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中学・高校受験:学びネット

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2018/7 塾ジャーナルより一部抜粋

誰もが知らなければならないこと
「夢と絆~」~翻弄された運命の中で~

  私塾ネット 第16回 全国塾長・職員研修  
     

 全日本私塾教育ネットワーク(私塾ネット)は全国7エリアから形成、各々に活動しているが、年一度4月に「全国塾長・職員研修大会」が行われる。5月には四国エリア研修、10月には関東エリア主催「国語科を中心とした教務研修」が実施予定だ。今回、4月22日の研修大会で登壇したのは蓮池薫氏。自身の拉致体験と、大きく動き始めた北朝鮮情勢を、拉致被害者の視点から語り尽くす。

全日本私塾教育ネットワーク
私塾ネット
仲野 十和田 理事長

東京私立中学高等学校協会
副会長 實吉 幹夫 氏

 きゅりあん(品川区総合区民会館)イベントホールには、「夢と絆 ~翻弄された運命の中で~」と大きく書かれたポスターが掲げられている。用意された130席は満席。全国から集った私塾ネット会員のほか、会員塾の塾生や保護者とおぼしき姿もみえる。開会にあたり、私塾ネット理事長・仲野十和田氏 (ナカジュク・東京、埼玉)が挨拶に立った。「今回のテーマは『夢と絆』です。講演者の蓮池薫さんは、まさにこの『夢と絆』を奪われた方です。将来に夢を見出せない北朝鮮での生活の中で、結婚し子どもが生まれ、家族の『絆』を少しずつ形作られて、生きがい・夢を見出します。25年後に夫婦で帰国を果たし、2年後にはお子さんを北朝鮮から取り戻します。私たちの仕事も子どもとの絆を通して、やり甲斐や夢を持つわけですが、それらが『目の前にある』ことがいかに幸せなことか。私たちの仕事の尊さを、別の角度から新たに感じられる日になると思います」と語った。

 来賓のひとり、東京私立中学高等学校協会副会長・實吉幹夫氏は「この混沌の世界、次の時代を生きる子ども達に、どんな力が必要なのか、子ども達とどう接していくべきか――日々悩み、考えながら仕事をしているのは、本日お集まりの先生方と同じだと思います」と語りかけた。「我々も『研修無くして私学なし』の考えのもと、職務・目的ごとにコーチングなどを採り入れて研鑽しております。皆さまのお話を拝聴して、また明日から『何をすべきか』考える機会を頂けたことに感謝致します」と語った。(公社)全国学習塾協会会長・安藤大作氏は、冒頭に紹介された私塾ネットの活動報告ムービーに寄せて、「これまで錚々たる様々なジャンルの方々をお招きしてきた研修大会、非常に有意義で、素晴らしいと改めて思いました」と労った。さらに「課題多き未来に向かう子ども達は、いまの大人が身に付けてきたものとは、全く違うものを身に付けなくてはいけない。課題を解決できる力、探求心を育むのは、学校教育だけでは限界があります。今こそ民間教育が車の両輪として、子ども達の力を育むために、そして子ども達が自由に、思いのまま進むことが出来る社会環境づくりのために、我々は公的な機関との窓口、皆さんの下支えとして活動していきます」と力強く語った。

 今回参加しているのは、東北エリア・関東エリア・中部エリア・中国エリア・四国エリアの会員塾のメンバーたち。そして、蓮池薫氏の話をぜひ直接聞きたい、と自費で参加したのが自由学園(東京都東久留米市)の男子部中等科・高等科の生徒8名たちだ。男子部校長・更科幸一先生は「新しい学習指導要領では『良い社会をつくる』という言葉が出てきます。どんな社会が『良い社会』なのか、今日の講演を聴いて、子ども達と一緒に考える1日にしたいと思います」と語った。

講演
「夢と絆 ~翻弄された運命の中で~」
新潟産業大学経済学部准教授/拉致被害者
 蓮池 薫 氏

新潟産業大学経済学部准教授
拉致被害者 蓮池 薫 氏

 「拉致によって、私は夢と絆を奪われました」――蓮池薫氏はそう切り出した。人生を滅茶苦茶にされ、その影響は子の代にも及んだ、と語る。「夢とは何か。それは『自由』。北朝鮮で『自由』は何一つ満足に与えられませんでした。学問・仕事・子どもの将来……自分で道を決める自由が無ければ『夢』はない。私達は夢を奪われました」。

 2002年に帰国し今年16年目。拉致された時の状況、北朝鮮での生活の様子、どんな教育を受けて、どんな仕事をさせられたのか。拉致被害者の口から語られる事実は非常に重く、精緻な描写は生々しい感情を伴って、観客の心にも迫ってくる。

 「拉致被害者にとって『帰国』とは、生まれ故郷で余生を送るという意味だけではない。奪われた『夢と絆』を取り戻す、ということです。日本で新たな夢・生きがいを持ち、ワクワクする日々を過ごす、断ち切られた家族との絆を回復させる。待ち続ける家族の高齢化が進み、いまや時間との戦いです」。

