中部学院大学 入試広報部 部長 薫田文悟氏に聞く
「志望校検討の時から支援ができたら…」
通信制高校生への期待
岐阜県関市および各務原市にキャンパスを置く「中部学院大学」は、福祉を基盤として、幼児・子ども教育、リハビリテーション、経営分野に学部を擁する大学である。毎年通信制高校の生徒を受け入れてきたが、通信制高校で学ぶ高校生数の急激な増加に伴い、『進路指導面で協力しあえること』というテーマで、今年4月からは通信制高校と情報交換の場を定期的に設け、今後の進路指導のあり方について、マニュアル化の検討を進めている。
対“人”分野で
力を発揮できる通信制高校
「通信制高校からは短大・四大合わせて、毎年10人前後、コンスタントに入学しています。全日制、定時制、通信制、あるいは大学入学資格検定で受験をしてくる受験生でも、それぞれの個性を重視して、同じ基準で選考をするのが、本学の方針です」
1997年、『日本の、そして世界の福祉を変える専門家を育てたい』をテーマに創設された中部学院大学は、当時、岐阜県初の福祉系大学として話題を呼んだ。その後、開学時からの「人間福祉学部」に加え、「子ども学部」「リハビリテーション学部」「経営学部」などが設置され、総合大学への道をたどる。昨年度は人間福祉学部に「健康スポーツコース」、今年度は経営学部に「スポーツマネジメントコース」を新設、さらに領域を広げた学びが可能となった。
通信制高校で学んできた学生たちが、大学の根底にある“福祉”とリンクするのは、「過去の体験から、人の役に立つ優しさを学ぶこと」だと語る。
「そして無理せずに、身の丈に合わせたスピードで、元気と自信を取り戻しながら、大学での学びをマスターしていく、大学全体がそれを見守る、ということです。
通信制は、独自のカリキュラムを展開しているところが多いのです。例えば、植物を育てたり、農作業や山登りを行なったり、料理を作る…。中には、生き物を毎日観察して記録するといった地道な実践を積み重ねている生徒たちもいます。
生き物には休みがないので、根気強く、心をこめて接する。自ずと感情が移入され、接している対象が“して欲しい”と思うことを、今度はしてあげたいと感じるようになる。
『かきくけこの法則』と言っていますが、“か”は観察、“き”は記録、“く”は工夫、“け”は継続、“こ”は心を配る。通信制の生徒たちの中には、それを体験してきている生徒もいるのです。
福祉分野でも、幼児・子ども分野でも、対象が“人”であると、経過や行動を見守り、それを記録するということは、とても大切な業務です。
通信制高校を卒業というと、対“人”が苦手というイメージを持ちがちです。確かにそういった側面を持った生徒もいますが、逆に、基本的に“人”と接する能力を培って卒業してくるケースも、多く見られるのです」
さまざまな高校生の
学びの場づくり
通信制のニーズが高まる時代。本来人間は一人ひとりに個性があり、成長の速度も違う。“高校生活は16〜18歳までの3年間である”という枠の中で子どもたちを囲い、当たり前のように教育してきた。が、数年前からシステムに相容れない子どもたちが増えてきている。通信制高校の進路状況は、大学進学50%、専門学校・就職が各25%と、大学進学が半数だ。
「もちろん、通信制の中にもいろいろな生徒がいます。毎日学校に通うことからの逃避、規則を守ることは苦手だけれど、高卒の資格は取りたいという人もいます。その是非を判断するのは難しい。ある意味、大学が『管理教育』の場であることは否定できない。どこかでは、集団の中に身を置く自分と向き合わなくてはなりません。ただ、自宅学習中心だった高校生が、いきなり大教室で100人を超える仲間と講義を受けるのは、決して簡単ではありません。本学では、改めて“個”を見つめ直すと同時に、コミュニケーションのスキルアップを目的とした少人数の基礎ゼミナールを、入学時から実施しています」
“孤立”から“自立”へ、
進路指導の段階からの支援を。
「広い意味での“福祉”とは、幼児からお年寄りまでの、普段のくらしを幸せにするためにはどうしたらいいか? ということを研究する学問です。
我々は皆、本来的には通信制の生徒たちのように、スパンやものさしがそれぞれ違うはずです。幸せも人それぞれです。その人の求める幸せに合わせることができるか? 寄り添うことができるか?
これは座学だけではできない。それを研究しているのが私どもの大学です。
通信制の高校生たちの中には、どちらかといえば仲間づくりが不得手な生徒も見受けられます。また、家庭の問題を抱えていることもあります。彼らの“孤立”を“自立”にしていきたいというのが、私たちの考えです。彼らを支援することで、さらに支援できる人材をつくっていきたいと。親代わりとなり、居場所をつくり、友を作る実践の場所が私どもの大学なのです。そして、本人だけのせいではない、多くの壁を乗り越えられるよう、エールを送りたい。世の中には殿上人ばかりではないし、どんな存在も大切なのだと」
中部学院大学ではこの春から、ある通信制高校とさまざまな情報交換を積み重ねている。今後はそれを体系的にまとめていき、通信制高校と受け入れる大学側にとって、お互いの意思疎通が図れるようにマニュアル化を進めている。
「試行錯誤の段階ですが、今後の人材育成を考える上で必要不可欠ですし、必ずや彼らへのエールになると思っています。送り出す側の、同じような悩みを抱えているすべての通信制高校の先生方にも、見ていただけるものになると思います」
通信制高校のみならず、すべての人の学びの可能性を広げることに対して、力強く歩を進めている意気込みを感じた。
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