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中学・高校受験:学びネット

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2018/9 塾ジャーナルより一部抜粋

中学受験のこれまでとこれから
出版社営業から見た中学受験点描

 

声の教育社営業部 三谷 潤一

 
     

「全滅は恥」だった頃

 多くの保護者にとって「中学受験塾 に通うこと」=「地元の公立中学には 恥ずかしくて進学できないこと」だっ た。受験塾に通えば、放課後や休日に 友達と遊ぶ時間を制限されるので、隠 そうとしても周囲に知られるところに なる。どこの中学を受験し、進学した かが周囲から関心の対象にされる。そ の際、受験生本人や親が絶対に避けた いのは「受験した中学校全てに不合格 のため、やむなく地元の公立中学に進 学すること」だった筈だ。

 「全滅は恥」なので、「どこでも良 いから私立中学に進学したい」という お考えを多くのご家庭はお持ちだっ た。そのおかげもあって合格偏差値が あまり高くない私立中学でも、ある程 度の入学生を確保できていたように思 う。かつて多くの私立中学が入試機会 を1回しか持たなかった頃と違い、複 数回入試どころか午後入試も増えた。 選り好みさえしなければ、どこかに合 格するのは難しいことではない。

 塾にとっても、翌年の営業活動時に 「塾生全員合格!」をアピールできる メリットもあった。中学受験が過酷で 大変なもの、というイメージがあるう ちは有効だったように思う。しかし、 学受験市場が停滞し始めた時に、大 学付属校をはじめとした私立高校が 次々と中学を開校したことで受験生の 選択肢はさらに増えた。その分、前年 より入学生を減らす私立中学も増えた 印象が強い。そうなると「塾生全員合 格!」の価値も下がってきたように思 う。それでも「どこでも良いから私立 中学入学」という価値観はまだ存在し ていた。

 中学入試は一発勝負だ。どんなに公 開模試の偏差値が高くても当日の体調 不良で不本意な結果になることだって あり得る。努力した時間や過程が無駄 になるわけではないし、むしろ不合格 を味わった小学生のほうがそのつらさ を克服した時、人間的に成長するもの だ。だとすれば、全滅は決して恥では ないし、むしろ胸を張って結果を受け 止めるべき、ともいえるが、なかなか 納得できないのも人情というもの。親 も子も塾の先生も傷を負いながら、現 実を受け止めるしかなかった。中学入 試が今よりずっと規模が小さかった 頃、そんなことは珍しくなかった。

公立中高一貫校入試のもたらした保護者の意識変化

 今や「全滅」も「地元公立中学に通 うこと」も「恥」ではなくなった。公 立中高一貫校のおかげである。首都圏 で公立中高一貫校に合格できるのは約 3千人しかいないのに約1万8千人が 応募する状況は中学入試を変えた。6 人に1人しか合格できないのだから 「宝くじに当たるようなものです」と 塾の先生方も保護者に説明するように なった。どんなに学力が高くても蓋を 開けてみなければわからない高倍率入 試の定着は「どこでも良いから私立中 学」という保護者の価値観を大きく変 えた。校内でも1、2位を争う頭の良 い子が試しに受けた公立一貫校を不合 格になり、私立は併願せず地元の公立 中学に進学するのが珍しいことではな くなったのだ。校内トップの小学生が 公立中高一貫校受検に失敗するくらい なのだから地元の公立中学進学は恥で も何でもない。以前であれば校内暴力 やゆとり教育への不安感から「公立だ けには行かせたくない」という価値観 もあったが、今は公立不信感もそう強 くない。

 かくて私立中学の人気の二極化は加 速した。一定の合格偏差値より下の中 学は定員割れや欠員の多さに苦労し、 一部の難関校・話題校に人気が集中す る状況は年々拍車がかかっているよう に見える。「中学受験人口がここ3年 増加している、といわれるがその実感 がない」という話を私立中学の先生方 からよくお聞きする。政府が景気回復 をアピールしても、国民の多くがその 恩恵を感じられないのと似ている気も する。

 一方、学習塾にとって合格保証をし なくても納得して貰える入試の登場は メリットになったのか。これだけ多く の応募者がいたのだから新たな掘り起 こしをしてくれた面はあった。新たな ニーズをビジネスチャンスに塾生を増 やした大手塾もある。高校受験指導も している塾なら「公立中高一貫校に合 格できなくても3年後の高校入試でリ ベンジしよう!」ともいえよう。何し ろ「宝くじ」のような入試なのだか ら、あまり深い傷にはならない。ま た、公立一貫校を目指そうという生徒 であれば一定のレベルの塾生を中1か ら確保できる。とはいえ、高実倍率の 公立一貫校合格数を増やすにはどうし ても受験数の多い塾が有利なため、中 小塾にとっては「労多くして功少な い」入試が増えただけかもしれない。

