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2011/3 塾ジャーナルより一部抜粋

全国のほとんどの大手塾は
「無料集客戦略」を選択する傾向がある

  PS・コンサルティング・システム代表 小林 弘典  
     

 春の募集シーズン最盛期を迎えて、学習塾の新聞折り込みチラシが目立つようになってきました。首都圏のベッドタウンの片隅にあるわが家にも、曜日によっては十指に余るチラシが折り込まれてきます。たかがチラシ、されどチラシ。ネット時代に移っても、やはり折り込みチラシは、塾のもっとも重要な募集ツールであるようです。

 今回は、北から栄光ゼミナール(本部/東京都)、早稲田アカデミー(東京都)、中萬学院(神奈川県)、富山育英センター(富山県)、秀英予備校(静岡県)、名進研(愛知県)、志門塾(岐阜県)、eisu(三重県)、開成教育セミナー(大阪府)、若松塾(兵庫県)、明修塾(岡山県)、英進館(福岡県)、昴(鹿児島県)の計13塾にチラシのご提供をお願いしました。
文中で恐縮ですが、心より御礼申し上げます。ご協力、ありがとうございました。

 なお、次ページ以下、地域一番塾である13塾からご提供いただいたチラシを順次掲載してあります。

 さて、チラシといえば、本誌で折り込みチラシについてお話しするようになってから、ずいぶん時間がたちました。先般、ちょっと調べてみましたら、最初は1998年の7月号。毎年1回ですから、今回で14回目になります。この間ずっと、ご協力いただいた塾のチラシを、さまざまな角度からご一緒に眺めてきました。各回10数塾として、延べ200塾弱。大変な数になったものです。

 今回もまた、全国の塾にチラシの提供をお願いしてご覧いただくことにしました。ただし、今回はちょっと趣向を変えて、いわゆる大手塾の2010年冬期講習のチラシだけを収録してあります。ねらいは、皆さんにこうした大手塾のチラシに顕著に現れている一般的な傾向をしっかりと把握していただくとともに、特に地域の二番手以下の塾の皆さんには、チラシを作る際、まず何を先に考えなければいけないのかを知っていただくことです。大手塾の皆さんも中小規模塾の皆さんも、じっくりとご覧になったうえで、今後のチラシ制作に役立てていただければと思います。

チラシにはまず戦略が必要

 折り込みチラシをどう作るかという話になりますと、とかく技術論が先に立つキライがあります。例えば、どんな写真やイラストをどこに載せればよいか、どこにどんなキャッチを配置するか、どんな特典を提示するか、料金表示はどうするか、カリキュラムは載せたほうがよいのか、色は何色使うか、紙はどんなものにするのか、エトセトラ、エトセトラ……。こうした、いわばテクニックの類ももちろん大事には違いありません。が、それを論じる前に、絶対に忘れてはならないことがあります。言うまでもありません、「戦略」を決定することです。

 戦略と一口に言っても漠然としていますので、少し具体的に申し上げましょう。規模の差こそあれ、どこの塾でも業績を上げるために、さまざまな手段方法を考えているはずですが、ここでいう戦略とは、そのうちの営業、販促、集客に関する「ロードマップ案」を指しています。もっとかみ砕いて申し上げますと、どの層をターゲットに何をどう売ろうか、あるいは、誰をどういう手順で顧客にしようかという、「思惑」「作戦」と解していただければ結構です。チラシを作成する際には、まず何よりもこれを、明確すぎるほど明確に決めておく必要があります。

 というのも、これが決まっていないとチラシがボンヤリしてしまい、受け手の心に響いてこないからです。チラシは消費者に向けて書かれたラブレターとよく言われますが、ラブレターであるからには、誰に向けて、何が書かれたものであるか、ハッキリしていなければなりません。改めて言わずとも、このこと、皆さんはすでにご承知のはずです。しかし、時として、このあたりが甘くなることがありますので、もう一度、念を押しておきたいと思います。

 付け加えますと、テクニックの検討はこうした「戦略」がしっかり固まったあと、どうすればそれを具体的な形で表現できるかを考える際に必要な作業でしょう。それはむしろ、塾長や塾の企画責任者の守備範囲ではなく、広告代理店やデザイナーの仕事だといったほうがよいかもしれません。

大手のチラシは似ている?

