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2013/1 塾ジャーナルより一部抜粋

特集 達人たちの座談会
正攻法で成功せよ! 熟練した教育者が語る 真の塾人とは

     
 塾人として生きることにこだわり、真の教育を求める道を貫いてきた3人の塾長(いずれも開塾30年以上)、神戸市・久保田学園の久保田勤氏、京都市・育星舎の入江篤志氏、和歌山市・喜望ゼミナールの鈴木勝氏は、人生の約半分の年月を教育に打ち込んできた、言うなれば塾の「達人」である。その3人が集う今回の座談会では、新しい指導・募集方法が塾業界にあふれる中、あくまでも「正攻法」で指導を続け、信頼を勝ち得るにはどうすればいいのか、ということを中心に語っていただいた。また、京田辺市の大住学園の吉川博史氏が司会として、学習塾コンサルタントの若手ホープのJコネクション小林明広氏がオブザーバーとして招かれ、京都の五摂家筆頭近衛家ゆかりの京料亭『京四季』にて、塾業界の歩いて来た道とこれから進む道を熱く議論した。

出席者:
久保田グループ 代表 久保田 勤 氏(神戸市 10教室・生徒数約1,800人)
育星舎グループ 代表 入江 篤志 氏(京都市 5学舎・生徒数約500人)
喜望ゼミナール 代表 鈴木 勝 氏(和歌山市 2教室・生徒数約1,080人)

司会: 大住学園 学園長 吉川 博史 氏(京田辺市)
オブザーバー: Jコネクション 小林 明広 氏

成績・業務ランク表示や
チーム制で切磋琢磨
新入社員の成長が早いです
(鈴木)

吉川 今日は年齢合計181歳の3人の先生に集まっていただき、現在、最前線で活躍中の若い講師や塾長たちの参考や、また学習塾の今後の発展のためになるお話を伺いたいと思います。まず最初に、先生方の塾に関してですが、創業者として皆様は当初の個人塾を中堅規模まで大きくされてきた方々です。特に奇抜な指導法を取り入れることなく、正攻法と呼ばれる指導をし、成長されたと聞いております。しかし、その行程の中でやはり特筆すべきこともあったのではないでしょうか。その辺りからお話しいただければと思いますが。では、久保田先生から。

久保田 やはり震災の時のことですね。未曾有の災害と言われた阪神大震災が起きたのはちょうど18年前の1995年でした。当塾は神戸市の中心部にあり、校舎1つの全壊を含めた教室施設の損壊、ライフラインの寸断など、大変な被害を受け、専任講師を3人抱えた状態で、今後について、大きな決断を迫られました。開塾以来、その当時まで、私は教務しか考えていない塾長だったため、壊滅的状態から回復する見当もつかず、廃業も頭をかすめました。しかし、生徒や保護者、専任講師、学生の非常勤講師たちに背中を押され、塾を継続することを決意したのです。その経験から教務同様、経営も重視するようになり、縁あって参加した塾業界の勉強会でも多くのことを学んで、現在のある程度の躍進につながったと思っています。

吉川 大変な経験を経たからこその発展ということですね。では、鈴木先生はいかがですか。

鈴木 36年前の創立から9年目に第2教場、12年目にさらに第3教場と増やしたのですが、私が直接指導する教室以外、順調とは言えませんでした。そこで平成2年に1教場に絞り、和歌山市内全域から通塾できる・通塾したいと思われる塾を目指しました。同時に社員の総合レベルも相当のアップとなるようテコ入れして、3年前に再び第2教場を開設。現在は2教場、55の小学校と21の中学校から1,000人以上の塾生が通っております。

吉川 教室展開の失敗を成功への転機にされたのですね。では入江先生、6部門体制で育星舎グループとして京都市に展開されておられますが、他塾と比較しても決して安価ではない費用設定にもかかわらず、非常に広い範囲からの通塾生がいるとお伺いしましたが。

