福岡県初の単位制・通信制課程
単独の高等学校として県が認可
福岡県から認可を受け、今年4月から狭域単位制・通信制高校として新たに開校したつくば開成福岡高等学校。平成18年、つくば開成高等学校の学習センターとして都心の天神駅近くに開設されたが、様々な事情で全日制に通学できない生徒から通信制高校が注目されてきたことと、福岡県内には単位制・通信制課程単独の高校はなかったことなどから、福岡市内では29年ぶりに私立の新設高校として認可された。
「日本に通信制高校が創設された当時は、勤労青少年の勉学を目的としていた。しかし今の時代は、不登校などの悩みを持つ生徒、留学・スポーツ・芸術に特化したい生徒など、個々の要望に対応できる学校として通信制高校が求められているのです」
松永健一校長は、学びに最も大切なのは心を整えることだと語る。悩みや苦手意識で傷ついた生徒たちの心は、自分自身では整理できず、落ち着かない状況に陥っている。できることと、できないこと。やりたいこととやらなければならないこと。教師と話し合いながら、自分と向き合い、一つずつ考えていくことで、生徒たちは今の自分が見えてくる。
まずは「できないこと」ではなく、「できること」に着目し、教師や周りに「認められる」ことで、自尊感情が低く、自信を失くした生徒たちが前向きになるきっかけを作る。それから、教師とのたくさんの話し込みと、仲間との時間を通して構築された信頼関係をもとに、良質な情報と、様々なことを体験する機会を提供し、将来の進路に結び付けていく。
「生徒たちは心が傷つくほどたくさんのピンチに出会ったかも知れません。しかし、そのピンチがあったからこそ、今の先生や先輩たちと出会えました。そしてそこからチャンスを作ることもできるのです」(松永校長)
自分がやりたいと願い、決めたことを実行し、目標を達成することは簡単ではなく、失敗や挫折もあるだろう。しかし、つまずいたとしても、そこでだめになるわけではない。大切なのは途中で投げ出さず、なぜミスをしたのかを考え、次につなぐことである。
教室には「自針、熱中、徳積」と書かれた額が掲げられている。目指す道を進んでいくために必要なものが、信念を持ち、思いがけないことがあってもぶれずに自らを導く「自針」であると校長は言う。そしてこれこそが社会に出ても必要とされる学びへの姿勢なのだ。
個々の状況に合わせ
生徒たちの背中を押す教育を
つくば開成福岡高等学校では4つの学びの形を用意している。進学を目指す生徒や積極的に学習に取り組みたい生徒には週5日程度登校する特進。このクラスはT・Uに分かれ、Uに比べてTは学習内容が多く設定されている。特進の生徒はまずUで学習姿勢を作り、Tへステップアップする生徒が多い。キャリアデザインではやりたいことと学習をバランス良くこなせる週3日程度の登校が基本。この他、15名程度の集団でスクーリングやレポート学習を行う本科集団と、集団授業に入りづらい・特定科目に集中したい生徒に向け、4〜5名程度の個別指導を行う本科個別(ともに週1回登校)がある。各クラスからのステップアップは可能で、最終的には週5回の特進Tを目指し、細やかな指導を行っている。
特進とキャリアデザインのクラスでは6つの系統別学習も導入されている。語学系・情報系・デザイン創作系・心理系・理科系・社会学系などの学習を通して自分の興味や関心のある分野を見つけ、伸ばしていこうというもの。
大学進学へは90%超の生徒が希望しており、これまでに福岡大、早稲田大、明治大、同志社大、立命館大、西南学院大などへ多数進学している。
学力定着・向上については、基礎学習から大学受験まで対応したネット学習のeラーニングも活用。さらに、技能実習・職業体験・企業見学・技術講師を招いての講座なども幅広く行い、知識を得ると同時に、社会で技術サービス提供をしてくれる相手に対する感謝の念も育む。
「入学生は新入生もいますが、色々な理由で全日制に通うことができなくなった転入生が多いですね。彼らの多くが心に傷を負っています。最初は後ろから背中をそっと押してあげるつもりで私たちは接します。先生と信頼関係ができ、だんだん元気になり、笑顔を見せてくれ、やる気を出してきて初めて前に回り、手を差し出すようにしています」
このように、生徒自身が自分の抱える問題点に気づき、答えを引き出すことができるような指導が重要となるが、同校ではそのために教員の『質問力』のアップに力を注いでいる。良い質問で生徒に考えさせ、ゆっくり時間をかけて問題を解消させ、晴れ晴れとした気持ちで卒業を迎えさせる。これが『少子化の中、一人の落ちこぼれも作ってはいけない』という松永校長のモットーに基づいた教育方針である。
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広く開放感溢れる校舎で
のびのびとしたゆとりを
改装されたばかりの2150平方メートルの校舎内は、光をふんだんに取り入れた明るいエントランスをはじめ、廊下や階段などにも広々とした空間づくりがされている。これは狭い場所で他者と触れ合うことが苦手な生徒でも、ゆったりと落ち着いた気持ちで学習ができるようにとの配慮だ。また、クラスの人数に見合う大小の教室や、臨床心理士が常駐するカウンセリングルームがあり、生徒の心に寄り添うきめ細やかな対応を可能にしている。各種検定にチャレンジする生徒も多く、そのためのパソコン室や、映像授業もできる視聴覚室などの設備も充実している。
また、卒業後にも、色々な話や悩みを打ち明けられる場所としていつでも母校を活用してほしい、と松永校長は語る。
「つくば開成福岡高等学校は生徒たちの実家。何かあれば戻って来れる場所として生徒たちに広く開放していきたいですね。訪問してくれた卒業生の話はホームページに掲載して、現在の彼らの様子を伝えています。山もあり、谷もありながら人生は続いていきます。卒業は一つのゴールではありますが、通過点にすぎません。先輩たちが次のステージでがんばっている姿を在校生にも見てほしい」
高校時代は与えられるばかりの子どもの時代から、他者へ何かを自ら与えることのできる大人へと成長するとき。
同校の学校案内の表紙には穴のあいたデザインがされており、そこから中のおにぎりの写真が見えるようになっている。表紙を開くと、そこにあるのは三角ではなく、実はハートの形のおにぎり。『ココロを満たす』ことができるおにぎりを、つくば開成福岡高等学校は今後も生徒たちに与え続けていく。
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