大学実績は
入学実績にはつながらない
── 入試が好調です。
河合 中高ともに「質と量」の両面において伸びました。この2年ぐらいで受験者層が大きく変わりましたね。偏差値78の開成や76の筑波、74の日比谷の併願校として来るようになりましたから。中学のほうも偏差値64の小石川や61の両国などからも併願で大勢受験してきています。
── レベルがかなり上がりました。
河合 下の層を切っているわけではないのですが、いきなり上がりました。市場では本校の偏差値を58〜62と出してくるんですが、実はそれは最低のラインになっています。生徒数が多いから平均偏差値が悪くて。しかし上位層は10クラスのうち3クラスは、偏差値が70前後の生徒たちが受けています。
── 数字では図れない。
河合 今の受験市場はどういうリアクションが起きるのかというと、新しい試みに対して、新しい層がどっとネット上の情報で動く時代になりました。これがインターネット時代の怖さでもあるし、おもしろさでもあります。経営戦略上にそこをきちっと魅力ある情報を載せていけるかどうかという時代になってきているのです。
── 次々にHPなんかは更新しないといけません。
河合 それはそうです。「去年と変わりません」では、必ず2割から6割の生徒が減りますよ。
── それほど減りますか。
河合 動きを止めた学校は数年で元の木阿弥ですよ(笑)。それは人気がなくなったというわけではなくて、新しい生徒募集のツールを失ったからです。他校の例を見ると、良い教育はしています。進学実績も結構良いですし、早稲田なんかにも合格しています。今は進学実績と入学実績とは結びつかなくなりましたね。グローバル化された競争力の時代に、相変わらず大手予備校を中心として、東大何名、早稲田何名なんてことを競い合っているだけの閉鎖社会の中では、次の時代は担えないです。
── 教員研修もしっかりとされている。
河合 全員で「授業力アップ研修」や「震災研修」を実地研修として展開しています。幹部研修では「マーケティング理論研修」を、新任研修では「カウンセリングマインド・ティーチングマインドでの授業実践講座」などを精力的にやっています。生徒を変えるにはまず教員から変わらなければならないのです。
── 教員は変わりましたか。
河合 現場からの新しい発想をどんどん受け入れていますから、それが後述の国際教養コースやスーパーイングリッシュコースの立ち上げです。自分たちで新しい学校づくりをしているという感覚が教員にあるから、指示待ち世代ではないわけです。
── やはり学内改革は重要と。
河合 内部改革をやっていかないと、入試改革をいくらやったところで、誰もついてはきません。生徒募集に失敗している学校さんは、それを連動していない。入試担当の先生に生徒を集めてきなさいって言われたって、魅力ある学内改革がなければ来るわけがない。コンビニだって、いつ行っても自分に必要なお惣菜が揃っていますよ。時間との勝負で、朝から晩まで同じ陳列品があるところは誰も来ないです。
高校に国際教養コースを設置
超難関国公立を目指す
── 今年度はすでに新しい取り組みを発表されました。
河合 入試科目を「英・国・社」として、高校に国際教養コースを設置します。純粋に文系に絞ったコースで、目指す大学名も明確に打ち出しました。東京外国語大学・国際教養大学・国際基督教大学など、難関国公立大学がメインですが、海外の大学も視野に入れたコースです。
うちは理系には強いのですが、文系がちょっと弱かった。合格した東大も京大も東工大もみんな理系でしたから。
── どういうコースでしょう。
河合 グローバル社会と言われる現代です。そうした世界で活躍できる人材を育てることに特化したコースです。知識注入型の「ナショナル・カリキュラム」から脱却し「世界標準カリキュラム(IB的要素を兼ね備えた国際カリキュラム)に沿って進めます。子どもたちの倫理的思考力とプレゼンテーション能力を高める教育も実践していきます。
── 入試のレベルは高そうです。
河合 英検準2級以上の取得者でないと、受験資格がありません。偏差値的には69から74あたりかな。カリキュラムは多様性のある独自カリキュラムで、外国語・地歴公民・国語に関する授業を多く設定しています。例えば、社会では「現代世界概論」、国語では「日本文化概論」、外国語では「異文化理解」などです。また、漢検や数検よりも、世界遺産検定なんかも取り入れグローバルな視点での学力を養います。
