株式会社世界地図
代表 松岡 功 氏
カンボジアの現状を見て
井戸を掘る資金づくりに会社を設立
松岡氏が世界地図をつくろうと考えたのは、カンボジアでの思いがけない体験からだった。愛媛県松山市で生まれた松岡氏は、慶應義塾大学法学部を卒業後、約30年間にわたって地元・松山で予備校・学習塾を経営。60歳を機に、それまで築いた会社や塾を手放した。自由の身となって、カンボジアの友人を訪問。そこで目の当たりにしたのが、現地の人が泥水を沸かして飲んでいる現状だった。
「とにかく、びっくりしました。大切なのは教育よりも井戸を掘ることだと思ったのですが、そのときは会社を手放してしまっていたので収入源がありません。そこで、かつて自社のPR用に制作して好評だった世界地図をつくり、販売。井戸を掘る資金に使おうと決めて立ち上げたのが、株式会社世界地図です。おかげさまで、世界地図一本で16年目を迎えましたが、運営はまだまだです」
世界を俯瞰で見ることが
グローバル教育の第一歩
どうして、今の時代に世界地図が必要なのか。学校の教室から世界地図が消え、アメリカがどこにあるかわからない大学生が、約3%と言われる現代。世界地図はどこの国にもあるようだが、実際には自国の地図はあっても、世界全体の地図は存在しない国も多い。
「エルサレムでは、一番大きな書店に行っても世界地図を見つけることはできませんでした」と松岡氏。さらに、「専門的な地図は存在しても、それは子どもたちには見づらくて世界に興味を持つきっかけになることは少ないでしょう」と付け加える。
「幕末の志士・坂本龍馬は、勝海舟から地球儀を見せられ、世界の大きさを知って開国論者になりました。子どもたちが世界地図を見ることで、現代の坂本龍馬が生まれてくれることを願っています」
そこで、松岡氏が考案する世界地図はイラスト入りで親しみやすく、世界各国の言葉や世界の偉人を紹介するものなど60種類以上と、実に多彩に展開している。
スマートフォンがあれば手元で位置確認ができるし、世界のニュースを動画で見ることもできる。しかしながら、「日本人も世界中の人々も、一枚ものの地図で世界全体を俯瞰する機会が少なくなっている」と松岡氏。
「世界は広いな!」「自分の国は小さいな!」「お隣はどんな国かな?」「海の向こうの国にも行ってみたいな!」。俯瞰で見る1枚の世界地図が、子どもたちにさまざまな夢と希望をもたらす。松岡氏によると、世界地図を見てから海外に興味を持ち、英語の勉強を始めたり留学したいと言い出したりする子どももいるそうだ。また、テレビで海外のニュースを見ると、その国の所在地を世界地図で確認したり、世界地図を話題に家族でのコミュニケーションの機会が増えたりする家庭も。
一番多いのが、トイレに世界地図を貼ると子どもがトイレから出てこなくなるケースだという。「トイレから出てこなくなれば、着実に国際人に向かっています」と松岡氏は微笑む。
「グローバル教育が進み、近い将来、大学の授業が英語で行われる日もやってきます。しかし私は、グローバル教育のスタートは世界地図を見て世界を知ることだと思います。まずは、世界地図を見る習慣をつけること。1枚の紙を通して世界の各地に入り込み、子どもたちの夢や希望が広がっていくことを願っています」
新しい広告媒体は
社会貢献活動にも
井戸を掘るための収入源として立ち上げた株式会社世界地図では、広告媒体として世界地図を活用することを提案している。世界地図をベースに、企業の広告やメッセージを入れた、オリジナル地図を製作するのである。
例えば、5000枚以上の世界地図を受注すると、その収入で井戸を1基寄贈できるというわけだ。しかも、寄贈するのは発注した企業ということで、スポンサーの名前と、「念ずれば花ひらく」と現地語で刻まれた記念プレートが井戸の傍に設置される。世界地図を多くの子どもに届けるだけでなく、カンボジアに井戸を寄贈することができ、記念プレートには自社名が刻まれる。そして現地州知事より感謝状が届く。この新しい媒体は、企業にも好評だ。
「世界地図は喜んでもらってくれるから、捨てられることがない。世界地図を通して、さまざまな啓蒙が可能であり、収益の一部が井戸掘り活動に生かされるので、社会貢献活動にもなります」
目標は世界中に22万基の井戸
世界に貢献する子どもを創りたい
株式会社世界地図が、これまでにカンボジアなどで井戸を掘り寄贈した数は434基になる。
「カンボジアでは、子どもたちが長時間かけて、川や池の水を汲みに行くことが日課。そんな水を沸かして飲んだとしても、抵抗力の弱い5歳未満の子どもたちは、下痢や感染症で亡くなることが多い。病気の80%は水です。井戸を掘ることで、水を得ることができて、現地からは子どもの死亡数が減ったと言われます」
松岡氏の目標は、世界中に井戸を22万基掘ることとか。「雲をつかむような目標ですが、22世紀中には完成したいものです」
もちろん、自分だけの力では不可能。自分の志を継いでくれる子どもたちの育成にも力を入れている。毎年1月17日の朝5時46分には、阪神・淡路大震災の震源地である淡路島北淡町に出向き、20年以上黙祷を捧げているという。
「25年前のあの日から、ボランティア活動に火がつきました。当時運営していた塾のスタッフや生徒も一緒に、何度も被災者を応援に出かけました。私の理念は、その当時から変わることなく〝社会に貢献する子どもを創りたい〞です。塾は、偏差値エリートをつくり、政治家や官僚、各界のリーダーを育成するだけではなく、かつての松下村塾や適塾のような人材を育てることが役割だと思っています」
塾は国を創り国を亡ぼす
さらに、パキスタンのマララさんやスウェーデンのグレタさんを例に挙げ、日本の子どもたちにもエールを送る。
「世界で若者が立ち上がっているように、20 年ほど前、志の高い生徒350人と私たちは『僕たちに借金を残すな』をスローガンにして、松山市内で街頭デモを行いました。今、世界では2030年を達成期限に世界の貧困をなくす、持続可能な世界を実現するという2つの柱に17の目標を掲げた〝SDGs〞に取り組んでいます。その中で教育は最も大切な活動です。日本でも、子どもたちが中心となって立ち上がってほしいと思います。それが最も可能なのが塾だと思います」
2020年オリンピックイヤー
世界の人をおもてなし
今年、日本ではオリンピックが開催され、世界中の人が東京に集う。
「そこで同社では、世界の言葉が載っている『こんにちは・ありがとう版』を薦めています。海外の人に対して『ハロー』だけではなく、その国の言葉で『こんにちは』と挨拶ができたら、最高のおもてなしとなるはずです。ラグビーワールドカップでも、現地語でその国の国歌を歌ったのが一番のおもてなしでした。さらに、子どもたちにとっては海外の人との触れ合いが、忘れられない思い出となり、将来の夢のきっかけになるかもしれません。今から世界地図を見て、準備を始めませんか」
76歳になる松岡氏は、「世界中に世界地図を広げるために99歳まで頑張りますよ」と快活に話してくれた。
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