千樹会は、塾生1,000人未満の個人塾経営者を対象とした経営研究会である。アドバイザーは、本誌「塾長のためのマンスリー・スケジュール」でおなじみのPS・コンサルティングシステム・小林弘典氏。代表幹事を、同じく本誌で「1年間で生徒数100名に!」を好評連載中の河野優氏が務めている。
勉強会は、前もって与えられた課題について、参加者が発表するというスタイルで進められる。
今回の課題テキストである『ご飯を大盛りにするオバチャンの店は必ず繁盛する』は、タレントの島田紳助氏の著書。25歳でサイドビジネスを始めた島田氏は、これまで飲食業を中心に自らの手で幾つものビジネスを手がけ、一度も失敗したことがないという。この本は、その経営哲学をコンパクトにわかりやすくまとめたもの。業界の「常識にとらわれない」発想や、顧客満足度を高めるために、まず、従業員満足度を追求するなど、独自の経営哲学は、塾経営においても学ぶべき点が多い。勉強会では、参加者が本から学んだことと合わせて各塾の課題と方向性を発表し、小林氏がアドバイスするという形で行われた。その一部を紹介する。
講師をあてにする? しない?
やぶき塾(愛媛県) 塾長・矢葺 亘さん
本の内容には共感する部分が多くありました。特に「従業員満足度」と「常識はずれを合理的に考える」「単純なコピーはオリジナルを越えない」という部分は、当塾でも比較的実現できているように思います。
例えば、スタッフに気分よく働いてもらうために、時間外手当は、たとえ1分間でも支給しています。また生徒におにぎりを配り、授業中に食べさせているのは「常識はずれ」かもしれません。
現在の塾生数は、高校生を中心に200人内外。生徒数が増えて、校舎が手狭になってきているので、現在は新規生の募集は中3生のみにしぼり、内部生を合格させるための教務に徹しています。圧倒的な教務力と生徒の合格実績が、今後の発展につながっていくと考えるからです。そのため、講師採用システムの構築にも力を入れていきます。現在は、偶然ですが、大学院卒の優秀な講師が3人揃っています。今後も「飛び抜けた塾」を目標に、さらに人材を獲得したいと考えています。
小林 せっかくマスターが3人いるのだから、基本的にマスター以外は使わないようにしたほうがよい。塾のレベルが高いから生徒が来ている。レベルが高ければ、客単価を高くしてもやっていけるはず。
やぶき塾は、教師のレベルを揃えたところに意義がある。普通なら矢葺先生の他に、二人目、三人目の講師が入ってくると質が落ちるはずだが、たまたま講師が優秀だった。うまくいっているところは、偶然か意図的かは別として、何本かの柱が組み合わさって支えている。このうち1本でも崩すと、他も崩れる可能性があるので、講師の質を落とさないようにすべき。
瀧和塾(愛媛県) 塾長・瀧山 和也さん
この本を読んでヒントになったのは、「従業員満足度を高めて、働く人の本来の力を引き出す」という部分です。
当塾でもこの点を強化したいと考えています。特に、個別指導担当の学生講師は欠勤が多く、先日は危うく授業に穴を開けるところでした。休みが多いのは、学生講師にとって当塾が「最大に楽しく、大切な場所」ではないから。というより、むしろ居心地がよくないのではないかと思います。
うちは学生講師の人数を多く抱えています。これは急に休まれると困るからです。しかし、人数が多いということは、1人当たりのコマ数が少なくなり、多く稼げません。教え方もなかなかうまくならないので、指導に自信がもてない。また生徒や他のスタッフとのコミュニケーションも不足がちになります。これでは塾に愛着を持てないのも当然です。
そこで、休みの多い講師に辞めてもらい、1人当たりのコマ数を増やすことにしました。これで、ある程度の収入は保証できます。問題はコミュニケーションの部分です。とりあえず、月に1回ミーティングを開こうと思っています。
小林 学生があてにならないのであれば、あてにしないシステムをつくらないといけない。超大手塾は、学生をどう使うかで勝負が決まってくる。中小塾は、学生をいかに使わないかで勝負が決まる。教えるのは誰でもかまわないというシステムを考えたほうがよいのでは。それに、学生を無尽蔵に集められるわけではない。募集経費もばかにならない。学生を集めたいのなら、ミーティングよりも合コンをやる。合コンはまず楽しいし、学生講師が人を呼びやすい。そこに集まったメンバーからよさそうな人間をピックアップしていけばよい。合コンは、社長が「費用を出す」と言って学生に頼んでおくと、全部セットしてくれる。募集費よりも確実に安くつく。
効率を追求すると非効率になる
芽育学院(奈良県) 学院長・角田 正之さん
