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2016/3 塾ジャーナルより一部抜粋

教科書改訂の裏側を読み取る

  株式会社 総研コーポレーション 代表 岡田 雅  
     
 2015年が小学校教科書の改訂、2016年が中学校教科書の改訂と続いた。文部科学省の発表では新指導要領一部改定の骨子が3つ述べられている。中でも「道徳」を特別な教科としてあげており、その内容は他の教科よりも細部にわたっている。またグローバル化が叫ばれ、英語重視のわが国の方針だが、他国と比較していささか心もとない感じがぬぐえない。

日中韓
英語学習の比較から見る
わが国のグローバル化

 教材について思い出すことがある。6年も前のことなので状況は少し変わっているかもしれないが、日曜日の北京や上海の本屋で問題集などが並んでいる学習コーナーへ行くと、書架の間の通路は小・中学生とその親であふれていて、ゆっくり教材を見ることもできない。児童・生徒はそこで販売されている問題集や参考書を使って、床に体を投げ出し必死に勉強し、親が先生の代わりをしている。貧しい家庭に育った子どもたちは、十分な教育機会を与えられていないため、朝早く家を出て、開店前から場所を取るために並んでいる。塾や予備校に行く余裕がないことが大きな原因だろうが、彼らが求めている問題集は中質紙よりも劣る紙に擦れた文字が印刷されているものである。日本円にしてわずか80円程度のものだ。しかし、彼らにとってみれば何物にも替え難い貴重な教材である。

 中国の親子が書店の通路を占拠する原因は、もう1つ特殊な事情がある。教育用教材はすべて国立大学の出版局が制作販売をしているため、版権を含めた権益は国家が管理している。このため、商品を勝手に利用しても誰もとがめない。また、販売員も大抵は貧しい身分の出自であるため、むしろこうした努力を応援していることもあるのだろう。

 また、英語に関して言えば、中国の学習進度はわが国の進学校のそれにほぼ似ている。中2までに中学内容と過去完了などの時制をすべて終え、中学3年生で高校文法の大半を終える。高校に入るとreading, writing, listeningに分化した授業がなされる。しかも週当たり時間数が多いため、履修内容はほぼわが国の大学教養課程の英語に近い【表1参照】。本屋に行っても教材の種類の多さには驚かされる。コミック本に押されて学習コーナーが激減しているわが国の書店とは状況が違う。このため、高校卒業時点で比べれば、日本の生徒の英語力は大きく水をあけられている。むろんこれは、地方を含めた中国の子どもたち全員がこうした学習進度で学んでいるわけではない。エリートになるための大学進学を見据え、合格率の高い中学・高校への進学を考えている層の話である。

 一方、中国の豊かな所得層の子どもたちはエリート家庭教師を雇い、海外から直接購入した教材を使って日々の学習に励んでいる。私の友人で、現在、北京大学の客員教授をしている黄さんの子どもも、こうした恵まれた環境で学習し、現在はエール大学大学院に通っている。

 昨今、わが国ではグローバル化が叫ばれ、英語重視の方針が文部科学省から出されている【表2参照】。小学5・6年生の英語の教科化、小学低学年からの英語学習の導入が具体化しようとしているが、わが国の子どもたちがグローバル化の中で競い合うのは、間違いなく他国のエリートたちである。こうした現実を踏まえた上でのグローバル化であるのだろうが、いささか心もとない感じが拭えない。英語教材を見ていても、京都大学をはじめとして、旧態依然とした入試問題に固執しているため、中学高校の英語指導も十年一日の思いがする。

今回の新指導要領
一部改訂の骨子とは

 今回の教科書改訂は、平成26年11月20日付で文科省が発表した「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」に基づいている。この中で今回の新指導要領の一部改訂の骨子が3つ述べられている。

 1つ目は、「教育内容,学習・指導方法と学習評価の充実を一体的に進めていく」こと。PISAやTIMSSの結果が改善され、「確かな学力」が効果を上げたことを踏まえて、より一層の充実をバランスよく育てることを目指している。しかし、「判断力の根拠や理由を示しながら、自分の考えを述べることについての課題が指摘される」ことや、「自己肯定感や学習意欲、社会参加の意識等が国際的に見て低いことなど、子どもの自信を育み、能力を引き出すことは必ずしも十分にできていない」点を改善するために、「新たな教科・科目等の在り方や,既存の教科・科目等の目標・内容の見直し」を改訂の2つ目のポイントにしている。3点目は、「各学校におけるカリキュラム・マネジメントや、学習・指導方法および評価方法の改善」だ。これにより学校運営の評価・監督をより強固にする体制を築こうとしている。

