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中学・高校受験:学びネット

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2014/11 塾ジャーナルより一部抜粋

大学が果たす役割 ― 望まれる大学とは ―
時代の要請と教育の在り方に 今こそ向き合うべき

  株式会社総研コーポレーション 代表 岡田 雅  
     

合否の結果を決めるのは
現状の学力を示す偏差値ではない

 先日、大阪の大手書店に行った。「大学合格超逆転勉強法」と称して、坪田信貴氏の「学年でビリだったギャルが、1年で偏差値を40あげて日本でトップの私立大学、慶應大学に現役で合格した話」や角川SSC新書から出版されている「偏差値29の私が東大に合格した超独学勉強法」など、さまざまな“大学合格How toシリーズ”が、雛壇に鎮座していた。こうしたキャンペーンが行えるほど、大学受験が身近になったと言えるのだろうが、ここに出てくる偏差値とは、ある母集団の平均値を50とし、最上位と最下位を各7%、中上位と中下位を各14%、中間値を38%に分布するように並べたものである。偏差値が75だからといって、すべての母集団を包含しているわけではないので、ある母集団では優秀であっても、それが日本全体の順位を表すことにはならない。【図1】に示せば、グループAにも偏差値75の生徒は存在するし、グループCにも偏差値30の生徒はいる。合否の結果に結びつくのは、現状の学力を示す偏差値にあるのではない。普段の学習習慣を見直し、目標を決め、それにひたむきに努力する精神力を涵養することが、慶応や東大に合格する「超逆転勉強法」なのだろう。

大学が役割を果たすための
ガバナンス改革が必要

 しかし、問題なのは、努力して合格した生徒たちを待ち受ける現在の大学の在り方だ。2012年末に、@大胆な金融政策、A機動的な財政政策、B民間投資を喚起する成長戦略、の「3本の矢」を掲げて、デフレ・円高からの脱却と雇用・所得の拡大を目指すことを標榜する第2次安倍政権が発足した。こうした目的を達成するために、大学をはじめとする高等教育の改革も加速度的に進められている。その骨子は2点。1つは行財政改革と公務員減らしから出発した国立大学の法人化。2003年7月に国立大学法人法が成立し、翌年4月から各地の国立大学を法人に移行した。従来の自治・自立的な運営体から、マネジメント手法を導入した経営体に大学を変革するものだ。もう1点は、産業競争力強化のための「人財育成」。昨年3月15日に下村文部科学大臣が産業競争力会議に提出した資料によると、「人材力強化のための教育戦略〜日本人としてのアイデンティティを持ちつつ、高付加価値を創造し、国内外で活躍・貢献できる人材の育成に向けて」と題するレポートで、「とるべき成長戦略と大学の役割」は、「個人の可能性が最大限発揮されるよう、一人ひとりの人材力を強化」とあり、具体的には「日本の経済再生や活力維持のため、経済活動や研究機関をさまざまな側面から支える人材」の育成を謳っている。

 また、4月23日には「大胆なグローバル化、システム改革等を通じて、国内外の優秀な人材を結集」し「国立大学の潜在力を最大限に引き出し、産業競争力を実現」するための「国立大学改革プランの策定」をして、新たな評価指標に基づいて大学を算定し、「2016年以降は運営費交付金の在り方を抜本的に見直しする」と言及している。

 安倍政権の狙いは、わが国の経済再生には、モノ作り技術者の育成と世界基準で戦える人材養成が不可欠だという点にある。製造業の輸出量を増大させなければならないわが国の産業構造を踏まえた成長戦略を実現するためには、投資効果が最も高い教育に注力しなければならない。結果の平等主義から脱却し、トップ(これは学生だけでなく、大学自身も含めたトップ)を伸ばす戦略的人材育成が、喫緊の最重要課題であるということ。ここから、英語教育、理数教育、ICT教育を中心とした『グローバル人材育成』と『イノベーション人材養成』が生まれてくる。これを実現するために、国立大学の役割を明確にした上で、役割を果たすためのガバナンス改革が必要で、成果主義を導入し、結果を出した大学には十分な資金的補償を与えるという構造を考えている。「日本再興戦略―JAPAN is BACK」は、これを表象するキャッチコピーだ。

