インタビューの前に、1年C組の理科を見学。この日は、グループでのワークショップ。授業開始と同時に先生から課題プリントが渡された。
「今日は“砂漠からの脱出”という課題をやってもらいます。みんなはある飛行機に乗り合わせた乗客です。ところが運悪くアメリカ南西部の砂漠に不時着してしまった。操縦士は死亡。無線連絡も不可。季節は7月、気温43度。最も近い街まで110キロ離れている。そんな状況です」
29名の生徒は、神妙な面持ちで聞いている。
「飛行機から脱出する際、何とか12の品物を持ち出すことができました。懐中電灯、地図、雨具、方位磁石、ピストル、パラシュート、塩、水、本、コート、鏡、お酒。どれを持っていけば、生き残る確率が高いか? 優先順位をつけてください」
まずは5分間、生徒はひとりで考える。質問をする人、静かに考える人、さまざまだ。先生がアドバイスをする。
「110キロ離れた街まで歩いていくか、それとも砂漠で救援を待つか。どちらが生き残る確率が高いか、よく考えてほしい。そこにヒントがあります」
6つの班に分かれての討議が始まった。どの班も活発に意見が飛び交っている。そして、結果を発表。全グループとも優先順位1番に挙げたのは水だった。砂漠では水がなくてはひからびてしまう、何より大事だとの理由だ。ところが…。
「実は、水は3番目なんです」
「えーっ!」。生徒から驚きの声が上がった。
「飛行機事故の統計によると、80%の確率で遭難後2時間以内に発見されています。ということは、気温40度以上の砂漠を歩いて移動するより、救援隊を待つほうが生き残る確率は高いわけです」
こう説明して、先生が板書した模範解答の1位は鏡だった。これは鏡の反射を利用して救援機に生存者がいることを知らせる目的だ。2位はコート。紫外線から肌を守り、夜は寒くなる砂漠の防寒対策としてである。 |
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グループワークで
問題解決能力を養う
ユニークな授業だが、こういう問題解決型の授業は、意図して行っているという。
「実は、私は中学時代、理科が好きではなかったんです。先生が教科書を読むだけの単調な授業で、退屈でした。その後、自分で勉強をして、徐々に好きになっていったのですが、その苦い経験があるので、今の生徒たちには、少しでも早い時期から理科に興味をもってもらいたい。そう考えて、いろいろ工夫をしているんです」
定期テストの前には、弱点強化ゼミという補習を行っている同校だが、そこで使う問題集も水野先生が自ら作っている。自分の授業に即したものをという狙いだ。
「もちろん教科書も大事ですが、そのままは使いたくないんです。生徒の興味関心を高めるためにアレンジしています。どんな教科でもそうですが、物事がわかればわかるほど、学ぼうという意欲も高まっていく。そういう授業をしたいと心がけています」
2020年の大学入試改革では、知識偏重ではなく、問題を解決していく応用力が何より問われる。そういう時代を見据えた授業とも言える。
「とはいえ、生徒にはまず、人として強くあってほしい。私も学生時代には海外へひとり旅をして、行く先々で現地の人に助けられた。そういう経験を次の世代につなげたいんです。私の姿を見て、将来は教師になりたいという生徒が出てきてくれると嬉しいですね」 |
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