯学習」との関連も強い。

②外発的動機づけ

 『外発的動機づけ』とは、一般的には「何らかの他の欲求を満たすための手段として、ある行動をとることに動機づけられる」と定義されている(『学習と教育の心理学』)。金銭を与えて勉強させる、具体的には「算数のテストで100点をとったら100円おこづかいが増える」「合格したらパソコンを買ってもらえる」といった例がわかりやすい。有名大学に合格することだけが目的の受験勉強や、毎週または毎月テストをして、強制的にクラス分けをしたり、成績順で座席を決めるという授業も同様である。テストの成績で賞と罪を与え、外から圧力をかけてまさに強いて勉める「勉強」をさせるのは、『外発的動機づけ』中心の受験勉強と言えるだろう。

 この『外発的動機づけ』のデメリットは主に2つあるという。1つは金銭や賞罰を与えられない状況になると、学ぶことを中止してしまう可能性が、『内発的動機づけ』よりも高くなることである。「テストで100点を取ると100円もらえる」という環境にいる子どもは、100円を与えることをやめてしまうと、勉強することへの興味を失ってしまうことが多くなる。大学に入学することだけが目的の受験生は、合格したら教科書や参考書は全部処分してしまい、学ぶことを熱心にせず、レジャーランド化した大学生活を送ることになる。

 私たちは、好きな音楽やスポーツや様々な趣味を夢中になってしている時は、「面白いから」「楽しいから」という理由で継続する。継続するうちに知識が増えたり技術力がアップして、心地よい達成感を経験すると、さらにもっと学んでみたいと思うようになる。しかし『外発的動機づけ』で勉強してくると、学習そのものに関心が向かなくなる恐れが出てくる。それだけでなく、常に賞や罰を与え続けなければ、以前よりもまして勉強に興味を示さなくなる可能性も高くなる子どももいる。

 たいがいの発達心理学や、教育心理学のテキストに出ている具体的事例を次に示しておく。

 『お絵かきが好きな幼児をA群とB群に分ける。A群はよい絵がかけたら常にほめて賞状を与える。B群はA群のようなアプローチはしない。このような実験をした後、2週間ほどしてA群とB群の幼児に何もしないで絵をかくことを促した。結果はB群よりA群の幼児はすすんで絵をかくことが少なかった』(『学習と教育の心理学』をもとに小宮山が書き改めた)

 大学合格を目標とした受験勉強は、内発的なのかそれとも外発的なのかという疑問を持つ方が多いと思われる。合格することだけが、すなわちそこの有名大学の切符を手に入れることだけが「目標」なら、それは明らかに外発的であり、合格後は学ぶ意欲は減退してしまう。ある大学に入学してから「経済学を学びたい、工学を学びたい」という目的や希望があるなら、これは同じ目標を持った受験勉強でも、内発的となるであろう。大学に入学してからもある目標を設定して、自ら学び続けることは明らかである。

2. 塾の学びを考える

 塾の学びのスタイルは、進学中心と補習中心ではかなり違っていることが予想できる。塾に子どもが来る目的は主に、「進学(受験)」と「補習」の2つに分けることができる。ここでは塾の分類をするのではなく、学びの違いを考えてみることにしよう。

①内発的動機づけ中心の塾

 『内発的動機づけ』中心の塾では、一方向性の授業だけするのではない。子どもの性格や現在の学校での学力を知り、家庭での学習状況も把握する。塾というサービス業は、消費者は1人でないことはすでに周知の事実となっている。スポーツクラブや理髪店は、サービスを受ける消費者は1人であるが、塾は子どもと保護者がいるという特殊なサービス業である。両者を満足させるには、家庭環境もある程度知る必要が出てくるのは当然であろう。

 子どもが学ぶ目標を持ったり、知的好奇心を発揮するには、大人のサポートやアドバイスが大切であることは言うまでもない。学びの面白さを一度でも知り、何らかの成功体験を経験すると、次にまた何かをしてみようと思うのは子どもだけでなく、大人も同様であろう。

 このようなことを考えると、一方向性の「ライブ授業」のようなスタイルの塾とはかなり違っているのが、『内発的動機づけ』中心の塾である。双方向性の授業と、塾と保護者の双方向性のコミュニケーションがあれば双方の信頼感は強くなる。子ども、そして保護者との関係性が「密」であることによって、『内発的動機づけ』中心の塾が成立することは明らかであろう。

②外発的動機づけ中心の塾

 塾での『外発的動機づけ』の勉強は、ほとんどが成績に関した内容となる。成績(具体的には定期的なテスト)でクラス分けをし、座る席まで決め、勉強ができるかできないかを、一目でわかるようにする。成績優秀者(逆の場合もある)を定期的に発表し、受験生同士を競わせる方法がよく取り入れられている。目標の進学校に入るためだけの受験勉強をするので、何のためにその学校を目指すのかが時として忘れられてしまうこともある。満点のテストなら、賞品と交換できるシールがもらえる、または直接現金(1 0 0 円玉や500円玉)をもらえる、という方法もあるようだ。

 一定の学力を保持した子どもが集まり、上位成績者を進学校に合格させようと思った場合、『外発的動機づけ』の授業になることが多い。多くの子どもを相手に一方向的な授業を効率よく行うには、先に示したような外発的な勉強に頼らざるを得なくなる。当然子どもと講師、保護者と塾側の関係も、「受験」以外のことは疎遠になりがちである。双方の関係性が薄くなり、『内発的動機づけ』の塾よりもお互いの信頼感を築くのは難しくなることが推測できる。

 このような学びの動機づけの違いによって、オンライン授業はどうなるのかを、次回考えてみたいと思う。


小宮山博仁(こみやま ひろひと) プロフィール
1949年生まれ。教育評論家。放送大学非常勤講師。最近は活用型学力やPISAなど学力に関した教員向け、保護者向けの著書、論文を執筆。
著書:「持続可能な社会を考えるための66冊」(明石書店・2020年)、『「活用型学力」を育てる本』(ぎょうせい・2014年)、『眠れなくなるほど面白い数学の定理』(日本文芸社・2018年)、『眠れなくなるほど面白い数と数式の話』(日本文芸社・2018年)、『大人に役立つ算数』(角川ソフィア文庫・2019年)、「眠れなくなるほど面白い算数と数学」(日本文芸社・2020年)など。

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