チャンバラで勝つ方法
京都一乗寺下がり松での吉岡一門と戦った宮本武蔵。相手は多勢、それに立ち向かうは武蔵一人。結果は、ナント圧倒的な武蔵の勝利に終わります。力のある大きな相手に対して、小さな力で勝利したということです。
時代劇で一人の侍が大勢を相手に戦っている時、勝てる方法があります。それは、一度にたくさんの相手と戦うのではなく、常に一対一の戦いにもちこむのです。
宮本武蔵が用いたのもこの戦法です。すなわち「一騎うち」。相手が10人であれば、一対一を10回繰り返すということです。体力の問題はありますが、一人一人の技量はそれほど差がないのであれば、勝ち目はあります。
近江商人の出店の仕方
この「一騎うち」というやり方を商売で実践したのが、商人の原点といわれる近江商人です。近江商人は、天秤棒をかついで全国各地を行商して回りました。その後、積極的に全国に出店していきました。その中で、店を出すにあたって家訓(ルール)を作りました。それは、@山のふもとに出店すること、A同業一店あるところに出店すること、B次の店は線状(例えば街道沿い)になるように出すこと。これはまさにランチェスター戦略における弱者の戦略そのものです。
なぜAのように同業一店がある場所に出店するかというと、その商売がその地域で成り立つことを実証しているということと、相手が一店しかないから差別化しやすく戦いやすいという理由からです。
焼肉レストランではどう戦う
一騎うちのやり方を分かりやすくするため、塾とは違う別の業界で見てみましょう。他業界だからこそ、冷静な目で見ることができるかもしれません。
A店は焼肉レストランをしています。その地域は、近年新興住宅ができ人口が増えてきています。そのため、大手のファミリーレストランが出店をしてきている状況です。A店も出店を考えていますが、どのようにすればいいでしょうか。
この「一騎うち」という戦略では、幹線道路沿いで、現在レストランが1店しかない場所の隣またはすぐ近くがベストな立地になります。
それは、その場所では、商売が成り立っているということ。A店は焼肉レストランなので、普通のファミリーレストランとは差別化が図れるということ。その2点が選択のポイントということになります。
一騎うち戦略の状況は
一騎うちの戦略を用いるのは、次の状況が考えられます。
@ 新規参入の場合、他社一社独占になっている市場(分野、地域、商品)を狙う、
A 新規開拓においては、他社一社独占の顧客を狙う、
B 他社と一騎うちになっている市場(分野、地域、商品)や顧客を重点化する。
右記の@とAは、拡大路線です。今の経済状況では難しいかもしれませんが、積極的に駅前や住宅地に開塾している会社があるのも事実です。Bは、現在の状況をどのように打破していくかということです。重点化するというのは、ヒト、カネ、モノといった経営資源を集中させていくということです。
一社が独占している状況というのが、出店しやすいという理由を考える際に、お客様の観点から考えると面白いことが分かります。
徐々に不満が出てくる
先程の焼肉レストランがうまくいった勝因として、もうひとつあげることができます。それまでファミリーレストラン1店だけだと、お客様には、もう少し違うものが食べたい、ちょっといいものが食べたいと徐々に不満が出てきます。
そのファミリーレストランは、いろいろなメニューを提供するため、特にどれが美味しいというのがありませんでした。そのような中での焼肉レストランの出店は、お客様が待ち望んでおられた店だったのです。
競争がサービスの質をあげる
1社独占になっていると、ウチしかないということからお客様に対して高圧的な態度になることがあります。また、安心してしまい、お客様への対応やサービスが十分にできていないまま過ごしてしまいがちです。そういったところに、お客様の不満がたまってしまいます。
自分の店しかないというのは、競争がないためサービスや商品についてレベルアップしていく意識が欠如します。競争があってこそ、お客様を大事にするし、サービスの質も向上します。
選択肢があるのはいいこと
さらには、お客様にとっても、情報が1社からしか入ってこないため、どういったところに不自由さがあるのか分かりづらいものです。比較するものがあって、はじめて不満の内容が明確になります。
そのため、新たに出店するところは、自社からさまざまな情報を流すことで、自社への陽動作戦の効果も大きく、お客様を奪取しやすくなります。
結局、1社独占になっている場合、「あそこしかないから…」「こんなものか」と選択することをあきらめているお客様が多いということです。
新しい企業は新鮮
現在のようにニーズが多様化している時代においては、1社ですべてお客様の要求に応えるということは不可能です。そのため、競争相手を深く分析し、お客様の意見に耳を傾けることで、相手が強者であったとしても、不満をもっているお客様を奪取することは、そう難しいことではありません。
長年取引が続いているということは、マンネリになっており、新しい企業の出現は新鮮にうつるものです。そこにつけ入る隙ができます。
競合塾の調査
一騎うちという戦略を、学習塾ではそのように活用できるでしょうか。新たに開塾をしようとする場合、もっとも競合となるであろう塾の近くに出すことです。その塾と一騎うちを仕掛けるのです。
徹底的にその塾について調査します。対象とする生徒のレベル、教え方、時間割、商圏、など。
生徒のレベルについては、上位レベルの生徒を集めている塾が大半です。その方が学習成果が上がりやすく、新学期の宣伝の有名学校への合格者数提示に使えるからです。しかし、各学校では、上位レベルの生徒数は全体の10%程度です。大半は中位レベルです。であれば、自塾の対象を積極的に中位レベルの生徒対象をすることも一案です。
教え方や時間割、商圏はどうか
教え方については、全体授業で行っているところと、個別指導で行っているところ。個別指導でも、さまざまな形態があります。本当に保護者や生徒本人は、そのやり方に満足しているのかも調査します。全体授業は、学校と同じなので、できる生徒は退屈になり、分からないとする生徒には不満足な結果をもたらしがちです。個別指導は、コストがかかるため、学生のアルバイト講師に頼る傾向があります。いずれも学習成果が出ていれば、保護者は満足ですが、そうでなければそこにつけいる隙ができます。
時間割は、最近の子供は何かと忙しく、野球やサッカー、クラブ活動と時間調整が難しいのです。塾からの一方的な時間割の決め方で、時間が合わないから退塾してしまうこともあります。昔のように、塾や先生の言うとおりにしますという保護者はいないと考えねばなりません。融通を利かせてほしいという不満に対処できれば、勝算はあります。
前回、商圏の決め方をお話ししました。ここで、現在の通塾生と過去の通塾生を色を変えてドットをしてくださいとお願いしました。実際にされた方の中には、発見された方がいたかもしれません。以前はたくさん来ていた地域が、今は減少している。これは、競合が積極的に宣伝を始めたりして強く出だした結果かもしれません。その地域を自塾としても積極的に攻めるのか、他地域に矛先を向けるのかを考えなければいけません。商圏が同じになる一騎うちの場合は、宣伝方法や商品での違いを出さなければいけません。
どの武器で戦う
この一騎うちの戦略は、その大前提として、自分自身のことを深く分析しておくことが必要です。どの武器でもって「一騎うち」に挑むのかということです。教え方なのか、塾長の魅力か、講師の優秀さか、商品の多様性か、時間割の融通性か。これこそまさに「価値組」学習塾の真骨頂です。 |