入江 特に私が直接担当している中学受験教育の「入江塾」ですね。今は小6・小5は満席、岐阜・滋賀・奈良からの通塾生もいます。これは、例えば腕の良い医師や一流の味を出す京の割烹料理屋と同じ、高級で多少遠くとも、その分野のスペシャリストであれば、通う人はいるのです。ただし、そのスペシャリストは、相手の心に響く感性もともに持っていなければなりません。学習塾もそうです。近くの大手塾より、遠距離でも私どもの塾に元気に通塾してくる子がいるのがその証拠でしょう。他部門の理科実験教室「科学の学校」は1クラス4名限定、単独の教場も用意しています。またそのロボット科「ロボサイエンス」では、国際大会代表に選ばれたチームが活躍しています。生徒集めの安売りをしていません。授業料は本物を提供しているための対価であり、保護者にも納得していただいております。他方、ご相談をいただければ、教育者としてその点は配慮いたしております。

吉川 いま入江先生からスペシャリストの指導というお話が出ましたが、皆様の塾にもそれぞれ複数の講師がおられると思います。その講師がスペシャリストになるまで、指導はどのようにされているのでしょうか。

鈴木 私の塾では私も含め、社員査定として成績と業務のランキングを表示しています。成績ランキングは、年2回業者テストにより、1位から最下位までを発表、業務ランキングは、2年以上勤務している社員が自分自身も含めて、全員を査定し、順位付けをします。また、全教室にモニターを設置して、授業内容のチェックや互いのアドバイスに活用しています。また、3〜5人のチーム制で、細かいアドバイス・相談・協力を円滑に行えるようにしました。おかげで新入社員の成長が早いですね。

久保田 うちも研修には力を入れています。効果が出すぎ…というのは冗談ですが、学ばせすぎて能力が上がり、大手予備校のカリスマ講師、京大の博士課程、医師、大学教授などになった人材もいますよ。人こそすべて、人が財産、教育あっての経営という考えがあり、社員の成長、生徒の成長、塾の成長が揃ってこそ、良い循環が生まれると思って指導していますので、退職した講師陣とも今でもつながりはあります。人材育成とは、キャリア・適性に応じた各人の課題を与え、考えさせること、それを正しく評価することではないでしょうか。

吉川 育星舎に見学に行った際、入江先生は「短気」と感じたことがありますが、講師からの反発はありませんか。

入江 それは私よりも講師たちに聞かなければなりません。確かに短気ですね。ただ、完全な人間ではありませんが、誠実でありたいと思っています。誠実は信用・信頼を生みます。トップである私が努力するから、講師に「君たちもしなさい」と言えるのです。また成功には「勇気」も必要です。誠実と勇気を持てば、運を呼び、人を集めることができます。これはどの分野でも同じ。成功した方々は皆これを持っていると考えています。講師たちにも師弟関係としてこの秘訣を伝えています。模擬授業等も行なって研修をしておりますが、私はそれぞれの個性を重視し、努力を信じていますので、細かいことはできるだけ言いません。

吉川 皆さんのお話を伺っていますと、仕事が合わずに辞めていくような講師は少ないように思いますがどうですか。

入江 ないですね。専任講師を採用する際は、学力などの基準をクリアした人と一緒に食事をし、いろいろ話し合います。そこで、本音の私と合わない方は断られるでしょう。むやみに人を採用すれば、お互いに不幸になるだけです。

鈴木 それは同意します。会社説明会で、会社理念や自分たち社員はどう成長すべきかを伝え、かつよく見極めて採用していますので、退職者はいません。

久保田 当塾で働く中で実力をつけ、全国レベルで活躍したいと退職する社員もおりました。寂しくもありますが、喜ぶべきことだと思うようにしています。ただし今後は、成長した社員の能力も当社で生かせる部門を設け、将来に希望を持って働けるような職場にしていきたいと考えています。


生徒の成長−社会の評価−
塾が成長−生徒の成長…
このつながる循環こそ正攻法
(久保田)

吉川 さて、今回の表題は「正攻法」ということですが、具体例などがあれば、お話いただきたいと思います。まず久保田先生どうですか。

久保田 正攻法の定義は非常に難しいですね。当初は奇手と見られたものでも、時代の変化に伴って正攻法となっていくものもありますから。ただ、私にとって正攻法とは、学力の伸長を通じて、生徒の成長の一助となるという塾の一義的な目的を達成し、それが社会に評価され、塾と講師がさらに成長していく。そしてそのことが、生徒の成長につながる─という循環を維持継続していくことと考えています。一時的に有効な変則技もあるかもしれませんが、結局は長続きしません。じっくり愚直に行うことで、塾の成長としては遠回りをしたかもしれませんが、今はそれでよかったと思っています。

