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2019/1 塾ジャーナルより一部抜粋

医学部入試の現状と今後 第10回

 

私立・国公立大学医学部に入ろう.com 平野 晃康

 
     

 平成29年に医学部入学定員は過去最大の9,420名となりました。平成19年度の7,625名からわずか10年で1,795名の増員です。この背景にあるのが緊急医師確保対策と新成長戦略です。今後、医学部募集定員はどうなっていくのか。周辺の状況の解説をしつつ予想してみようと思います。

【医学部募集定員の変遷】

 医学部定員は、昭和48年に閣議決定された「無医大県解消構想」の推進により大幅に増加されて昭和58年度には8,280名となりました。この年、人口10万人当たり医師150名の目標が達成されることとなり、その後、昭和61年には将来的に医師数が供給過剰になることが見込まれて平成15年度までに段階的に削減され、平成19年度まで7,625名で維持されました。

 しかし、平成19年度入試以降、医学部の募集定員は再び大幅に増加されています。平成30年度入試では恒久募集定員が8,269名、臨時定員増1,150名を加えて9,419名が募集されました。史上最大の募集定員だった前年度に比べて1名減少したものの、平成19年度と比較すると1,794名の増員でした。

 医学部の募集定員が増えているのは医師数が不足しているためですが、医師数が供給過剰になるという見積もりが外れてしまったのはなぜでしょうか。医療の発達による専門分野の細分化や看護師などコ・メディカルとの業務分担の不十分、マネジメントの失敗など様々な理由が挙げられますが、最も大きな理由は医師の偏在による地域医療の崩壊だと思われます。

 医師の偏在が起こった理由は、主に平成16年4月から始まった臨床研修制度にあると言われています。臨床研修制度とは、医学部を卒業した人は2年間の初期臨床研修を受けなければ保険診療ができなくなるというものですが、初期臨床研修を受ける医療機関を卒業大学に関わらず全国から選ぶことができるという点が画期的でした。

 このように労働する場所や診療科を選べ、キャリアを自由に設計できることは、医師個人としては望ましい事です。

 しかし、臨床研修制度により新卒医師が自由にキャリアを描くことができるようになった結果、労働条件や生活の環境が充実している都市部に医師が集中するようになったのです。

 それ以前のように新卒医師が卒業大学の医局に入局し、医局が派遣する病院で勤務することが一般的だったころは、自らで職場を選ぶことが難しかった一方で、医師の偏在が起こりにくいシステムでした。

 偏在は診療科間にも生じています。特に小児科・産婦人科・外科などは全体の医師数が増加する中で横ばいあるいは減少となっており、問題視されています。

 そこで、新成長戦略、経済財政改革の基本方針2009、緊急医師確保対策などによって、医師不足が深刻な地域や診療科に従事する医師を募集する地域枠が新設されることとなったのです。これが、平成19年度以降の医学部入試における募集定員増加の背景です。

【医師需給の推計と今後の募集定員】

 本来、緊急医師確保対策は平成29年度入試まで、新成長戦略は平成31年度(当時)入試までという期限が付いており、それ以降は増加した定員のうち一部を除いて再度減少させることになっていました。

 しかし、医師不足が十分解消されていないことから期限を2020年度入試まで延長したという背景があります。

 では、2021年度以降はどうなるのでしょうか。

 すで千葉大学ではホームページ上で2021年度入試からの募集人数の減少に言及しています。

【厚生労働省の方針】

 厚生労働省の医師需給分科会の資料によれば、現在、日本の厚生労働省では女性医師の増加や若手医師のライフワークバランスなどの感覚の変化に対応するため、週当たりの労働時間を制限する医師の働き方改革を進めており、製薬・行政・国際貢献・研究・企業など、臨床以外の医師の養成も進めています。このため、従来より多くの医師数が必要とされています。

 2018年度入試における募集定員のまま医師を養成し続け、地域間、診療科間における医師の偏在対策が成功した場合に、医師の需給がどのようになるかを医師需給分科会が推計した結果は次のようになります。

 【ケース1】働き方改革により医師の労働時間を週55時間に制限した場合
             ↓
       2033年頃に約36万人で医師需給が均衡、2040年には医師供給が約2・5万人過剰

 【ケース2】働き方改革により医師の労働時間を週60時間に制限した場合
             ↓
       2028年頃に約35万人で医師需給が均衡、2040年には医師供給が約3・5万人過剰

 【ケース3】働き方改革により医師の労働時間を週80時間に制限した場合
             ↓
       2018年頃に約32万人で医師需給が均衡、2040年には医師供給が5・2万人過剰

 このように、働き方改革により最も時間数を制限したケース1でも2033年には医師需給が均衡するとされています。医学部入学から医師として働けるようになるのに医学部6年+初期臨床研修2年の8年が必要ですから、2 0 3 3 年に医師になる人は2025年に医学部に入学した人であり、2019年度入試から6年以内に医学部の募集定員を減少させ始めないと医師数が過剰になると試算されているのです。

 しかし、医師の需給を推計することは非常に難しいと言われています、それは、社会構造や情勢の変化によって推計の根拠が容易に崩されてしまうためです。

 例えば、現在は地域医療の医師不足が叫ばれていますが、団塊の世代の多くは都市部やその近郊の団地や住宅地に住んでいます。そのため、団塊の世代が後期高齢者に突入する2025年には地域医療ではなく、都市部の特定の診療科の医師不足が叫ばれるようになっているかもしれません。また、訪日外国人が急増していることから、外国人患者に対応できる医師の養成も急務と考えられています。

 こうした不確定要素があることを踏まえ、医師の需給分科会においても、2020年度入試までは現在の募集人員を維持するものの、将来的には募集人数の削減も視野に入れ、慎重に議論したいとしています。

【予想】

 2021年度以降数年以内に募集定員の削減が始まると予想されます。ただし、削減に反対の大学も多いため、一度で削減するのではなく、数年をかけて段階的に削減が行われるでしょう。また、2019年4月から、従来は国が行っていた医学部入試における地域枠の設置数の指導や認可について、各都道府県が行うこととなります。

 このことから、特に医師数の不足している都道府県の大学では、募集定員を減少させる際に地域枠を残して一般枠を減少させるという変更がなされる可能性が高いと考えられます。

 少子化であるにもかかわらず、医学部の一般枠の倍率は下がらないという状況になると考えられます。


平野 晃康 プロフィール

 名古屋セミナーグループ医進サクセス室長を経て、現在は私立・国公立大学医学部に入ろう.com代表。医学部受験の指導と正しい入試情報の普及に努める。入試情報誌「私大医学部入学試験を斬る2013」(名古屋セミナー出版)を編集・執筆、医療系データブック(大学通信)にコラムを寄稿。

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