 拉致の目的とは一体何だったのか。北朝鮮人の工作員だけでは海外でのスパイ活動が円滑に行えないため、外国人を教育し工作員に仕立てる計画だった。蓮池氏は、子どもが生まれた時、日本語を教えたい気持ちはあれど、子どもが外国語を流暢に話せると工作員にされてしまう危険性があったため、絶対に日本語は教えられなかった、と明かす。自分達が拉致された日本人だという事実も隠し通した。二人の子どもは、全寮制学校で一年に2ヵ月程度しか両親と会えない子ども時代を過ごした。蓮池氏の願いは、経済状況の厳しい北朝鮮で、子ども達が生きる術を持つこと。そして「自分は人知れず死ぬんだろうなぁ」と思っていたという。拉致されていた24年間に三度、大きな変化(レバノン人女性拉致事件・大韓航空機爆破事件・1990年代の日朝国交改善)が起こり、金日成亡き後の大飢饉や経済危機から、金正日は「拉致」の事実を認めざるを得ない状況に追い込まれた。「それは日本から得たいものがあったからです。国交正常化と経済協力です」と蓮池氏。その後、ずさんな拉致被害者の死亡報告書が北朝鮮から何度も提出されたが、日本政府は既にかなりの拉致被害者の生存情報を掴んでいるという。「もう北に報告書の真偽を問う必要はない。より多くの生存者の帰国を実現させる交渉に入るべき時期です」。今春、南北首脳会談が実現し、米朝会談も行われる。「核・ミサイル・拉致」問題が一気に進むと蓮池氏は見ている。「私は、北朝鮮側がかなり本気で臨むタイミングになりつつあると思っています」。

 最後に「想像してみてください」と蓮池氏は満場の観客に語りかけた。「まだ北朝鮮に取り残されている拉致被害者の心理状態です。私自身、帰れるとは到底思えぬまま24年間を過ごしました。いま彼らは『帰国できた人たちがいる』と知りつつ更に長い年月を待たされている。これは辛い。死亡したことになっている人もいる。日本にいる家族も同じ辛さを抱えながら待っています。一刻の猶予も許されない状況です。一人でも多く拉致被害者が帰国できるよう日夜努力している日本政府を支持しますし、多くの方々の声援をお願いしたいと思います」。

蓮池薫氏が語る壮絶な拉致体験。会員のほか制服姿の学生、保護者も一心に聞き入る

■質疑応答

Q. 帰国後に困ったことは何でしょう。また現段階での政権交代は、今後の日朝関係・拉致問題解決に影響があるとお考えですか。(高1男子)

蓮池 薫氏(以下、蓮池) 最初に市役所に勤めた時、パソコンやワープロが出来ないと話にならないと慌てて覚えた記憶がありますが、むしろ発展した日本を興味深く眺めていましたね。私は政治的には関与できる立場ではない。拉致問題は無党派の活動と位置付けています。どの政権であっても拉致問題を解決してくれれば有難いです。

Q.「拉致問題を議題にする」とトランプ大統領が明言する米朝会談の成果を、期待されていますか。(会員)

蓮池 大きな後押しになると思いますが、拉致問題は非常にデリケートな問題。一人か二人帰国し、残りは死亡が再確認されて「はい解決」と米国から言われたら、日本は納得できるでしょうか。残り12名の拉致被害者に関して、最終的に解決する当事国は日本であると、やり抜く強い姿勢を持ってほしい。他国頼みの対話が始まればすべて解決する、という錯覚に陥ってはいけません。今は、より多くの人を取り戻す作戦を練りに練る時期です。

Q.二人のお子さんは、その後どのようにお過ごしですか。(会員)

蓮池 子ども達には「国内旅行に行く」と嘘をついて帰国し、その後一年半経ってしまった。その間、彼ら自身も日本人だという事実が伝えられたそうです。帰国一ヶ月前に、突然学校を辞めさせられ、学友に何も伝えられず隔離、日本に送られました。本人達も不安感でいっぱいだったと思います。でもドラマなどを通して韓国文化も「おもしろそう」と興味深々で、日本に来るのも「怖いけど楽しみだった」と。それが自由を求める若者の意識なんですね。子ども達はどんどん新しい世界を受け入れていく。日本国内を積極的に旅する姿を見て安心しました。拉致被害者の家族関係はより複雑になってくるでしょう。家族が二国間を国費で自由に往復できる環境整備を見据えて、交渉をしていかねばなりません。

Q.僕たちの世代で拉致問題を知る人は少ないです。解決に向けて僕たちに何ができるでしょうか。(高2男子)

蓮池 私はまず「知ってもらう」ことが何よりも大切だと思います。日本で待つ家族・被害者の想いを知って頂ければ、自然にすべきことが見えてくると思います。首相に直接、解決を求める手紙を送ってもいい。人数では無いんです。個々の想いで行動すればいい。若い人たちに是非注意してほしいことは、拉致を北朝鮮の国全体の仕業と捉えてはいけないこと。拉致は、指導部の不条理な人間たちが、己の勝手な目的を達成するために行ったことです。北朝鮮国民に罪はない。チマチョゴリを着た朝鮮人学校の生徒をヘイトスピーチなどで攻撃するのは間違っている。日本の若い人たちには、分別をわきまえて思考することを願います。

■参加した高校生の講演後の感想

  • ニュースの見出しだけで拉致問題を知った気になっている若者に向けて、大人たちはもっと積極的に説明をするべき。それは大人の責任。(高2)
  • 被害者・家族の心情を最優先に考えて行動することが、問題を解決に導く最も必要なことだと思った。(高1)
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