鈴木 久保田先生の言われる正攻法とは真逆に、他塾の評価を落とすべく真実でないことを塾生に伝える塾があります。正しいことを伝え、子どもたちの模範となるべき教育者としては言語道断の行動です。それぞれの塾が倫理的にお互いに切磋琢磨してこそ、その地域の教育に貢献できるのではないでしょうか。

入江 許しがたいですね。しかし学習塾業界は特商法(特定商取引に関する法律・昭和51年6月4日法律第57号)の対象となっているんです。この対象となった原因は、例えば中1から中3までの指導料の支払いにローンを組ませ、返金に応じないなどの悪徳商法を行う塾があったからです。この業界を知るにつれ、金儲け主義や詐欺まがいの人々の存在が少なくないことを実感しました。

久保田 本当だとすれば非常に残念なことだと思います。教育がまず第一にあり、次に経営がある。この順位を違えてはいけないと信じています。

入江 確かにそうですね。学習塾を教育産業とするならば、産業的側面を重視している塾長や経営者の存在は理解できます。ただ、経営のため、裾野を広げて入塾させ、悪い意味での競争原理の中で、生き残る生徒だけを手厚く扱い、他をふるい落とす塾は許せません。学習ギライになったり、精神的健全性を失い、子どもの将来を潰す塾です。

 また、鈴木先生の言われたように、企業を拡大するため、他塾を潰そうとする塾もどうかと思います。悪意の噂を流さなくても、急速な展開や派手な宣伝、授業料のディスカウントなどを行った結果、虚偽広告や粗製講師の乱造、内容の薄い授業などで、社会の損失を生み出します。保護者にも塾選びは慎重に、と伝えたいですね。

吉川 それでは、今後、塾を担う若い世代(講師、および塾長)へのエールをお願いします。

久保田 はい。いま語ったことは経営や運営のことですが、個々の若い講師たちには与えられた仕事を無難にただこなすというだけではなく、日々の仕事を通じて、自分の指導力全般を高めることを心がけてほしいですね。それが生徒の喜び、塾の発展、そして講師のさらなる成長へとつながります。また、塾経営を担う若い塾長は、この業界で若い人が育つ環境づくりを大事にしてほしい。塾は人こそが財産だと私は思っています。

鈴木 我々の世代だけでなく、この業界で生きている方のほとんどは、子どもたちのために努力奮闘されていると思います。ただ、その行為がどれだけ保護者の方々や子どもたちの願いと一致しているか、認められ信頼されているかを注視してください。「この塾だからこそ意欲的になった」「この塾だからこそ合格できた」と思ってもらえる度数を多くすることが重要でしょう。

入江 常々講師たちに「教育のスペシャリストになりなさい」と言っております。今の若い講師あるいは塾長は、教務の技術や運営のノウハウに走りがちです。私の拙い経験から自分をまず人間として磨き、教育者にふさわしい者になってもらいたいと願っています。


時代は変わっても
教育は人類が存在する限り
永遠に続く職域
(入江)

吉川 最後に、今後のこの業界の展望について、お話しください。

久保田 今後、日本社会は人口減をベースに、あらゆる面で減少社会に入っていくでしょう。塾は当然その影響を真っ先に受ける業界です。現在、すでに廃業や合併などが起きており、この流れは今後も当分続くものと思われます。その中で生き残れるのは「いい塾」のみです。その「いい塾」とは何か、定義することは難しいですが、自塾の存在意義を見失わず、変化に対応できる塾ではないかと私は考えております。

鈴木 確かに人口減ですね。少子化もやや下げ止まりとはいえ、まだじわじわと続いてはいます。しかし、いつの時代でもそうですが、厳しい時代だからこそ、競争意識を持ち続けることで、保護者の方々や子どもたちのために、より貢献できると思っています。そして、その競争社会がフェアなものであることを願います。

入江 時代は変わるでしょうが、教育は人類が存在する限り、永遠に続く職域です。教育界が学歴偏重・商業主義という中で人間形成という本来の機能を失いつつある今、私塾の教育に対する役割は大きいと思います。さまざまな問題をかかえるお子さんたちも私のところを訪ねてきます。教育のスペシャリストは大きく稼ぐことはできませんが、生き甲斐を持ちながら、この業界で生き残り、人生として成功することは可能だと信じています。