 大手塾の2010年冬期講習のチラシを眺めていただくことにしましょう。以上の論法からいけば、大手塾には当然相応の戦略があり、チラシにはその戦略が形として現れているはずですが、一体それはなにか。それを探るために、とりあえず、文字や写真などに注意しながら、13塾のチラシをサッと眺めてみてください。

 それぞれのチラシが、かなり似ていることにお気付きでしょうか。冬期講習のチラシですから「冬期講習」という文言が大きく載っているのは当たり前として、とりわけ無料関係はほぼ共通して載っています。例えば、講座関連では、「グループ指導・受講料無料」(栄光ゼミナール)、「女子御三家の日/無料入試本番体験講座」(早稲田アカデミー)、「小2〜中2冬期講習受講料無料」「小3〜中3プレ冬期講習参加無料」(秀英予備校)、「個別/4講座とれば、1講座無料でついてくる」(開成教育セミナー)、「この冬は受講料、教材費、すべて無料です。」(若松塾)。

 テスト関連では、「無料学力診断」「無料公立中高一貫校実力判定模試」(栄光)、「(学校別)無料実戦オープン模試」「(中1・中2/年長・小1・小2)無料チャレンジテスト」(早稲アカ)。

 また、カッコいいイメージ的なキャッチコピーも目立ちます。――「4日間でうちの子が変わる。」「この冬、勉強が好きになる。」(栄光)、「こえろ限界! つかめ未来!」(早稲アカ)、「冬休みは秀英で「わかる・できる喜び」体験しませんか。」(秀英)、「キミの冬の努力が学力アップと志望校合格に直結します。」(開成教育)、「必要なものは"やる気≠セけ」(若松塾)。

 さらに、ほとんど全塾にイメージ写真と、合格実績と、コースを羅列したメニュー。

 引用は関東2塾、関西2塾、東海1塾にとどめましたが、13塾ほとんどに似たような項目が載っているのが、おわかりいただけたと思います。

地域一番塾の戦略は…

 無料講座ないし無料テスト、イメージ的なキャッチコピー、イメージ写真、合格実績、メニューのようなコース紹介。例外はありますが、13塾にほぼ共通して出てくるのはこれらです。なぜ共通しているのか。それは実は13塾のほとんどが大手塾であると同時に、それぞれの地域において、いわゆる「地域一番塾」という立場にあるからに他なりません。

 経営学を勉強された方なら、F・コトラーというアメリカの研究者をご存じだと思います。彼は市場でもっとも大きなシェアを抱えているマーケットリーダーの目標は3つあると述べています。

@ 総市場拡大…市場全体を大きくすること
A シェアの拡大…現在のシェアを拡大すること
B シェアの維持…現在のシェアを維持すること

 マーケットリーダーという言葉を地域一番塾という言葉に当てはめてみましょう。市場が大きくなって一番得をするのはトップシェアを持つ地域一番塾ですから、かれらが@を目標にするのは納得できます。また、現在は不況期で、市場が多少縮んでいますから、かれらがBはもとより、どうにかしてAで現状売上を確保したいと願うのも理解できます。

 つまりは、こうした目標を達成するために、マーケットリーダーたる地域一番塾はそろって、「無料を前面に押し立てて、塾体験のある子どももない子どもも、とにかく自塾に足を運ばせる戦略」をとっているというわけです。

