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2010/3 塾ジャーナルより一部抜粋

『モンスターペアレント』とどう向き合うか
現役教師たちの意識と葛藤

     
モンスターペアレント。この和製英語を最初に使ったのは、とある経済紙だと言われている。ところが一般使用されると一気に広がり、2008年には同名のテレビドラマが放映されるほどの流行語となった。ブーム後は静まったかに思えたが、教育委員会から見れば、保護者と学校との間の火種は、まだくすぶり続けている状態だ。 「税金を払っているから、給食費は支払い拒否」「子どもの朝食を学校側に要求」「備品(リュック・水筒など)に記名を強要され、転売できなくなったと弁償を請求」などの金銭問題から、子どもの安全を学校内で保証するために、「教室内にビデオカメラや盗聴器を仕掛ける許可を」などの要求もあると言われている。だが、このような極端な事例は一部に過ぎないのではないだろうか。公立・私立校の教員や教頭、塾の教室長といった民間・公営の壁を越えて『教育』の現場を取材することで、現在のモンスターペアレント問題を検証する。

消費者保護意識? 地域社会の変化?
保護者・教師間の問題の現実

 『モンスターペアレント』という言葉を現場教員がどれだけ使用しているかを現場の教職員数人に聞いたところ、大半から「会議などの公の場では使用していないが、同じ教員同士がプライベートで話す席であれば使用頻度は高い」との回答を得た。

「若い先生よりも、私たちと同年代の30代後半から40代前半の教員が使用していることが多いです」(41歳・公立小学校教諭)

「今の学生が『やばい』『うざい』という言葉で、いろいろなことを一括りにしているように、苦情申し立てを繰り返す保護者を指定するのに、便利な言葉としての認識があるのだと思う」(37歳・私立小学校教諭)

 大阪市教育委員会は、平成20年に作成した教職員用の『保護者からの苦情対応マニュアル』の中では、『人格否定、保護者との関係構築への意識を萎えさせる言葉』と否定しているが、それを知った上でも使う人は多い。具体例では対応しきれない事例も増えている現状では、マニュアルは万能とは言えない。となると、その注意事項まで、教員がプライベートで守ることはないのが現実だ。

 また、中学生になると、さらに問題は深刻化する。

「性行為によるトラブル、暴力や金銭的被害を伴ういじめなど、子どもたちの問題は深刻化します。それを早期解決できないのは、教員の力量のなさだと保護者から繰り返し指摘され、精神的不安定に陥って、教師を続けられなくなる人もいます。そういう場合は休職し、カウンセリングなどの治療を受けて、現場復帰を目指しますが、それも『病気のくせに辞めない、公務員は気楽だ』と、個人的に連絡を入れて、責める保護者もいるんです」(32歳・私立中学校教諭)

 だが、こういった問題は、昨日今日始まったわけではないはずだ。なぜ、今、学校を標的にする保護者が多いのか。これについて、塾勤務経験もある主婦はこう語る。

「大きな要因のひとつに、※PL法などで、消費者保護の意識が高まっていることがありますね。教育も消費物と同じで、同額を払えば同じ商品が手に入るように、定額の教育費なら全員が同レベルの習熟度や達成度になると信じている。だから、自分の子は私立大進学なのに、隣の子は国立大進学っていうのはどういうこと? となるのかと」(44歳・元私塾塾長)

 だが、たとえ給食費を支払わなくても、税金を免除されていても、子どもが同じ教育を受けられるのは当然であり、それは戦後何十年間続いてきたはずだ。それでも以前はここまで問題が紛糾したことは少ない。

 ※PL法…製造物責任法。製造物の欠陥で生じた損害を製造業者等が賠償責任を持つことを定めた法規のこと。(平成6年法律第85号/平成7年7月1日施行)製造物責任という用語に相当する英語の product liability (PL)から、PL法と呼ばれる。

「私は、地域社会の関係が薄くなったせいだと思いますね。昔は世話好きな隣人が親の不満を聞くなど、緩衝材の役目を果たしていました。それが今や、核家族化や子どもをねらった犯罪の蔓延で、保護者も自分の子育てに対する思いのはけ口がないのですよ」(46歳・公立小学校教頭)

 それならば、学校は親のストレスも引き受けなければいけないと言うことになる。それでなくとも、多忙な教員の仕事。親の精神的なケアまでは視野に入れるわけにはいかない。その点では、一学年の生徒数が少ない私学のほうが、教員の人数的にはフォローできるということか。

「確かに生徒数が少ない分、生徒一人ひとりへのフォローはわれわれのほうが細やかにできる自信はありますが、保護者のケアは、現場ではやはり難しいですね」(前述私立小教諭)

