学研塾HDと市進HDの塾で
共通教材、共通カリキュラムへ
――これまでも学研塾HDとは共同出資により学童・幼児保育事業を行う「株式会社GIビレッジ」を設立。学研HDとは「TOKYOGLOBALGATEWAY(東京都英語村)」に共同出資するなど、連携を取って事業を進められてきました。今回の人事の狙いは?
下屋俊裕氏(以下、下屋) 今回の人事においては、お互いが代表権を持つ会長、社長という立場になります。長年にわたり協力関係を築いてきた結果、次のステップに踏み出した、と捉えていただくのが一番的確な表現かと思います。
学研HDは市進HDの株式を37・7%保有する筆頭株主ですが、子会社化するということではありません。学研塾HDの経営に市進HDが参加し、市進HDの経営にも学研塾HDが参加するというスタンスです。
――今後、どのような取り組みを考えていますか?
下屋 少子化が進む中、それぞれの企業が単体として継続していくのはかなり厳しいという考えは以前からありました。ですので、今後は、学研塾HDの皆さんと共通の教材、共通のカリキュラム、共通のテストの実施を考えています。
もちろん、いきなり全部変えるのではなくて、学習指導要領の改定の時期も考慮しながら、新中1や新高1など、教科書が新しくなる学年から始める計画です。教科も最初は全教科無理であれば、理科と社会だけ共通にするなど、3~4年かけて同一教材、同一カリキュラム、同一テストを目指していきたいと思っています。
――連携のメリットは?
下屋 今回のように新型コロナウイルスの影響で休校措置がとられ、塾も休業しなければならなくなった時、連携が大きな力を発揮したと思っています。弊社や学研HDが持つオンライン授業の仕組みを提供すれば、それぞれの塾で慌てて映像をつくる必要性がなくなります。お互いのリソースを持ち寄れたことが強みとなりました。
同時に、共通の教材などを使うことで、無駄な出費を回避することができます。加えて、テストも母集団が増えれば、それだけ信頼性が高くなると考えています。教材やカリキュラムが一緒であれば、同じ範囲から出題できます。試験問題をつくることにとられていた時間を、生徒への指導に使えることもメリットになると思います。
――共通の教材づくりはどのように進めるのですか?
下屋 幸い学研グループの中に、文理という出版社があります。各塾にはそれぞれの科目の専門家がいらっしゃると思いますので、各塾の意見を持ち寄ってつくりたいと思います。教えるに当たって一番重要なのは、教える先生の技量です。いい教材があって、そして、素晴らしい先生の手にかかれば、生徒の学力はより伸びると考えています。
休校中はオンライン授業
5月分の授業料の一部返還
――新型コロナウイルス対策は、市進HDとしてどのような方策を取られましたか?
下屋 まず、判断基準を統一しました。地元の自治体が休校を宣言した段階で、対面授業はすべて中止する。そして、休校が解除されれば、学校のステップに合わせて、対象人数を調整するなどの「分散登塾」を含めた対面指導を実施しました。
市進学院では5月31日までの休校期間中はWEBを活用し、在宅での映像授業やZoomによるオンライン双方向授業を行いました。イントロ部分は映像授業を使い、演習に関しては双方向のオンライン授業というスタイルです。家庭学習はウイングネットのベーシックウイングを使用しました。
個別指導の個太郎塾では休校期間中、Zoomによる1対1ないしは1対2のオンライン双方向授業を行いました。リモートワークで保護者の方も在宅していたご家庭もあり、「こんな感じで授業をやってくれているんだ」ということを保護者の皆さんにも理解していただけた部分も大きかったと思います。
――生徒の不安にはどのように寄り添っていましたか?
下屋 学習相談の電話はいつもより多くかけていたと思います。最初のうちは、オンライン授業を面白がっていた生徒も、しばらくすると集中するのが難しくなります。もちろんオンライン授業でも対話はできますが、じっくり話ができるのはやはり電話。現場の先生方はかなり頻繁に電話をかけていたと聞いています。
――5月分の授業料を一部返還されたそうですね。
下屋 経済的にも疲弊されているご家庭もあると考慮し、グループ全体の塾で、5月分の授業料または施設維持費の一部返還を実施しました。個太郎塾では、FCオーナーの方々にも授業料の返還をお願いいたしました。返金分は親会社の株式会社個学舎が負担しています。
このほか、学研HDからは問題集や参考書の提供、弊社からは映像教材の提供なども行いました。1社だけですとカバーできる範囲に限界がありますが、このように学研HDと連携していたおかげで、様々なメリットがありました。
――このような不測の事態こそ、学研HDとの連携が力を発揮されたと?
