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中学・高校受験:学びネット

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2020/5 塾ジャーナルより一部抜粋

「無限の可能性」の引き出し方 第5回

     

伝える力

 通信制サポート校(つばさ高等学院)&フリースクール(つばさスクール)で、私が受け持っている「世の中授業」は、社会へ出た時に必要な力をつけてもらうことを意識した授業です。特に私が意識しているのは「伝える力」です。

 様々なことを学んでも「伝える力(自分を理解してもらう力)」がなくては、選ばれません。もし、言葉では伝えられなくても、まずは「文字」「絵」「写真」「音楽」などでOKです。そして、みんな見事に成長していき、文化祭や卒業式では素晴らしい発表をしてくれます。

 この度、少々ハードルが高いと思いましたが、「詩」で表現してもらうことを試み、新たに生徒たちの可能性に触れることができました。

奈良少年刑務所

 話は遡りますが、先日素敵な本と出合いました。『あふれでたのはやさしさだった』(寮美千子著・西日本出版社)です。主に18歳から25歳くらいまでの、比較的重い刑の人が入所している奈良少年刑務所での新たな教育プログラムの導入で、寮さんは所内で月1回「詩」を教えることになりました。

 刑務所から依頼があったときは、先入観から、現場へ行くことへの恐怖感でなかなか決断できないでいましたが、熱意のある要望に、「夫と同伴なら」ということで引き受けます。そして、実際に刑務所へ行って受刑者たちに接してみると、罪を犯したことには間違いないけど、その前に彼らは社会の被害者だったということに気づかされます。例えば、

☆題:「くも」
 空が青いから白をえらんだのです

 という詩を書いてくれたD君は、それを不明瞭な口調で読むのですが、それは薬物中毒の後遺症があり、そのためにろれつが回らなかったのです。頭には父親から金属バットで殴られたという痛々しい傷跡があり、それも原因の一つだったようです。やっと読み終えると、仲間から一斉に拍手が起こり、その後、普段話さないD君が手を上げてこう話したそうです。

 「今年はお母さんの7回忌です。お父さんは体の弱いお母さんをいつも殴っていました。僕は小さかったからお母さんを守ってあげることができませんでした。お母さんは亡くなる前、僕にこう言ってくれました。『つらくなったら、空を見てね。私はきっとそこにいるから』。僕は、お母さんのことを思って、お母さんの気持ちになって、この詩を書きました」

 このあと、仲間からは応援の言葉が次々に送られます。

 私は「詩」に対して、俳句や短歌のように決まりがない分、逆に難しさを感じていました。しかし、この本を読んでいると受刑者たちの想いが次々と自由さを持って表現されていることがわかります。また、それを聴いていた仲間たちのコメントが素晴らし過ぎるのです(是非、著書を読んでみてください)。

つばさ生たちの
『あふれでるやさしさ』

 さて、私自身に「詩」の素養のないことはとりあえず置いておいて、まずは、冒頭で紹介した「世の中授業」時に取り上げることにしました。始める前は、「そんなにうまくは書けないだろう……」と思っていました。

 方法としては、まず、この本から10個ほど詩をピックアップして生徒に聴かせたり読んでもらったり、その詩を書いた受刑者の背景や、周りの仲間たちのコメントなどを伝えた後、生徒たちに自由に書いてもらうというかたちです。

 実際書いてもらうと予想以上の出来栄えでした。つばさ生は、もともと学校という環境の中ではうまく適応できなかった分、逆にどんな子でも受け入れる環境ができていたのが大きかったと思います。

☆A君(高校1年生)の詩

題:「バイク」
 ぼくはバイクにのりたい

 「これだけ?」という感じですが、教室全体に笑いが起こり、「何でもOK」という雰囲気の土壌ができました。A君に感謝!

☆Sさん(中学3年生)の詩

題:「帰り道」
 一人ぼっちの帰り道
 少しさみしい
 一人ぼっちの帰り道
 車の音と風の音
 一人ぼっちの帰り道
 おおきく息をすう
 一人ぼっちの帰り道
 つめたい風が心を洗う
 とても心が落ち着く好きな時間

 Sさんはとても繊細な子で、絵がとても上手です。この詩を書き終えたあと、このようなことを言っていました。「今は(コロナの影響で)、帰り道に学校の人と会うかもしれないので、嫌だ」と……。彼女にとって、学校の仲間と会うことはとても辛いようです。

 H君は別の通信制高校から転入してきました。小学校の時からほとんど学校へは行っていません。私の授業は、答えたくなかったり、わからないときは「パス」と言えばいいことになっていますが、H君は普段「パス」することが多く、私が話しているときも目をつぶっていて、起きているのか眠っているのかわからないという感じが多い生徒です。

 でもその日は違いました。「H君、書いたの読める?」と尋ねると、「はい」。

☆H君の詩

題:「やりたいこと・夢」
 だれでも最初はわからない
 きっかけや出会い
 長い時間をかけて見つける人もいる
 なので 生きているうちは
 何かしら見つかると 私は思う

 題:「生きるとは」
 昔は仲が良かった親
 そんな中 生まれた私
 時間がたち
 仲が悪くなっていく親
 私は思う なぜ生まれたか
 そして気付く
 私がいるから親は離れない
 私がいるから 家族でいられる
 だから生きていく

 普段担当しているスタッフは隣で聴いていて、涙を流していました。

 受験を翌々日に控えた中3生もチャレンジしてみました。

☆Oさんの詩

題:「受験」
 初めて自分から親に言った
 初めてこの高校に行きたいと言った
 初めての親に言ったわがままだった
 成功するかはわからないけど
 初めてこんなに自分と向き合った
 今までの時間があるだけで
 もう大成功だと思っている

☆T君の詩

 題:「~感謝できる今がある~」
 偏差値が伸びない
 成績も上がらない
 でも努力をした
 だから僕は突き進む だから僕は
 自信が持てる
 支えがあるからこんなことが言え
 るんだよなぁ
 母さん 父さん 姉ちゃん
 ありがとう
 今度は僕が支えるよ

 これらの授業のきっかけとなった本のタイトルの通り、生徒たちから『あふれでるやさしさ』をもらいました。


仲野十和田(なかの とわだ) プロフィール

 1964年生まれ。東京都板橋区出身。全日本私塾教育ネットワーク理事長。不登校のためのNPO法人フォー・ユー研究会代表理事。1 9 8 6年、「ナカジュク」の前身「仲野学習塾」を創業。現在東京・埼玉に7教室、つばさ高等学院(通信制サポート校)・つばさスクール(フリースクール)を経営。

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