 今回は教材に関する議論なので、改訂ポイントの1と2に絞って進めていきたい。2つの点の具体的な取り組みとして、基礎的な知識・技能を習得するだけでなく、実社会や実生活の中で活用するために主体的・協働的に学ぶ学習=アクティブ・ラーニングやそのための指導方法を充実させていく必要があると文科省は考えた。この観点から各教科書会社は、「『数学を活用する力』の重視」「言語力、表現力の重視」「思考力、判断力の充実」「活用する力を伸ばす」「ICTの活用と協働学習の場面を設置」などを教科書改訂の基本方針に挙げ、ホームページで自社の特色を競っている。

文科省が力を入れる「道徳」
教科に不安

 しかし、改訂骨子の一番大きな課題は「自己肯定感や学習意欲、社会参加の意識等」が低いことに置かれている。ちなみに文科省のホームページから、小学校・中学校の学習指導要領新旧対照表を見ていただければ一目瞭然であるが、最も改訂内容として紙数が割かれているのは「道徳」の項目である。これはOECDの学習意欲等の調査結果から、欧米や中国・韓国の児童生徒と比べた場合、将来への夢がない、学習への動機付けが薄い、自己肯定感が弱い、といった問題点が指摘されたからだ。

 この問題を解決するために、従来から推し進めてきた「道徳」の時間を使い、各学年の具体的な目標を「第3章特別な教科道徳」の中で掲げている。その内容は他教科には見られないほど細部にわたり徹底している。

 だが、「道徳」教育の時間を増やし、人間としてあるべき姿を教師が熱心に指導したら、「自己肯定感や学習意欲、社会参加の意識等」が本当に上がるのだろうか。

 【グラフ1】を見ていただきたい。文科省は1966年から小・中学生の問題行動意識調査を行っているが、その資料から小・中学校に通っていない人数を、1993年から7年ごとに抜き出したものである。

 不登校とは、年間30日以上学校を休んだ場合であるが、2014年度の場合、全小・中学生の人数は1012万736人で、不登校者数は12万2,902人で、全体の1.2%でしかないが、これは30日以内に1日でも登校した者は含まれていない。実際は5%近くになると考えられる。また、不登校数がほぼ同じ2004年度と比べてみると、2014年度は継続が6,000人減り、新規が6,000人増えている。継続とは前年度以前から続いていることを、新規とはその年に不登校になったことを示す。新規が増えている原因はまだ究明されていないが、いずれにせよ学校に行きたくない、学校に魅力を感じない児童生徒が新たに増えていることを示している。

 中学1年生で不登校生が増えるのは、いわゆる「中1ギャップ」と呼ばれるものである。小学校と中学校の環境の違いと、心身の成長期における適応不全が起こす問題で、1990年代後半から言われてきた。小学校では児童と教師がおおらかな関係を保っているが、中学校では校則に基づく生徒への拘束、先輩と後輩といった統制など、人間関係の圧力が高まるとともに、周囲からの受験圧力も高じて、蓄積されたストレスや鬱積する感情がいじめや暴力行為となって発散し、不登校を増やす原因となっているように思える。

極めて重要な自己肯定感
自己効力感の育成

 こうした状況を考えると、文科省がまずすべきことは国際比較の教科力が上がったにもかかわらず、なぜ、わが国の子どもたちの学習、および生活に対する肯定的意識が他国の児童生徒と比べて低いのか、学校への魅力が減少している原因がどこにあるのかを、自ら調査することではないのだろうか。内向きになっているのは子どもたちだけなのか、大人を含めた心理状態が“心のデフレ”になっていないだろうか。わが国が国際社会の中での立ち位置がこうした意識を反映していないのか。さらに言えば、子どもたちが夢を持てない国にした責任はどこにあるのかということまで議論していく必要があると考える。

 無論、文科省も小中一貫校の設立など努力はしているが、平成27年3月に国立教育政策研究所から生徒指導担当教諭に向けて「『中1ギャップ』の真実」というタイトルで、「『中1ギャップ』という語に明確な定義はなく、その前提となっている事実認識(いじめ・不登校の急増)も客観的事実とは言い切れない」とか「『中1ギャップ』に限らず、便利な用語を安易に用いることで思考を停止し、根拠を確認しないままの議論を進めたり広めたりしてはならない」と、わざわざ朱書きで生徒指導リーフを出していることが理解できない。