海外での教育制度に
学ぶべきもの

 こうした観点は、持たざる国の宿命とも考えられるので、海外に目を向けてみよう。まずは経済基盤強化のためのグローバル人材養成の面から考えれば、シンガポールが挙げられる。日本の面積の500分の1程度の小さな国ではあるが、一人当たり購買力平価は2013年で64,584US$もある。ちなみに日本はデフレ基調のこともあって36,899US$しかない。シンガポールの教育で欠かせないのが「能力別教育制度」だ。小学校4年終了時に言語に関するテストがあり、早くもここでレベル別に3コースに分かれる。その後、小5あるいは小6でPSLEという初等教育終了試験を受け、中等教育へのコースが分かれる。さらに中学卒業時にGCE(イギリスの中等教育最終国家試験)Nレベルを受験し、専門学校系に進学するか高等教育に進学するかが問われ、大学に入るにもGCE−Aレベルで一定の得点を習得しなければならない。

 「能力別教育制度」である以上、シンガポールでは小学校から留年がある。以前、オランダ教育省の方と話をする機会があったが、そのとき「なぜ日本は基礎力が定着していない生徒でも、そのまま進級させるのか」という質問を受けた。「まだ当該学年の学力が十分身についていない生徒を進級させれば、その子は学業において苦しむだけでなく、学ぶ喜びを知らないまま人格形成期を終わるのではないか。それはある意味、国家による人権侵害である」とまで言っておられた。

 こうしたヨーロッパ型の能力別教育制度は、わが国には理解されにくい面もあるだろうが、トップを伸ばす戦略的人材育成が、喫緊の最重要課題であるとして本気で教育問題に取り組むなら、小学校からの留年制度を導入しなければならない。無論負け組が永久に葬り去られる制度ではなく、しっかりとした敗者復活システムを確立して置く。シンガポールでもさまざまな迂回路が用意されていて、同年齢約25%が3つの国立大学に進学する。最近は、わが国の中高一貫校に当たる総合教育学校ができ、コースのバリエーションが増えただけでなく、シンガポール大学附属数理高校に至っては、超人気進学校になっている。

 こうした教育制度の中でも、イギリス植民地時代からの伝統で英語教育は特に盛んで、アジア圏のTOEFL iBTの受験者平均点を見ても、その成果は【表1】のように十二分に出ている。

 ちなみに、世界トップテン大学のTOEFL iBTによる入学基準は【表2】のようになっている。この英語検定試験の成績が高止まりを続けているため、シンガポールの大学を卒業した後、アメリカやイギリスなどの主要大学に進む生徒が多く、卒業後も留学先の政府高官になったり、多国籍企業に就職したりして、本国と主要国とのパイプ役を担っている若者が多い。こうしたモノ作りだけではない高付加価値サービス業(これこそ人財だと考える)も、教育システムが生み出す政治的経済的効果に他ならない。

国立大学法人化の
財務内容は
格差社会そのもの

 もう一度、わが国の国立大学の現状に戻って、今度は大学の財政基盤を見てみよう。先ほど成果主義の問題を取り上げたが、動き始めた国立大学法人化の財務内容は、格差社会そのものである。法人化に際して、土地・建物・設備・施設などは当該法人に現物無償提供されたのであるが、それが各法人の基礎体力の格差を生むことになった。例えば、東京大学、京都大学など上位10校が基礎資産総額の45.6%を占めている。このため、資産総額が10億円に満たない大学がいくつも出現した。2004年に各大学に配分された初年度運営費交付金も、上位10大学が総額の43.2%を獲得し、他の73大学が残りを分け合うことになった。出発時点から大学法人の二極化が形成されたのである。