著者は、本のタイトルでもある「ご飯を大盛りにするオバチャンの店」について、「『オバチャンの店に行くのは腹一杯食えるからや』と学生は言うかもしれないが、本当はみんな、オバチャンの気持ちが嬉しいのだ」と書いています。
この本を読んで、オバチャン=学院長(私)の仕事について考えさせられました。それは、社員や学生講師が満足して仕事できる環境をつくること。皆が夢をもって一生懸命働けるようにすることです。
そのためにも、社員から「ボスの妄想癖」「お金がかかるからだめ」と言われても、「こんな塾にしたい」と夢を語り続けていきたいと思っています。
例えば、卒業式をやりました。ホールを借り切り、私がモーニングを着て、生徒一人ひとりに卒業証書を渡す。本格的な卒業式です。来年は卒業アルバムもつくります。
この5年間はとにかく話題になる塾を目指しています。そのために、個別指導の塾なのに合宿があります。合宿でも個別指導ですが(笑)。夏休みの合宿は生徒30人が参加し、先生は16人がボランティアで来てくれました。
今秋から来春にかけては、新しく社員を採用して、完全週休2日制を実現したり、各教室を拡張したいと考えています。
小林 個別指導で合宿はよい方法。これから先、間違いなく塾は個別化していく。そのとき、教師と子どもとのフォーマルな関係だけでは、子どもは寂しくなる。子どもが楽しみにするような皆が集まる機会が必要。子どもが教師に魅力を感じるのはインフォーマルな関係の中。そういう意味では、個別のほうが必要かもしれない。これは保護者にもあてはまることで、個別でも保護者会を開くとよいのではないか。
め塾(大阪) 塾長・長島 宏明さん
2004年から2006年にかけて、塾の仕事を卒塾生のスタッフに丸投げしていたため、生徒数が激減してしまいました。そこで再び、私が本腰を入れて、取り組み始めました。マーケティングを勉強し、コンサルタントを入れて、効率よく生徒を集めることにしたのです。チラシの反応率をチェックし、キャッチコピーを工夫しました。
その結果、チラシを打つと生徒が来ました。ところが、その後ばらばらとやめてしまう。なぜ生徒が定着しないのか? 悩んでいるうちに経営が苦しくなり、昨年から個別指導も始めました。それで何とか持ちこたえましたが、劇的な改善というわけではありません。
これまで私は、自分の時間をつくるために効率よくしたいとか、自分中心だったと思います。昨年、ある人から「お客さんに満足してもらわなければだめだ」と教えられました。それは当たり前のことだと、頭ではわかっていたのですが……。
どうしたらお客さんに満足してもらえるか。ずっと考え続けて、細かいことの積み重ねだと気付きました。それからコツコツとやってきて、塾の雰囲気が少し変わってきたように思います。
ところが、信頼していた卒塾生のスタッフ3人が、今年になって次々と辞めていきました。大ピンチです。そんなときにこの本を読み、スタッフと私は、師弟関係のままだったこと、彼らが仕事に満足していなかったことに気付かされました。
これまでの反省を踏まえ、今秋から実行したいことは、スタッフの幸せとは何かを考え、コミュニケーションをとる時間を増やすこと。また保護者には、生徒の学習状況をより具体的にわかりやすい形にして報告するようにします。
小林 教育という商売は、絶対に合理的に考えてはいけない。効率よくしようとすればするほど非効率になる。人を育てるということは非合理なもの。一人ひとりの子どもは皆違う。同じように対処してしまうと、その子の人間性が失われてしまう。手間をかけなければいけないところは、とことん手間をかけなければいけない。だから非合理でかまわない。そう気付くと気が楽になると思う。
この後、参加した塾長全員の発表が続いた。最後に、会場を提供した飛翔学舎の長井邦良塾長と、代表幹事の河野氏(開進スクール)が発表した。
長井氏は、「従業員満足度を高めるために、ニュースレターづくりなど、塾運営に参加してもらう。現状は10数人のスタッフが仲良く働いてくれているが、組織としては成り立っていない。今後どうしていくべきか考えたい」と、自塾の課題について語った。
河野氏は、本から得たヒントとして、「会員制薄利多売のフォークソングバー」の逆転発想を挙げた。「大手塾と直接ぶつかっても勝てない。だから逆張りする。それが『死んだもの探し』。いま流行っていないものを探す」と述べたうえで、塾の立地条件により特化型と汎用型のどちらが適しているかを解説した。
午後1時に始まった勉強会は、8時半に終了。この後は会場を移して、懇親会が開かれた。参加者たちは心地よい疲れと充実感を味わいながら、仲間同士の交流を楽しんだ。 |