── 卒業後の生徒像は。
河合 ただ、頭が良いだけではなくて、柔軟性をもって自分の脳を多国籍化できる人材です。次の21世紀の人材・ビルゲイツを作っていきますよ。
中学校にスーパーアドバンス
イングリッシュコースを開設
英語の特別枠入試も
── 中学でも思い切った取り組みを
河合 来年度からスーパーアドバンスイングリッシュコースを開設し、オールイングリッシュのイマージョン授業を展開していきます。高校では10年前からイマージョン教育を実施していますので、3年後には中高とドッキングさせて、最終的にはインターナショナルIB・DPコースになるというシミュレーション済みです。さらに中学では受験科目の一つとして英語の特別枠入試も来年度から実施します。
── どういう入試問題になりますか。
河合 筆記とリスニングですが、英検5級から3級レベルを想定しています。もちろん、準2級、2級レベルが来ても対応します。入学後は全体を中3で英検準2級、高3で英検準1級を合格できる力をつけさせます。そのため、現在講師のネイティブが6人いますが、今年、専任のネイティブを7月から2名採用します。校内に英語ゾーンを作り、日本語禁止区域にします。セブ島留学も立ち上げます。
── 思い切られました。
河合 すべて総合政策ですよ。逐次投入主義は失敗するだけです。他校さんは経営的に中高6年間で安定しようと中学入試にシフトして、出口改革を後回しにしてしまった。ですから、東京私学は8割が中学入試です。大手予備校も中学入試の学校に力を入れて、私学を育ててきました。そうすると中学入試で偏差値が高くならないと、一流校ではないとレッテルを貼られてきたわけです。でも、私は異端児だから、高校入試と高校の出口改革を先行しました。日比谷と競合できる私学を狙いました。
── 独自のやり方ですね。
河合 極端な発想で言うと、先の英語特別枠入試で英検3級を持っている生徒や準2級を持っている生徒、またABCから入る生徒が中1で入学してきたら、同一クラスでの授業は難しい。3級の子は準2級を狙いたいし、そういう授業を受けたいと思いますよ。それじゃどのクラスに入れるかです。中3に3級レベルの子が20人いれば、そこに10人入れてやれば授業は成立するでしょう。ということは中1から中3まで、英検3級授業は、学年を取り払って設定する時代が来るってことです。
── 飛び級ですね。
河合 そういうことをやらないと、魅力ある学校は作れません。
時代に迎合した学校を
作ろうとは思わない
── 校長の言う魅力ある学校とは
河合 本校は1200年の伝統校です。温故の部分と知新の部分で、今知新を強めています。ようするに伝統や建学の精神へ回帰するために活性化しているのであって、単に突っ走って時代に迎合する学校を作ろうとは思っていない。ですから、比叡山研修や日光山研修も夜間30km回峰行も入れます。日本の学校としてのアイデンティティはきちっと持ち続けています。
── でも、やっていることは最先端。
河合 ICT授業も含め、知新の部分では先端の技術を導入しています。どこにも負けない新しいものを入れていきますが、でもそれは、それを吸収する伝統文化があるからできるのです。
── 駒込ならではの情操教育もされています。
河合 先述の比叡山研修などの他に、毎週、朝礼でやっているのは「坐禅・止観・定恵」です。坐禅をすることで、自分は今日一日どのように過ごすか。和顔愛語(柔かな顔・笑顔の言葉)の1日を送れるかということを静かに見通しなさいと、わずか15分ですが、やらせています。こういうことを常にしていますので、比叡山研修では指尊僧より、「駒込さんに来てもらうと我々が勉強になります」とおっしゃいますね。
── それは生徒さんを見られてですね。
河合 はい。だからそういう意味ではうちの子どもたちは開成、麻布じゃなくて、駒込に来た生徒ですよ。これをオリジナリティっていうんでしょうね。これからの時代はオリジナルワンの時代です。それを人格・個性のブランド化という形で証明するわけです。個性をブランド化できる学校が駒込です。本校では般若心経の心がグローバルマインドです。 |