 もう少し丁寧に申し上げますと、一番塾は、まだ塾に通っていない子どもたちや、通ってはいても満足していない子どもたち(あるいは保護者たち)に対し、合格実績とコースメニューを表示することによって、自塾が地域で一番質が高く、また何でもそろっていることを誇示したうえで、イメージ的なキャッチと写真とで、好印象や未来の可能性を抱かせ、今はタダだから、この機会にとにかく一度うちにいらっしゃいと声をかけているわけです。

 この戦略が最善であるかどうかはわかりません。もしかしたら、別のもっとよい戦略があるのかもしれません。が、しかし、それはこの際どうでもよいことで、今は全国のほとんどの大手塾、すなわち地域一番塾が、同じような「無料集客戦略」を選択する傾向にあることをまずは理解しておいていただきたいと思います。

二番手以下は専門化を

 地域一番塾が総じて、まだ塾に通っていない子どもたちや、通ってはいても満足していない子どもたちを対象に、無料集客戦略で迫っていることはわかりました。それでは、二番手以下の塾は。誰を対象にどういう戦略で迫ればよいのか。

 一番塾に肉薄しているような地域トップ塾グループを除けば、同じ戦略をとるのが難しいのはおわかりでしょう。合格実績に差があり過ぎますし、おそらくは建物・設備面、その他でも勝負になりません。ありていに言えば、二番手以下の塾は一番塾よりブランド力がありませんから、子どもたちが「無料だから行ってみよう」という気になるとは思えません。

 ならば、どうすればよいのか。

 わたしは「専門化戦略」を選ぶのが、もっとも賢明であろうと考えています。専門化するとは、例えば、5教科ないし4教科指導で、中学生中心、週2回ないし3回の通塾で、夕方から夜間にかけて各2時間半から3時間の指導、メインは集団指導だが、1対2ないし1対3の個別指導を併設というような、ごくごく普通の形態の塾をやめて、指導教科は単科または理数や英国のみ、指導学年は小学校低学年あるいは小学生のみ、中学生のみ、高校生のみ、目的は特定校あるいは医学科などの特定学科受験専門、特定校補習指導専門、指導日・指導時間は土日のしかも一日だけ長時間、夜8時以降のみ、あるいは毎日指導などなど、極めてイレギュラーな形態の塾にすることですが、その利点はおおよそ3つあります。

@ 消費者の「幻想」を喚起できること
A 比較的容易に成績を向上させることができること
B 価格競争から逃れられること

 まずは@ですが、いきなりの余談です。ここ10年ほど、集団指導に比べて、個別指導のほうに消費者の人気が傾いていますが、その理由を皆さんはどうお考えでしょう。わたしは塾を選ぶ際に、多くの消費者が次のように考えているからだろうと思っています。

 ――自分の子どもは、もともとアタマは悪くないのに成績はあまり芳しくない → それはおそらく、小さい頃、私が忙しくて、あまり勉強の面倒をみてあげなかったせいだ → しっかり面倒をみてあげれば、この子はきっと伸びる → ならばしっかり面倒をみてくれるところに預ければよい → それなら一人の講師が10人、15人の子どもを教える集団指導塾より、1対2か1対3で指導してくれる個別指導塾がよい → 個別なら面倒見がよいだろうから、成績は上がるに違いない。

 率直に言って、これは消費者の抱く幻想ないし、思い込みの類でしょう。個別だから面倒見がよいとは限りませんし、たとえ面倒見がよくても、だからといって、みんながみんな期待するほど伸びるとは限りません。

 とはいえ、しかし、消費者が勝手にこうした幻想を抱いてくれるのは誠にありがたい。消費者の抱く幻想や思い込みは、手に取って確かめることのできる商品の存在しないサービス業にとって、願ってもない集客誘発剤といっていいでしょう。

 「専門」という言葉にも実は同じ響き、同じ魔力があります。ちょっとこだわりを持ってなにかを買いたいと思ったとき、ご自分がどんな店を選ぶか考えれば、このことはおわかりでしょう。「専門」という言葉を冠するだけで、それなりに魅力を感じてくれる消費者が必ずいるわけですから、かれらを対象に、この言葉を強調して呼びかければ、必ず集まってくるはずです。専門化することの第一の利点です。