 一度問題が起きれば、学年や学校全体で対応に当たる。それは公立・私立同じなので、保護者との問題の重要さは、ともに変わらないのである。

現場教員にインターン制を教師の抱える問題を考える

 学校へさまざまな要求をしてくる親は昔からいた。しかし、モンスターペアレントと呼ばれるほど、無理難題を突きつける親はいなかったはずだ。では今、なぜこのようにクローズアップされてきたのか。

「保護者の意識も時代の流れの中で変化しています。以前は子どもの生活に細部まで立ち入り、指示したいがために学校へクレームを入れる親が多かった。それが今では、自分ができるだけ子どもとのかかわりを避けるために、学校へ無理難題を突きつける親が多くなっているんです」(前述私立小教諭)

 90年代には過保護の親が、『給食が子どもの好き嫌いに合わせていない』とクレームを入れていた。しかし現在では、『何を食べさせてもいいから、朝食やおやつも出してくれ』と言ってくる。不況と片付けるのはたやすいが、決してそれだけではない。その中には、弱いネグレクト(育児放棄)が潜んでいるのではないかと、現場では危惧しているのだ。

 では、トラブルが生まれる原因は、本当に親だけにあるのだろうか。これについて、公立校講師・塾講師・私立校教員・個人塾塾長と、教育機関を歩いてきた人に話を聞いた。

「教育関係者の多くは、在学中は教育実習、バイトは塾講師や家庭教師、卒業後は講師や教員へと、社会経験が少ないのが普通の状態です。平社員から始める会社員と違い、最初から『先生』と呼ばれ、生徒を指導する立場になる。そのために、言動が社会通念と合わない人や、本当は教員に向いていない人もいるでしょう。そういった人が引き起こす問題も一緒に『モンスターペアレント』として扱われる。これは、かなり恐ろしいことだと私は考えています」(39歳・私塾塾長)

 無論、社会通念のない人間には、免許自体が与えられることはないが、教育現場に適応できるかどうかは別問題となる。

「免許取得から現場派遣までに、インターンのような期間を設けることには賛成ですね」(前述公立小教頭)

 この意見は、教師の持つ問題も少なくないことを示しているのかも知れない。

なぜ問題が起きたか?正面から考えることが解決への道

 学校側の問題に対する対処法はどうなっているのか。全国の教育委員会では、数年前から続々と対応マニュアルが作成されている。だが、実際に問題を抱える現場では、行政の対応は遅すぎるようだ。昨年より猛威を奮い続けるインフルエンザ対策でも、地域ごとで対応が異なり、そのために「学級(学校)閉鎖が数日で解除になった学校の隣の学区では、一週間続いた」などの苦情が寄せられている。また、教育委員会へ直接クレームをつける保護者も増えており、窓口となっている担当者が体調を崩す事例も出てきている。

「担任と合わないから辞めさせろ、という親も多いですね。ただ、確たる証拠と言っても子どもの証言のみですから、そう簡単に教員を免職にできない。また、同様のクレームが他の保護者からも出ているなら対応しますが、保護者一人だけの場合、対象校への注意程度で十分ではないかと考えています」(前述公立小教頭)

 だが、それがひとりの親でも、苦情がきた以上は、学校側に責任をもって報告書を出させるべきだと、私立中学教諭は主張する。

「学校は、親が安心して子どもを預けられる場所であるべきです。それは、警備会社と契約したり、非常用のブザーを配布したりするだけじゃない。保護者が教師と信頼関係を築いて、子どもを育成する機関であるからこそ、学校は安全なのです。互いを信じられないままの状態では、何も解決しません」(前述私立中教諭)

 これも学校の規模と教員の人数では、人材不足という問題が付きまとう。

 では、保護者はどうすれば、学校側と良好な関係を築けるのか。これについて、ある20代女性教諭は、自分の経験も含めて、こう語る。

「高校時代、私は一時不登校になりました。その時に親だけでは対処がわからず、学校に原因があるのではと、毎日電話をしたそうです。当時の私の担任は、それを『モンスター』と一蹴せず、親と協力して復学への道を拓き、教職に就くという私の夢を実現させてくれました。非常識な苦情に毅然と立ち向かう姿勢は素晴らしいですが、教育者がなぜそんなクレームが生まれたのかを考えないと、親と教師の信頼関係は生まれないと思います」(27歳・公立中学校教諭)

 そう考えれば、『桜が咲いていない入学式はやり直せ』は『子どもに一生の思い出を作りたい』、『冷たい牛乳を飲ませるな』は『午後の授業を腹痛で休ませたくない』という至極真っ当な親の願いから発せられた意見と思える。すべてを無理と片付けず、互いに相手の意見を聞き、原因を考えること。この簡単な行為ができない一部の教員と保護者が作った確執を、マスコミが大きく取り上げることで成長してしまった怪物。それが、『モンスターペアレント』の本質ではないのだろうか。

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