 しかし、問題はそれに留まらない。財務省は運営交付金に対して、毎年度1%の効率化係数、すなわち減額措置を課すというルール変更を実務レベルで決定した。たかが1%と思われるだろうが、2012年度でその総額は992億円に達する。それは、中規模地方大学10数校が消滅する額だ。しかも、5%の人件費削減が義務付けられ、その遂行状況を毎年チェックすることで、次年度の交付金額が決まるシステムになっている。これはどこか、大手上場企業には法人税減税を制度化し、中小零細からは一般国民と同様にあくまでも絞り取るシステムに似ていないだろうか。こうして中小零細規模の地方大学は、大学院の維持ができず、授業科目が減り、優秀な指導者は他大学に引き抜かれ、非常勤講師の大量解雇により壊滅状態にある。

 さらに、運営交付金方式は「生ぬるい」として、法人大学経費の競争的資金化が、2007年2月の経済財政諮問会議で検討された。教員や学生数を基礎要件とする運営交付金方式を、外部資金の獲得状況に応じて配分する方式への転換である。これは教育再生会議でも検討され、2009年度の「骨太方針」に組み込まれた。競争的資金化によって運営交付金が増える法人は13校で全体の15%。逆に減少するところは74法人で、うち50%以上も減額される大学が50校で全体の57%にあたる。こうした巨大津波を被る典型的な大学が、地方の教員養成単科大学である。2013年度に「世界水準の優れた研究活動を行う大学群の増強を図る」ことを目的に新設された「研究大学教科促進費」(年額6,400万円)は、科学研究費などの競争的資金の獲得状況や国際的な研究成果創出状況、さらに産学連携の推進状況を査定して配分されることになっている。

法科大学院のランク付けと
補助金のランク付け

 同じことが今年の9月19日に文科省から発表された、法科大学院のランク付けだ。司法試験の合格率や入学定員の充足率など5つの指標を点数化して、補助金のランクを5段階に分けた。対象は募集を中止した20校と補助金を受けていない2校を除く52校で、最上位は東大・京大など9つの国立大学と慶応・早稲田など5つの私立大学が該当した。これらの学校には従来支給されていた補助金の90%が基礎額として支払われる。最下位の学校はすべて私立大学で、そこへは従来の補助金の50%しか支払われない。

 無論、ただ減らすだけではなく、ランクに応じた教育内容を充実させて、その効果が見られれば支払われる加算額というものが用意されている。その中にも、「企業や自治体と連携した就職支援」という項目がある。これも、産学協働システムの一環だ。しかし、大学側が相当な企業努力をしない限り加算されることは少ないと思う。分不相応な者は、市場からの退出を余儀なくされる構造である。

官民協働海外留学
支援制度が始動

 産学協働といえば、今夏「飛び立て留学Japan!」の一期生が日本から飛び立った。2014年4月26日に締め切られた時点では、221校1,700人の大学生が応募し、その内訳は【表3】のとおりである。5月に一次審査の書面審査があり、6月に面接審査、同月下旬に採否結果が通知され、8月上旬の事前研修を経て、8月21日に留学先に向けて323人が飛び立った。第二期生の募集要項は、この9月から文科省のホームページに出ている。このプロジェクトの正式名称は「官民協働海外留学支援制度〜トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム〜」と言う。文部科学省、独立行政法人日本学生支援機構及び民間企業との協働で生まれた新たな海外留学支援制度である。

 このプログラムの資金は大手企業に文部科学省が直接支援要請をして、9月2日現在で92団体12億2,000万円の寄付を集めている。文部科学省自身が積極的に産業界とタイアップするとともに、成果主義のもとで結果を出す努力をしている。こうした留学への積極的な働きかけは、先ほどから述べている「グローバル人材育成」の一環であると同時に、このプログラムがインターンシップと連動していることからも、優秀な人材発掘と育成が、そのまま実戦力を持った企業戦士の養成機関になっていることも見逃すことはできない。