薄れていく悲壮感

 少しでも早い受験番号を得ようと出 願の前日から並ぶ保護者はもういな 。初日の出願状況を観察して出願先 を決めることもなくなった。同じ日に 2校出願し前日までの合否結果でどち らを受験するか決めることもなくなっ た。インターネット出願の普及によっ て保護者の負担は軽くなった。

 合格風景も変わってきている。掲示 板での発表前にインターネットで個人 の合否を知ることができるようになっ た。自分の受験番号があるのをスマホ で確認してから手続き書類を受け取り がてら学校に出かけ掲示板の前で記念 写真を撮る。不合格なら足を運ぶこと はない。なかには合格者の掲示すらせ ず、発表はインターネットのみ、とい う学校もある。悲喜こもごもが混在し 独特の緊張感に満ちた合格発表風景も いずれ姿を消すのかもしれない。

 入試日が近くなると品薄になってい る中学校別過去問題集のお問い合わせ が入る。在庫があると「直接購入しに うかがいます」というお客様がいらっ しゃる。わざわざおいで頂くのは心苦 しいのだが、おそらく最寄りの書店を いくつか回ったりネット販売で「品 切」表示をご覧になったりしているの だろう。「入手できてほっとした」と いうご様子を感じるのは昔からのこと だ。しかし、以前のお客様は「本当な らもっと以前に購入すべきなのに、こ んな直前になって買いに来て恥ずか しい」といった方が多かった。今の お客様からはそのような印象は受け ない。「試験、明後日ですよね?」 と問われて「そうなんですよー」と 明るく応えるほど屈託がない。

 中学受験が手軽になって保護者の 悲壮感は薄れた。このことも昨今の 様々な入試形態が増えていることと 関係しているように思う。

適性検査」への評価の変化

白鷗 高校が都立初の中高一貫校を開 校した平年(2005年)にはこ んなことになるとは思ってもみなかっ た。あの頃、「都立は私立の真似ばか りして人気を取ろうとする」といった 批判や「人事異動のある公立で進学成 果が出るわけはないから無視して問題 ない」といった意見を私学・私塾サイ ドから聞いた覚えはある今、公立中高一貫校の大学合格実績は 決して低いものではない。なかでも3 年連続で東大2ケタ合格を出している 都立小石川は難関私立中学志望者の多 くが併願校として選んでいる。

 「適性検査なんていうわけのわから ないもので入学生の学力を担保できる のか?」といった疑問の声もかつては あった。元々は「過度な塾通いに繋が らないよう、生徒の適性を見るための 検査で特別な知識がなくても解ける問 題で学力検査ではない」のが「適性検 査」だったと記憶する。それ1 0年経 つと「新しい学力観」が「適性検査」 に寄ってくるのだから不思議なもの だ。

 最も大きいのは大学入試改革で打ち 出された新共通学力テストの変更内容 だ。一部で導入される記述問題のサン プルが公立中高一貫校の適性検査とそ っくりだ、と話題になった。数万人規 模の入試でどのように公平な採点が可 能なのか?という課題はあるものの、 かつて「わけのわからない」といわれ ていたことを思うと隔世の感がある。

 首都圏模試センターのまとめによれ ば、適性検査型(思考力型入試)実施 校は120校から136校に増え、の べ応募者は1万人の大台に乗ろうとし ている。なかでも公立中高一貫校入試 の模擬試験的な役割を期待できるスタ イルが人気を集めている。はっきりと 「○○中等教育学校対策になるような 出題をします」とアピールしている学 校も少なくない。

 適性検査は作成するのも大変だが、 楽しんで作問している私立中学の先生 方もいらっしゃると聞く。採点と合否 判定のときでも「小学生でここまで書 けるものなのか」という驚きとともに 入学してくる生徒たちを教えるのを楽 しみにしていた、といった話も複数の 実施校でお聞きした。

 私の勤務先の声の教育社では毎年、 首都圏中心に中学校別過去問題集を約 250点発行し続けている。最近は適 性検査の収録も増えている。しかし、 残業時間削減のため編集部の仕事量を 増やせないことから、私立中の適性検 査型入試の解説は掲載していない。複 数解があったり、解き方も様々だった りするためだが、今後は検討の必要が あるだろう。

多様化する選抜と過去問題集

 中学入試ブームの頃には4科型入試 が主流だった。それが今は適性検査だ けではない。年々、新しい試験形態が 登場し、増加している。入試規模は小 さい場合が多いので2科4科入試の定 員枠を削減するほどのものではない が、英語入試やポテンシャル入試等、 多様化している。さらに中堅上位校で 算数1科目入試や午後入試を導入する 動きも急増している。

