よく、書籍等で目にする関西の私立大学の難易度ごとの序列・グループは【表1】のようにまとめられていることが多い。今回はその序列・グループが今後、どのようになっていくのかを考えてみたい。
私はこれまで、大学への進学はやりたいこと、興味があることを将来の就職に繋げることが大切で、大手予備校がつくった序列・グループに惑わされてはいけないと警鐘を鳴らしてきた。その理由は、より専門性を持った規模の大きくない大学が含まれていないことである。そしてここからは、その序列・グループにこだわるべきではない理由を付け加えたい。
まず1つ目は、2016年から行われている合格定員の厳格化である。厳格化の作用は受験生を安全志向へと導き、【表1】の3グループの競争率を引上げた 《1》 。2つ目は、2022年に行われる大阪府立大学と大阪市立大学の統合である。もし、その統合された大学が人気を呈すると、その併願校として同じ大阪に位置する関西大学・近畿大学にも人気が波及することが考えられる。
そして二次的な波及が、同じ大阪に北部に位置する摂南大学、追手門学院大学にまで及ぶかもしれない。そこまで地理的な要因に左右されないのではという向きもあるが、最近の大学は必修の講義の時間を1限目に設定しているので、通学の便までを考慮すると少なからず影響はあるであろう。そうすると、上記の【表1】の序列・グループは徐々に崩れていく方向にあろうと思われる。
私が普段お世話になっている教育関係者には、大手予備校の先生もおられる。その先生が、「これまで予備校では、国公立から産近甲龍までのレベルの大学の間に受験する大学が収まっていたが、最近は摂神追桃まで見ておかなくてはならない。でも、それらの大学の特色等の情報をよく知らない」と言われたことがあった。確かにそうなのかもしれないと思う。
予備校離れが言われている昨今、地域の高校生を受け持つ中小の塾が、それらの大学の情報をしっかりと補完しておく必要性があるように思う。
《1》 2019年入試の志願者数は前年度比、摂南122%、神戸学院138%、追手門学院149%、桃山学院137%
摂南大学
寝屋川キャンパス
大阪府寝屋川市池田中町17-8
枚方キャンパス
大阪府枚方市長尾峠町45-1
〈沿革〉
1922年に開学の関西工学専修学校がルーツである摂南大学は1975年開設。建学の精神「世のため、人のため、地域のため」を礎に、理論に裏付けられた実践的技術をもち、現場で活躍できる専門職業人の育成を目的とした大学である。
姉妹校に大阪工業大学を持つことから、創立当初は、工学部「土木工学科、建築学科、電気工学科、機械工学科、経営工学科」(現・理工学部)のみのスタートであったが、1982年に国際言語文化学部(現・外国語学部)と経営情報学部(現・経営学部)を増設、翌年には薬学部を増設して、総合大学へと学びの領域を広げる。その後、さらに法学部、経済学部、理工学部に生命科学科、看護学部を設置。
2020年には農学部を新設して8学部17学科6研究科へと発展する予定。
〈学部〉
法、外国語、経済、経営、理工、薬、看護、農(2020年4月)
〈大学院〉
法、国際言語文化、経済経営、理工、薬、看護
〈一言アピール〉
文理バランスのとれた8学部17学科6研究科を設置する総合大学。
〈どんな大学なのか?〉
摂南大学の名を全国に広めたのは、薬学部の薬剤師国家試験の合格率が開設以来13度の全国トップの実績をあげたことである。現在でも全卒業生6416人の約98・4%にあたる6316人が薬剤師免許を取得している。また、90年代後半に土壌汚染で問題となったダイオキシンの研究でも成果をあげていたことである。
この他に大学の特長として、学生が志望の進路に進めるよう、1年次から段階を踏んだキャリア教育を導入。ゼミを1年次から導入するなど、きめ細やかな教育就学指導を実施していることが挙げられる。これを可能にしているのは、専任教員一人当たりの学生数〔27・9人*〕が少ない大学として関西の私大ではトップレベルにあることだ。
また、近年、女子学生の志願者数や入学者数が増えており、在学生における女子学生の比率は33%と約3人に1人の割合となっている。2020年4月に農学部が開設されると入学定員における文理の比率は、文系51%、理系49%となることも特筆できる点である。
*出典:読売新聞「大学の実力2019」調べ
〈卒業生コメント〉
○浅田博孝さん(2014年経営学部経営学科卒業)。税理士法人a-office参事。京都先端科学大学経済学研究科村井研究室。
「卒業論文は、日本の戦後税制に大きな影響を与えたシャウプ勧告について書きました。ゼミの指導教授や他の先生からもアドバイスを頂いて卒業論文を書き上げることができ、充実した大学生活を過ごすことができました。また、学部を横断して講義を受けられたことも良かったです。食堂のメニューの『トリポン定食』が美味しく、その味が懐かしいです」
【私見及び感想】
私は少しの期間、摂南大学のGPプログラム 《2》 で教鞭を執り、社会人大学院生として経営情報学研究科で研究をしていた経験がある。そのこともあり、親しみを込めて、摂南大学がどんな大学かというと、良い意味で、すべてが平均値より少し上で、雑多な表現をすれば、中の上の大学なのである。
理由として、摂南大学の受験者は①経済、経営、法学部は近畿大・龍谷大・大阪経済大学②外国語学部は関西外大・京都産業大学③理工、薬学部は近畿大学・龍谷大学・大阪工業大の併願校として受験する場合が多いことがあげられる。
また、外に向けてのPRが難しいとされている経済学部で日銀グランプリ 《3》 最優秀賞を受賞するなど、中規模の総合大学の利点を生かして、全学部でアクティブ・ラーニングを積極的に取り入れ教育の質的転換を図り成果を上げている。
例えば、ソーシャル・イノベーション 《4》 副専攻課程の学びや、新入生対象の「学修キックオフ・セミナー」と呼ぶ初年次教育プログラムを先輩学生が企画・運営し、新入生を指導することで自らのプレゼンテーション能力やファシリテーションスキルを身に着ける教養科目を配置するなど、学部を越えた学びを展開している。
クラブ活動ではラグビーが強く、理工学部の学生を中心に鳥人間コンテスト2019に出場するなど、明るく元気な学生が多い印象を受ける。
《2》 文部科学省が、「Good Practice」をキーワードとして、教育の質向上に向けた取り組みや政策課題対応型の優れた取り組みなど、大学における学生教育の質の向上を目指す個性・特色のある優れた取り組みを選び、その取り組みをサポートする制度。
《3》 2017年に日本銀行本店で開催。慶應義塾、東京理科、一橋、中央大学など39大学が参加
《4》 社会問題に対する革新的な解決法。既存の解決法より効果的・効率的かつ持続可能であり、創出される価値が社会全体にもたらされるものと定義されている。
山本 陽一(やまもと よういち)
1962年生まれ。大阪経済大学卒業、摂南大学大学院・同志社大学大学院修了。個別指導学習塾(堀川紫明・一乗寺)塾長。京都先端科学大学経済経営学部非常勤講師(准教授)、京都私塾連盟加盟。
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