事業承継の問題点
事業承継をすすめるにあたりさまざまな問題点がでてきます。これらを解消しないと、事業承継がうまくいかないだけでなく、後々の事業運営にも支障が出てきます。その中のいくつかを挙げてみます。
現社長が現役にこだわる
多くの企業経営者、特に創業社長にみられる問題点です。自分が作った会社は自分の目の黒いうちは誰にも渡さないという固い決意です。
たとえ自分の息子や娘を社長にしても、自分は会長として口を出す院政を敷かれます。そうなると社員はいつまでも会長の言うことを聞き、後継者のいうことに耳を貸さなくなります。命令系統が定まらず、社内の混乱を招きます。
過去の成功体験を引きずる
時代が激変しているにも関わらず、バブル期の成功体験を現社長がいつまでも引きずっていることです。昔はこれでうまくいった、こうすれば売上が上がったなどです。
これを承継後も後継者や社内外の人に話すことで、後継者よりも自分のほうが偉大であると誇ります。後継者の力を信じ、これからは自分が経営してきた時代とは、まったく違う時代、違う世界だと認識しなければいけません。
現社長のカリスマ性
現社長が社内だけでなく、業界内でも権力をもっており、「あの人のいうことを聞けば間違いない」などというカリスマ性があると、後継者は苦労します。常に比較され、「お父さんは偉かった。あなたもしっかりしなければいけないよ」と無責任な他人が忠告します。
これは、現社長と同年代の人が業界からいなくなるまで続くことがあります。
業務経験に偏りがある
一方、後継者側にも問題点があります。
大学卒業後、他企業に勤めていた人が後継者になる場合、営業一筋や技術畑一筋という、経験してきた業務に偏りがある場合があります。経営者は、様々なジャンルの仕事をこなしていかなければなりません。よく営業ができるから大丈夫と起業した人が、経理を任せていた人に持ち逃げされたという例は、枚挙にいとまがありません。
コミュニケーション不足
現社長と後継者が、承継前に十分な話し合いがなされていない場合があります。
現社長がどういった思いで創業したのか。何を大切にして経営してきたのか。
後継者にはどのようにしてほしいと考えているのか。後継者からも様々な思いがあります。将来への不安、時代の変化への不安、取引先との関係など。環境の変化で事業転換や廃業を迫られることもあります。こういったことへの現社長の了解を取りつけていると、いざという時の支えになります。
現役員との心理的距離
現役員は現社長の右腕であることが多いです。後継者の幼い時を知っている人たちです。息子や娘だから社長になるのは当然と頭では分かっていても、気持ちの整理ができない場合があります。
現役員との心理的な距離をどのように埋めていくかは、承継後の事業運営には必要不可欠のことです。事業は一人ではやっていけないからです。
90歳代で承継?
次に、上記の問題点を把握した上での経営承継計画を立てるにあたっての留意点を挙げてみます。
80歳代の経営者がおられました。ご子息を亡くされて、大学を出たばかりの孫を後継者とすべく日々の仕事をしておられました。文房具店で官公庁などに文房具を納める業務と、店で実印などの印鑑を作る業務をしておられました。
事業承継について尋ねたところ、孫はまだまだ若いのであと10年くらいは経たないとできないという返事。思わず「え?」と聞き返してしまいました。この方はお元気ですが、いくらなんでも10年後から承継準備を始めるには遅すぎます。事業承継の準備には数年はかかるからです。
後方支援ができるうち
事業承継の問題点に、「現社長がいつまでも現役にこだわる」を挙げました。現社長自身が現役にこだわらずに早めに承継すると、後々起こるかもしれない問題にも双方で考えることができます。新規事業をするにも、自分が直接かかわらなくても後方支援ができます。
人間誰しも、年齢を重ねると保守的になりがちです。若い時の方が多彩なアイデアも湧き、それを実行する気力、体力、行動力があります。一度や二度ダメになっても、何度でもチャレンジすることができます。そのためには、後継者が若いうちに承継する方がいいと考えます。後継者が50歳代になってからなどは、明らかに遅すぎます。今の激変の時代についていけません。
世代格差は歴然
会社の業種、規模、社員数などにもよりますが、後継者が20歳代での承継をお勧めします。現社長が60歳代であれば、まだまだ後方支援が可能です。
60歳代と20歳代では、生きてきた時代が違うように、考え方が全く違います。現社長は、後継者の考えをじっくりと聞いてみてください。たしかに甘いところはあるでしょうが、自分では思いつかないアイデアにビックリするでしょう。それくらいでないとこれからの時代には生き残っていけません。だから若いうちの承継が最適なのです。
業務内容を洗い出す
経営承継計画には、期間計画と業務内容計画があります。いつまでに行うのかというのと、どういったことを承継していくのかということです。順番としては、業務内容を先に洗い出していくことから始めます。特に、後継者が今まで携わってきたことがない業務は、時間がかかると考えねばなりません。
中小企業の経営者はオールラウンドプレイヤーでなくてはいけません。実際には社員に任せていることであっても、内容がわかっていないと指示を出すことができないばかりか、不正の温床になります。社員がやったことであっても、責任者は経営者なので、把握することは重要です。
自分を追い込む期間計画
期間計画は、大きくは承継前と承継後があります。承継前については、中期計画(3〜5年)とそれぞれの年毎の年間計画、月間計画、週間計画、日次計画です。途中には、必ず調整期間をとっておくようにします。
事業承継は重要案件ではありますが、日々の業務に押されてなおざりにされることがあります。そのため、日次計画まで落とし込んで、自らを追い込まないとドンドンと日程が引き伸ばしになり、十分なことがなされないうちに承継してしまうことになります。
承継後の計画はおろそかにされがちですが、非常に重要です。たとえば人の問題。社員は辞めさせられたくないため、後継者の言うとおりにしようと表面上は装います。しかし、前社長と違うやり方には少なからず反発心があります。これがでてくるのが承継後です。
事業承継がすべてうまくいったように見えて、実際には端の方からほころびが出ている会社をよく目にします。最低でも承継後5年間の計画は立てておくべきです。
個性の強い塾長からの承継
学習塾では、塾長の人間性を前面に打ち出しているところが多く見られます。チラシにも塾長の挨拶、講師の紹介など属人性が強い業界です。事業承継で経営者である塾長が変わるということは、大看板を書き換えることに匹敵します。
前の塾長の個性が強ければ強いほどバトンタッチをうまくする方法を考えなくてはいけません。具体的にどうすればいいかについては、次号から述べていきます。
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