 中学受験は「ゆとり教育」への不安 感からブームになって拡大した。リー マンショック以降、減少。2020年 度以降の大学入試改革や東京2 3区内の 大学定員厳格化による難化への不安感 が再び私立人気を呼んでいる。多様化 する選抜方法は中学入試の裾野を広げ ようという試みに見える。

 入試回数ばかりか試験の種類が増え れば学校別過去問題集に収録する内容 も増やして欲しいという要望が強くな る。自社の都合ばかりで申し訳ない が、限られたニーズに対応することで 存続している出版社としてはなるべく 制作費をかけずに発行したいので、こ の状況はあまり歓迎できないのが正直 なところだ。

 そうでなくても、中学校別過去問題 集は年々厚くなる傾向が強い。1回の 入試問題の総ページ数が明らかに増え ているのだ。思考力を問う記述問題が 増えるのなら出題自体はシンプルにな ってページ数が減りそうなものだが実 際にはその逆になっている。中学高校 で習うような内容を取り上げながら小 学生でも解けるように注釈が多くなっ ているのも影響しているのかもしれな い。国語の読解問題の素材分の文字数 の増加傾向や理科・社会のグラフや図 表の多さもあるのだろう。上位校ほ ど、この傾向は強く、収録年数を減ら すか価格を上げるか毎年悩まされるの が実情だ。

 とはいえ、eポートフォリオ入試や 討論だけの入試などが主流になった ら、紙媒体で入試問題を紹介する過去 問題集など需要がなくなってしまう。 求められるうちが花、というものだろ う。

 声の教育社でも2年前から入試問題 の解説動画の有料配信サービスを開始 した。文字で読むより動画のほうがわ かりやすい点を生かそうというもの だ。ご関心の向きにはぜひご覧頂きた い。

できる生徒はどんな教え方でもできる

 塾教育研究会(JKK)が開催した 新しい学びについての研修会に出席さ せて頂いたことがある。2014年の ことだ。電子黒板やタブレットを使用 した授業や映像を使った反転授業など が主なテーマになっていた。まだアク ティブラーニングという言葉は浸透し ていなかったように思う。

 複数の先生方が実践例を次々と報告 されていたのに驚かされた。個人経営 の塾の先生が様々な情報を収集され、 投資額を考慮しながら試行錯誤をされ ていた上に、活発な議論や質問が飛び 交うのにも圧倒された。電子黒板やア プリを導入した長所・短所を話された 方や、ご自分の授業を録画して動画配 信されている方もいらっしゃった。

 どの先生にも共通していたのは、教 え方を変えることで伸び悩んでいる塾 生に変化が生まれないか、という視点 だった。塾勤めをしていたので、成績 の上がらない生徒の難しさは体感して いる。苦手意識をなくせないか、興味 を持たせられないか、成功体験を持て ないか、勉強のやり方を身につけられ ないか…等、いろいろと考え試してみ たものの、うまくいった経験は少な い。(だから、出版社勤めになってし まったのかもしれないのだが。)も し、授業のスタイルを変えることで飛 躍的に伸びる生徒がいるなら、塾の集 客にとっても大きな武器になるだろ う。それも競合が少ない内に先駆けた ほうが有利だ。

 ところが、様々な新しい学び方を試 した塾の先生方が口を揃えておっしゃ った結論は「できる生徒はどんな教え 方でもできる」ということだった。あ まりに当たり前過ぎる結論だが、妙な 説得力もあって思わず会場から笑いが 起きたことを覚えている。

変わらない私立中高一貫校の役割

 安田教育研究所の安田理代表からう かがった保護者の声を紹介したい。

 「勉強しなくても頭のいい子こそ、 正直中学受験なんてしなくても、どん な中学に行ったって公立トップ校に入 ってトップ大学に行けるんです。それ こそ中学受験する必要はないんです。 中学受験したほうがいいのは中堅の 子。首都模試偏差値5 0以下の子が公立 に行ったら、まずMARCHは難し い。でも中堅私学なら可能性がある。 中学受験はふつうの子にいちばん意味 がある。」

 大学定員厳格化の影響で合格実績を 下げている高校は多い。特に中レベル の公立高校ほど難関校合格は厳しい。

 大学入試制度や学び方が変わっても 私立中高一貫校に期待される役割は変 わらない。進学先が幸福な人生を保証 してくれるとは限らないが、少しでも 安定した生活を選択できる可能性の高 さを求める親心は変わらないだろう。


三谷潤一氏プロフィール

 個別指導塾、地域塾等で 教室長、中学受験部長を 務める。2000年より「声の 教育社」営業部に勤務。 首都圏模試センター模試 会場での保護者会、毎年 秋に行われる「大井町から 教育を考える会」主催の合 同相談会などで講演。

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