負の玉突きからの離脱

 二つ目の利点は、申し上げるまでもありません。専門化すればするほど、仕事の効率はよくなる、言い換えれば塾生の成績は上がる。広く薄くやっていたものを狭く深くやるようになるわけですし、また、塾が持てる資源を一点に集中できるようになるわけですから、当然のことでしょう。

 さらにいえば、塾生の成績向上という実績を積み重ねることによって、結果的にブランド力がついてきて集客が容易になるとともに、そうするかどうかは別にして、塾を拡大していく際の足掛かりになる可能性もあります。これも利点の一つとして付け加えてもよいかもしれません。

 三つ目は純経営的な問題です。少々図式化して申し上げますと、しばらく前までの塾はおよそ三層に分かれていました。一番上の層が地域一番塾とほぼそれに近いグループ、真ん中の層が地域二番手ないし三番手の中小規模塾グループ、さらにその下にいわゆる家塾グループ。月謝ないし授業料もそれぞれの層に応じて、例えば、一番塾が中学生5教科で2万円、中小規模塾が1万6千円、家塾が1万2千円という具合に自ずと決まっており、それなりにキチンと棲み分けができていました。

 しかし近頃、その棲み分けが大きく崩れつつあります。先に見たように、一番塾が無料集客戦略を導入すると同時に、通常授業の価格もまた値下げする方向にシフトしてきたからです。

 これまでならば、一番塾が下げれば二番手塾グループが下げ、二番手塾グループが下げればその下もまた下げるという方法で、何とかやりくりができました。が、これから先もそれでいけるかというと、二番手グループ以下の大半は多分もう無理、経営的にぼつぼつ限界にまで来ています。

 とすれば、この負の玉突きから逃れる道を探さなければなりませんが、その一番の早道は間違いなく専門化でしょう。なんとなれば周囲の競合、特に一番塾と同じ土俵に上っているからこそ、玉突きを余儀なくされるわけで、同じ土俵から降りて、いわゆるオンリーワンになってしまえば、競合がなくなってしまうからです。この理屈も十分おわかりいただけるのではないでしょうか。

厚い壁にギリギリと…

 折り込みチラシのお話が、いつの間にか戦略の話になってしまいました。とはいえわたしは、チラシを制作する際に欠かせないのは戦略だと思っています。これさえ決まればチラシにどう表現すればよいか、どうすれば目立つか、さらにはいつ折り込めばよいかまで自ずと決まってくると思っています。

 先に見たように、ほとんどの大手塾・地域一番塾には、まだ塾に通っていない子どもたちや、通ってはいても満足していない子どもたちを対象に、無料講座、無料テストで迫るというかなりハッキリした戦略がありました。だからこそ、かれらがとっつきやすいように紙面が工夫されています。

 しかし、残念ながら二番手以下の中小規模塾には、総じてこうした戦略が見当たりません。

 二番手以下にとって、一番塾は大きな厚い壁にたとえられるでしょう。捨て身になって体当たりしたところで、そうそう簡単に突き破れるかどうか。ならば、まずは壁のどこか一角にねらいを定め、ドリルでギリギリ穴を開けていくのが上策というものでしょう。そのもっとも効果的な方法の一つが、特定の分野に興味を示してくれる比較的少数の子どもたちに対し、うちに来れば他の塾にはないものがありますよ。と訴える専門化戦略にほかなりません。

 すでに3月です。この時点で来年度の事業内容の変更をとは申しません。すぐに夏期講習がやってきます。二番手以下の塾の皆さんには夏に一度、思い切った専門化戦略をお試しになってはいかがかと、最後にお勧めしておきたいと思います。

地域一番塾である13塾からご提供いただいたチラシ

塾ジャーナル編集部による、平成23年『気になるコピー』の発表

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