下屋 そうですね。それぞれの企業が持つ、独自の資源を持ち寄ることで柔軟に対応できました。学研HDなど他の塾の皆さんと設立した「教育アライアンスネットワーク(NEA)」でも、新型コロナウイルス感染症対策をまとめたり、Zoomを使った映像授業のノウハウなどを加盟塾に配信したりもしました。そういう意味では、企業間の連携関係があったことで、緊急事態にも迅速に対応できたと感じています。
――市川市とは5月に「教育に関する包括協定」を結ばれました。
下屋 市川市は市進発祥の地です。市川市から申し出をいただき、今回の協定が実現しました。この協定にもとづき、①休校中の市内公立小・中学生への在宅学習支援②市内公立小・中学校への弊社教育コンテンツの導入③家庭の事情等で十分な教育を受けられない生徒への教育支援活動④教職員の方への研修、という4つの活動を市川市教育委員会との連携のもとで積極的に進めていきます。今回の新型コロナのような緊急時だけでなく、平常時においても連携して活動を進める内容となっています。
――休校中はどのような支援を?
下屋 5~7月の間、ウイングネットの導入授業部分の映像授業を希望者に無料提供します。当塾の生徒のアクセス数も含めて、2週間で3万2000アクセスがあり、市川市内で2万を超えたと聞いています。
弊社以外にも多くの無料のコンテンツが公開されていましたが、子どもたちはどう選んだらいいか、迷うことがあったのかもしれません。市進学院は地元の塾ということもあり、ウイングネットがどのような教材なのかを理解していただいている学校の先生方も多く、利用しやすかった。それがこのアクセス数に表れたと思っています。
県単位で高校入試対策を強化
学童保育事業「ナナカラ」が人気
――2020年3月に株式会社市進東京を設立されました。その目的は?
下屋 高校入試はその県の特徴が出ます。千葉県には千葉県の、東京都には東京都の入試対策が必要になります。従来の「市進の中の東京」というかたちでは、都立入試に十分に対応できていないのではないか。東京で塾を展開するのであれば、首都圏統一教材ではなく、都立高校に向けたカリキュラムを組む必要がある、というのが市進東京設立の理由です。埼玉については学研グループの学研スタディエと「進学塾サイン・ワン」を展開しています。
――千葉は来年高校入試が一本化されますが、対策は?
下屋 中学校3年間の内容をきちんと押さえていれば、慌てることはないと思います。3年間のカリキュラムをこなしていれば、どんな入試にも対応できると考えます。記述式についても、普段から記述の訓練さえしていれば、ちゃんと対応できるはずです。まして、休校中もオンラインで授業を受けてきた生徒なら、カリキュラムを消化していますので、慌てる必要もないと考えます。
これは大学入試でも同じことが言えます。大事なことは高校3年間の内容をきちんと押さえることです。制度の変更に合わせた対策はもちろん実施していきますが、教育課程から逸脱した内容が出題されることはないので、教える内容を深化させればよいと考えています。人に負けない絶対科目をつくるようにしたうえで、生徒自身が自分は国公立タイプなのか、私立文系か私立理系なのかをよく考え、受験科目の選択を間違えないことが大切だと思います。
――学童保育の事業も展開されていますね。
下屋 2013年に学研HDと株式会社GIビレッジを設立し、幼児教育と学童保育サービスを始めました。2015年には民間学童「ナナカラ」の運営もスタートしています。この施設のコンセプトは「個性・体験・自立」。活動の一つとして、ナナカラ米プロジェクトとして、埼玉県の浪江農園と提携し化学肥料を使わない米づくりをしたり、大学生と一緒にプロジェクトを行ったりしています。
小学校進学時に入会を希望する新年長・新年中のお子さん向けの「ナナカラリトルクラブ」会員も募集していますが、申し込みが多く、登録待ちのところもあるようです。ナナカラは「市進の体験型学童施設」と謳っていますが、市進学院の教材は教えないようにしています。
――学習塾のカリキュラムは行わないのですか?
下屋 やっていません。ナナカラで行っているのは「習い事」になります。ナナカラで教える勉強は宿題だけで、学童の名を借りた塾は絶対やらないつもりです。
子どもたちは学校やその他の塾の宿題を持ってきます。それぞれ塾によって教え方が違う中、市進学院の指導をしたら、一番戸惑うのは子どもたちだからです。もちろん、宿題の指導はしっかり行います。市進学院の講師および塾講師経験のあるスタッフが「宿題先生」となって、子どもたちをサポートしています。
ナナカラは千葉県に5ヵ所。秋には船橋塚田にオープンします。ニーズは高いですが、急いで事業を拡大しないようにしています。長時間子どもを預かる学童保育は、勉強という目的を持ってやってくる子どもを指導するのとは、違った研修が必要です。その人材研修をしっかり行いたいと思っています。
――市進HDの今後について教えてください。
下屋 弊社は離職率が低い会社です。しかも、希望すれば70歳まで働ける仕組みがあります。塾という職場は、若い先生方のパワーが必要です。年齢を重ねた方には塾以外にも働ける場所、雇用の創出を考えながら、事業を広げていきたいと思います。「本業重視」という言葉はありますが、教育事業での実績を出しながら、社員の皆さんが働きがいを持って、活躍できる場所をつくっていきたいと考えています。
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