大学改革に対する
一貫した文科省の立ち位置

 以上、見てきたように、現状の大学改革に対する文科省の立ち位置は首尾一貫している。従来の自治・自立的な運営体から、マネジメント手法を導入した経営体への変革と、産業競争力強化のための「人財育成」を図る機関への変身、の2点だ。金融や経済事情が政治に先行する21世紀グローバル構造の中で、持たざる国としてどのような生き残りを賭けていくかを人材育成の観点から支援するとともに、成果主義の手法をもって静かに真綿(?)で締め上げる方式を執っている。この方針は時代の要請から考えれば無理なからんところもあるが、以下の点で再考の余地があるのではないだろうか。

(1)基礎研究への評価

 成果主義は結論が早く出せる分野に“選択と集中”が集まる。しかし、長期的な取り組みからしか産み出せない分野での息の長い研究や人材の指導育成が疎かになり、これが国益を損なうことがある。

(2)小学校から高等教育までのトータルコーディネイト

 シンガポールの例で見たように、アジア各国の英語教育は極めて進んでいる。わが国ではいまだに、早期英語教育は、母国語の発達を阻害すると言う教育者が少なからずいる。アジアのどの国でそのような現象があったのだろう。バイリンガルになることのメリットのほうが大きいと思うし、世界トップ100校に日本の大学を30校以上入れるよりも、世界トップ30校に優秀な生徒を100人送り込むほうがよほど早いと思う。そのためにも現状の小・中・高等学校の英語教育を再考することを検討してほしい。これは英語教育だけに言えることではないが。

(3)私立大学への取り組み

 文科省は財源が縮小している現状で、多大な補助金制度は維持できないという観点から、大学法人化を進め現在の形態に至っている。2012年の文科省白書によると、学校数では79%(958/1,212)、学生数では74.4%(225万人/302万人)、教員数では59.1%(11万人/19万人)の私立大学関係者がいる。私学助成金は2008年度をピークに年々減少し、2013年度は3,175億1,500万円で、私大経常経費に占める割合は10.7%にあたる。また、2012年度は私大の45.8%が定員割れを起こし、収支が赤字の大学は39%にまでなっている。こうした状況は私大側の放漫経営に起因する面もあるが、高等教育を履修する意欲のある学生が“学びの場”を失うことへの対策も考えていかなければならない。

(4)体の良い失業対策になっていないか

 仮に私大が40%閉鎖に追い込まれ、地方国立大学が再編統合により定員を20%減らしたとすると、約120万人の学生が社会的身分を失う。現状では職を探しているわけではないので失業者とはならないが、実質的無職・無収入者だ。これに専門学校の生徒を加えればおよそ150万人の若者が毎年社会の基本的構造を圧迫していくことになる。

 現状でも、大学入学から卒業までの4年間で12.6%(2010年統計)の学生が、不登校の末中退をしている。専門学校も含めると約11万人になり、1日300人以上の数に及ぶ。2014年7月時点での完全失業者は248万人だ。これに150万人を加えると、完全失業者は現状の3.8%から6.1%にまで跳ね上がる。アメリカを笑っていられない状況になるのだ。大学や高等専門学校の位置付けは、確固とした失業対策にもなっているのである。

 以上、現状の国立大学改革とその底に流れる産学協働体制を述べるとともに、大学改革への取り組みの方向性を考察してきた。グローバル化とは国家間の連合・対立ではなく、国境を越えてヒト・モノ・カネ・情報が国際的に流動化する現象だ。この中では必ず二極分化が生まれる。それは貧富の格差という経済面だけでなく、智の偏在という教育・文化面でも生じる。しかしそれは、『教育』の本来あるべき姿とは大きく様相を変化させることになるだろう。時代の要請と教育の在り方に、今こそ真剣に向き合わなければならない。

岡田 雅氏プロフィール
1949年生まれ。父親の仕事の関係で愛知・東京・静岡・愛知と小・中・高校時代を転地する。京都の大学を卒業後、広告代理店に入社したのち、駸々堂出版、ワオ・コーポレーションを経て独立。現在大手塾向けテキスト・e-ラーニング教材、英語・国語の音声教材、小学生用オリジナル教材の企画・制作・販売を主に行う。

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