吉川 それでは、この中では最も若い小林さんに、今日の先生方のお話の内容に対する感想を聞いて、座談会を終わりたいと思います。

小林 皆様のお話を拝聴して、本物だけが生き残る時代になってきているなと感じました。そして本物の教育だからこそ、地域の保護者にこのような価値ある塾のことを広く伝えていく意味があるのだと改めて思います。また、皆様のおっしゃるように、さまざまな塾長勉強会などでよく話にのぼるのが、「経営が先か教育が先か」という経営と教育についての問いです。これを私はどちらが欠けていてもまっすぐには走れない、歪んでいては前に進めない車の両輪をイメージしていました。今日の先生方のお話でイメージしたことは、基礎となる心構えや考え方が大事だということです。

 我々を構築していく土台の部分が腐っていたり傾いていては、いい家=いい塾はできないということです。それを理解した上で、自塾の理念や方針をスタッフと共有できているのか、保護者と共有できているのか、さらには地域と共有できているのかということを再確認するためにも、今日のこの座談会を存分に生かしていただきたいと考えます。地域と共有するためにはチラシだけで足りていると言えるでしょうか…。

 さらに、改めて感じたことは、「常に学び続ける」という日々の努力が必要であるなということです。これは老若男女問わず、教師職に携わっている人は視野を広め、世界がどう動こうとしているのかを知り、願わくば、生徒たちに伝えていくことの必要性を感じていただきたいと思います。

 最後に、皆様方先輩諸氏から学んだことを基礎に、これから目まぐるしく変わる環境に対処し、その中で培ったことを次は皆様にお返しすることも、我々若手の仕事だと思います。

吉川 もう10年ほどになるでしょうか、少子化まっしぐらの時代が続いており、堅実に塾経営をされていた先生方も自信を失いかけています。「絶対儲かる集客システム」「人件費節減! パソコン、ネットを使った授業」などの案内に振り回されたり、「集まるチラシの作り方」などの即物的セミナーが流行り、業界全体が浮き足立ったような感じがしていました。しかし、今日のお話を聞いて、塾はやはり授業が命であり、教育者としての自覚、矜持が必要だと再確認できた気がします。

 今日のこの座談会の記事を読まれて、勇気づけられる塾長は必ずいると思います。そして塾業界に入ってこられる若い先生方へ、塾の先生はやりがいのある仕事です。授業料は子どもたちを熱心に教えたご褒美として保護者からいただいているのであり、仕事の前にご褒美はいただけません。今日のこの座談会の内容をよく読んでいただいて、塾が社会に必要とされる存在であり続けられるよう、若い先生方にがんばってもらいたいと思います。皆様、本日はありがとうございました。


対談を終えて

 対談を終え、参加者の自塾に対する今後の展開をお聞きしました。

●神戸市・久保田学園 久保田 勤氏

方針としては今までどおりですが、私の年齢もあるのでそれほど大きくしようとは思っていません。今までやってきたことのさらなる徹底を図っていきたいと思います。時代の変化に合わせて新しく挑戦していくこともあると思いますが、次の世代の人にがんばっていってほしいですね。

●和歌山市・喜望ゼミナール 鈴木 勝氏

現在はバスを10台導入し、和歌山市内の90%を通塾範囲としていますが、これ以上の塾生数増加は厳しいのが現状です。良い教育を子どもたちに提供していくためにも、既存の講師の能力アップだけじゃなく、新しい人材を確保して育成していくことが、今後の課題です。

●京田辺市・大住学園 吉川 博史氏

今の2教場で長年指導をして感じたのは、私は「教育の職人」であるということですね。生徒に指導して、理解してもらうのが本当に楽しいんです。ですから、無理はせず、うちの塾だから通いたいのだという生徒や保護者に来ていただければ、それが一番だと思います。

●京都市・育星舎 入江 篤志氏

創業者の起業家精神は、一般企業同様、塾の規模が大きくなるほど薄くなります。そのため、私は講師たちに自分自身が創業者のつもりで、そのスピリットを理解しなければならないと話しています。私が引退して自塾が消えても、独立した講師の心から私の精神が消えなければ、現在の塾の規模(いわゆる生徒数、売り上げ、利益)が広がる以上に素晴らしいことと考えています。

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