 確かに、自己肯定感・自己効力感の保持や自尊感情を育成向上することは、極めて重要な教育の要素である。今の子どもたちの様子を見ていると、こうした感情の育成が急がれることも事実である。ただ、教育の場だけでそうした感情が生み出されるわけではない。社会としての取り組みが必要だと言いたいのだ。

 教育への意識が高い国々はこうした感情の育成向上のために、「道徳」あるいはそれに類似した教科を組み込んでいるのか、組み込んでいるとすれば、どのような効果が得られたのか。あるいは教育という枠を越えて積極的に取り組んでいる国はないのか、あるとすればどのような効果が得られているのか。

 こうした調査結果や幅広い有識者の意見を踏まえて、学習指導要領を決定し、具体的な指導要綱を決めていくのが筋ではないのか。その上で、各教科書会社に指導内容を開示し、子どもたちが学びやすい教材作成を指示するのであれば、問題はないと考える。むしろ、指導要領改訂の方便として、自ら進みたい方向への道具として国際調査結果や国内の子どもの問題行動調査を利用しているように思えてならない。大学入試制度の変更など、日本の教育のガラパゴス化から脱出させる試みは始められているが、国際バカロレアカリキュラムなど世界標準をもっと意識して取り組んでほしい。

むしろ現代っ子がもつ
現実を一掃する教材が

 話は変わるが、ナチスの強制収容所での体験を描いた「夜と霧」の著者であるオーストリア出身の精神科医V・E・フランクルは、1960年代に行った講演の中で、「また今日の典型的な患者は、もはやアドラーの時代におけるように、劣等感にさほど悩んでいるのではなく、底知れない無意味感に悩んでおり、そしてこれは空虚感と結びあわされているので、私は実存的真空と呼んでいるのであります」と、“時代の空気”を語っている。

 フランクルはこの講演の中でさらに、「いずれにしても、教育 ―責任への教育― はかつて以上のものなのです。責任あるものであるとは、選択的であること」、自らが好き嫌いを選択できる社会や置かれた立場をいい、「ひとつのaffluent society(豊かな社会)に生活しており、マスメデイアによって『刺激物摂取過多』になりつつあり」、「全体的な混沌状態の中で滅びたくないならば、私たちは、何が根本的であり何がそうでないか、何が意味をもち何がもっていないか、何が責任応答の相手とされうるものであり何がそうでないかを、識別することを学ばなければなりません」と結んでいる。

 このフランクルの講演は50年ほど前に行われた。しかし、この内容を読んでいると現代の様相にも当てはめることができる。教育の根本は、人間としての存在基盤を手に入れるために、与えられた情報・状況を分析しそれをある方向にまとめる志向性、さまざまな苦悩を乗り切る耐性、そして、ひとつのことを追い求める飽くなき情熱の3つを育むための場を提供することにあると思う。

 この中で教材に直接関係しているのは、テーマに関する情報を与え、与えられた情報を加工して新たな状況を創ることで、子どもたちに思考経路を提供することだ。

 教材は、与えられる児童・生徒のレベル、集団か個別かといった指導体制、予習か復習といった指導内容等によって大きく異なる。したがって、一概に教材の良し悪しを決めることはできない。

 それより、むしろ現代っ子が一番不足しているのは、先ほど述べたうちの「耐性」ではないだろうか。一口飲んでまずいと言って飲み物を捨てる、下に落ちた消しゴムを他の子に踏まれると汚いからもういらないといってそのままにする、問題を解いていて壁にぶつかると「わからない」といって思考を停止し、それ以降何もしようとしない。こうした行動は自分が思うようにいかない現実にぶつかると、それを無視する、あるいはもともとからそれがそこになかったかのようにして済ます行動様式である。

 とにかくその場で耐え、目の前の壁を乗り越える努力をしようとはしない今の子どもたちの現実が一掃される教材が出てくればいいのだが、それは夢のまた夢なのだろうか。そして、それを行うのは「道徳」の教科書なのだろうか。苦悩の意味を見つけることが、生きがいの発見になることをどのように伝えていくことができるのだろうか。

岡田 雅氏プロフィール 1949年生まれ。大学卒業後、広告代理店、駸々堂出版、ワオ・コーポレーションを経て独立。塾経営の傍ら出版業に進出し、現在私立中学高校・大手塾用テスト・テキストの企画制作、英語国語音声教材の開発、e-ラーニングのコンテンツ制作を手掛けている。また、西大和学園で英語の講師も務める。

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